研究目的
仮想的な物体に触れた感覚などの反力(力覚)を提示する力覚提示装置は手術などの遠隔操作やエンターテイメント等の幅広い分野で活用され、直感性に優れた操作を実現します。しかし、従来装置は、モータで駆動するため硬い物体から柔らかい物体まで幅広く提示できず、予期せぬ外力に対し応答が遅れる安全性の低い装置でした。そこで、構造的に柔軟・安全で、幅広い剛性(硬さ/柔らかさ)変化域を持つ空気圧人工筋肉と、安全装置としてMR流体クラッチを採用した新装置を提案します。
近年、少子高齢化に伴い、造船業の溶接熟練者の人口減少による溶接技術指導者の不足が問題となっています。しかし、船体溶接の多くは人の手で行われており、産業用ロボットによる機械化が困難な状況です。さらに、熟練の溶接技術者になるには約3年と、長い時間がかかります。そこで現在、溶接教育を目的とした溶接アシスト装置の開発が行われています。既存研究にはVRを用いた溶接の疑似体験装置が存在していますが、これは実際の溶接で生じる反力を再現できないというデメリットがあります。そこで、本研究では実際の溶接現場で溶接教示を行うことを目的とする溶接アシストデバイスの開発を行います。
従来のリハビリ装置の多くはモータによって駆動されています.モータによるアシストは高精度な動きが生成できる一方で,理学療法士のような柔らかいアシスト動作には不向きです.
そこで,生体筋と似た特性を持つ空気圧人工筋肉を用いたリハビリ装置を開発しています. 試作した手首用アシスト装置「Te-noby」は,簡単な構造でありながら手首関節に対して柔軟かつ十分な運動を提供できることを確認しています
近年、歩行や走行・跳躍といった人間のダイナミックな運動機能をアシストするアシスト装具の研究・開発が盛んに行われています。しかし、高剛性アクチュエータでは必要な高出力を得るために装置重量の増加し、低剛性アクチュエータでは高出力を得ること自体が難しいといった問題点がありました。
そこで本研究では、軽量・柔軟・高出力な空気圧ゴム人工筋肉を採用し、ブレーキを併用した跳躍手法を用いることでこの問題点を解決しようと考えました。また、人間の筋肉に対して直列な要素を極力使用しない構造にすることで、「人間の運動機能の拡張」を追求します。現在までに、装具のモデル化と低出力範囲での主観評価を行うための簡易跳躍装具を製作しました
近年、自動化困難な介護現場や製造業では腰に負担のかかる作業が多く、腰痛持ちの労働者が多く存在します。この問題を解決するために、人体着用型のアシスト装具が数多く開発されています。しかし、一般的なアシスト装具は高剛性で高重量なものが多く、人間の動作が制限されるという問題がありました。そこで本研究では、安全面を考慮した空気圧で駆動する柔軟で軽量かつ、大きな補助力を持つアシスト装具の開発を目指します。
重量物の持ち上げといった、腰部への負担の大きい作業を含む業務においては、腰痛を持つ労働者が多く存在します。この対策として、厚生労働省では主に膝の伸展を利用する Squat Lifting という持ち上げ手法を推奨しています。しかしこの手法は代謝面で非効率的であり、現場の労働者には好まれていません。そこで本研究では、Squat Lifting の作業負荷の軽減させる下肢用アシストスーツの開発を行い、Squat Lifting の一般化による腰痛予防を目指しています。
研究目的
ソフトグリッパは多種品目の把持を実現するエンドエフェクタとして研究を進めています。空気圧で駆動するソフトグリッパは空圧由来のコンプライアンス特性によって把持物体の形状になじんだ把持が可能です。これによって壊れやすい卵や潰れやすい果物をやさしく把持することができます。一方で、一般的なソフトグリッパは高重量物の把持には向いておらず、指の数を増やすなどの工夫が必要でした。本研究ではソフトグリッパに柔軟外骨格を採用してグリッパに異方性を付与することで、従来のソフトグリッパのメリットを生かしながらも、高重量物の把持を実現することに成功しました。この成果は農業や三品業界など多種品目の把持が必要とされる現場への応用が期待されています。
