バイオロボティクス>
ミミズを規範とした蠕動運動型ロボット
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ミミズを規範とした蠕動運動型ロボット
ミミズは「蠕動運動(ぜんどううんどう)」という運動によって移動しています。
蠕動運動とは人間の食道や腸などにも見られる運動で、縦波の伸縮波を一定方向に進行させることによって、対象物を移動させることができる運動です。
ミミズは約150の体節から成り立っていて、縦走筋と環状筋という2つの筋肉層を使ってこの体節を「細く長く」「太く短く」することができます(図1).
ミミズが蠕動運動により前進する様子を図2に示します。ミミズははじめに頭部の体節を収縮させ、この収縮を順に後方の体節へと伝播させながら頭部の体節を伸長させていきます。このとき収縮した体節と地面との間に摩擦が発生し、伸長した体節が前方に伸びるための反力を得ることができます。
この収縮と伸長の繰り返しにより縦波後進波が発生し、ミミズは前進することができます。
図1 ミミズの筋肉層
図2 ミミズの蠕動運動による移動
この蠕動運動には、以下の3点のメリットがあります。
① 移動に必要な空間が他の移動手段(たとえば、歩行、車輪走行、蛇行等)に比べて最も小さい(図3)。
② 周辺環境に対して接地面積を大きく確保することができる。したがって、安定的な移動と大きな牽引力が得られる(管内の登攀等も可能)。
③ ミミズの内部は食道になっており空洞である。したがってその空洞部に既存のカメラやメンテナンス装具等を出し入れすることが可能となる。
以上より、この運動様式を利用としたロボットを開発すれば、人間や他のロボット機構では入り込めない細管内や不整地、地中などでの移動が可能となり、レスキューや医療、細管検査、極限探査等の分野での適用が期待できます。
図3 様々な移動様式
当研究室では、このようなミミズの蠕動運動を模倣した様々な用途のロボットを研究しています。
一部を以下に紹介します。
これまで月では、航空宇宙開発機構(JAXA)のかぐやによる探査など、様々な環境調査が行われてきました。しかし、いまだに月の地中探査は行われていません。月の地中に環境探査機器を埋没させると、これまでの調査では採取することが難しかった様々なデータを収集することができ、惑星の起源解明の手助けになります。また、月の地中資源を採集することは、人類の更なる宇宙進出につながります。これらの様な調査を有人探査で行うのは安全面・コスト面ともに非常に困難なため、無人地中探査可能なロボットが求められています。
これまで開発されてきたロボットは、ロボットの側面を掘削孔の壁面にこすりながら推進するために土圧の影響を受けやすく、到達深度が浅いという問題がありました。そこで、本研究ではロボットの推進機構としてミミズの蠕動運動に注目しました。ミミズは“体の節を膨張させて掘削孔の壁面を把持し、同時に他の節を伸長させる”という動きを伝播させていくことで推進します。この移動手法では、ロボットの側面を掘削孔の壁面にこすることなく移動します。このため土圧の影響を受けにくく、土の中を深くまで進んでいくことができます。この特性を活かして、地中深くまで調査することができるロボットを開発することが本研究の目的です。
近年、地球温暖化が進行しており、北極海の海氷の融解が地球全体の気候に大きな影響を与えると言われています。しかし、まだ北極海の海氷北極海の海氷下の調査は十分に行われていません。
現在調査に使用されている探査機には、通信が海氷にさえぎられて、探査範囲が狭いという課題があります。そこで、私たちは、海氷掘削ロボットを導入した海氷下探査システムを提案します。掘削ロボットを用いて探査機の通信をさえぎっている氷を掘削し、探査範囲を広げることが目標です。
海氷の掘削方法として、ミミズの蠕動運動に着目しました。ミミズの体は無数の節に分かれており、体の節を膨張させ把持し、他の節を収縮する動きを頭部から順に後方に伝播させることで、推進します。この運動には移動に必要なスペースが少ないという特長があります。この特長を活かして掘削を効率的に行うことができます。
実地実験などで得たデータをもとに、現在掘削ロボットの開発を進めています。
近年のレアアースやメタンハイドレードのような海底での資源の発見によって,海底下探査の重要性が注目されています.現在,海洋研究開発機構では海底下を自由に掘削して探査を行