PneuFingerによる把持の様子(左上:ミニトマト、右上:果物、左下:洗剤容器(1kg)、右下:布)
人の生活環境にロボットが普及しつつあります。そのようなロボットの中で、人と社会的なインタラクションをするロボットが開発されており、接客や介護の分野への応用が期待されています。これらのロボットは言語や表情、ジェスチャーなどを通して人とコミュニケーションを行いますが、身体的なインタラクションを伴うコミュニケーションは行っていません。より発展的なインタラクションには、身体的なインタラクションが不可欠であると考えます。しかし、モータと減速機を用いる既存のアクチュエーションは、バックドライバビリティに乏しいなど課題が存在します。加えて、モータによる角度やトルク制御による駆動は、粘弾性を変化させながら駆動する人の関節とは動作方法が異なるため、違和感が避けられないと考えます。そこで本研究では、人の関節のように関節角度やトルクだけでなく粘弾性も変化させながら駆動することで、弾性として人工筋肉と粘性としてMRブレーキを用いて自然なインタラクションを行うロボットの開発を目標とします。
― MRブレーキで人工筋肉マニピュレータの振動抑制! ―
研究背景
人工筋肉は軽量で高出力、かつ柔軟という特徴を有しています。 そこで、本アクチュエータをマニピュレータに適用することで、 人間との接触に対し安全性を確保しようと考えました。
しかしながら、柔軟性(バネ特性)をもつが故に、高負荷に対し挙動が振動的になってしまうという欠点を有しています。 また、従来の人工筋肉マニピュレータは空気圧によって動作するため応答が遅く、 瞬間的な力に限界があります。これらの欠点により、物体保持や持上動作ではアームに制御不能な振動を生じ、 安定しにくいという問題点がありました。
そこで、本研究ではMR流体を関節に適用した1自由度人工筋肉マニピュレータを提案し、 物体持上・保持動作でのMR流体によるアームの振動抑制を検討しました。
MR流体
本研究ではMR流体(図1)に着目しています。MR流体は磁場を与えることにより、 高い応答速度(ミリ秒単位)で見かけの粘性を可逆的に変化させる機能性流体です。 本流体を人工筋肉マニピュレータの関節部に適用することで、 空気圧では成しえない高周波領域での角度制御を実現します。
MRブレーキ
本研究ではMRブレーキ装置としてLORD社のMRB-2107-3(図2)を使用しています。 本装置はMR流体を内部のディスク部周りに配置し、 磁場の変化に伴いディスク部表面の粘性摩擦を変化させます。 その結果、回転動作に対し連続的にトルクを制御することができます。
図1 MR流体の概要
MRブレーキ搭載型人工筋肉マニピュレータ
本研究で製作した人工筋肉1自由度マニピュレータの全体図を図3に示します。 人工筋肉マニピュレータは、2つの人工筋肉が拮抗する形で配置されており、 プーリを介して人工筋肉の収縮力を回転軸に伝達する機構となっています。
MRブレーキ装置は第1リンク側に固定されており、 これにより回転軸にブレーキを掛けることが可能です。 また、本マニピュレータは関節角度を検出するためのエンコーダと、 リンク先端にかかる負荷検出のためのひずみゲージを搭載しています。
図3 MRブレーキ搭載型人工筋肉マニピュレータ
持上実験
物体持上実験の実験結果(図4)より空気圧制御のみの場合、 人工筋肉のばね特性と高い外乱トルクによりアームが振動しています。 しかし、MRブレーキを適用することでアーム停止時の振動抑制を確認しました。
保持実験
物体保持実験の実験結果(図5)よりブレーキをかけない場合、 重りの負荷によりアームが落下し振動しています。 それに対し、MRブレーキを適用した場合、アームの落下と振動の抑制を確認しました。
図4 持上実験
図5 保持実験
機能性流体を用いた柔軟関節マニピュレータ
卵も割れない驚異の緩衝能力を実現!
現在,産業ロボットを初めとした従来のロボットシステムは隔離された環境で作業しています。 しかし、医療・福祉の分野では人間とロボットの自動化における協調活動が期待されているため、人間に対する安全性の確保が強く要求されています。 一方、機能性流体として注目されているER流体は、電場の印加により,その粘性が可逆的に変化するような流体です。 マニピュレータは、アクチュエータによる駆動関節とER流体を用いた受動関節をリンク上に配置されています。 これにより、作業中に人間とロボットが衝突した際、関節が折れ曲がることによって衝突力を緩和し、かつ人間に対する接触力を緩和しつつ作業をすることが可能となります。 そこで、本研究では対人衝突時の安全性を考慮したER流体を用いた柔軟関節マニピュレータを開発します。
ER流体とは
ER流体(Electro Rhological fluid)とは、電場を印加することにより、その粘性を数ミリ秒のオーダーで電気的に可逆的かつ連続的に変化させる効果(ER効果)を示す機能性流体の一つです。 本研究ではER流体をブレーキの作動流体として使用しました。
空気圧緩衝材
ロボットが対人衝突をおこす際、人間に機械的損傷を与えてしまいます。 それを防ぐため、本研究では緩衝材をアームリンク全体に覆い、衝撃力緩和を目的としています。 緩衝材は中空円筒型で、内部の空気の弾性を利用して耐衝性を得ることができます。 また、緩衝材の空気封入口に圧力センサを取りつけることで、広範囲での接触検知能力を有したセンサの役割ももちます。
ワイヤ型人工筋肉の開発およびロボットハンドへの応用
研究背景
近年、医療・介護ロボット、ヒューマノイド等のロボットが人間の生活環境に進出し、人間とロボットが接触する機会が増えています。 そのため、人間との接触時の安全確保や人との協調作業を行うロボットハンドは、軽く、構造が柔軟なことが望ましいと考えられます。 ロボットハンドは、その駆動方法により、各関節にアクチュエータを内部に設置するアクチュエータ内蔵型とハンドの外部にアクチュエータを配置し、 ワイヤを介して駆動させるワイヤ接続型に分類されます。前者は、モータを内蔵しているため重く、関節の剛性を変化できません。 また、後者はアーム部の運動に影響を受けるため構造が複雑になるという欠点があります。 そこで、本研究では、軸方向繊維強化型ゴム人工筋肉を細型化したワイヤ型空気圧ゴム人工筋肉を開発しました。これをアクチュエータとしてハンドに内蔵したロボットハンドを開発しました。このロボットハンドには、他のロボットハンドに比べ、軽量、関節が柔軟、機構がシンプル、駆動系に大きなスペースを要しないという利点があります。
ワイヤ型人工筋肉
本研究室で研究されている人工筋肉を細型にしたものを開発しました。内径は1~2.5[mm]と既存の軸方向繊維強化型人工筋肉(内径14[mm])に比べ小さくなっています。細くなっていますが最大収縮率は30[%]前後を実現しています。最大膨張直径は約11[mm](内径2.5[mm]時)となっています(図1)。
図1.圧力特性のグラフ
ロボットハンド
ワイヤ型人工筋肉を屈曲(指の曲げ)、伸展(指の伸ばし)に使用します。各関節に屈曲・伸展のために2本ずつ配置しています。関節の内部はスライダクランク機構になっており、人工筋の収縮運動(直動運動)を指の屈曲伸展運動(回転運動)に変換します。人工筋肉を2本配置することにより、関節の剛性を高めることも可能です。
図2.ロボットハンドの外観 図3.ハンドの機構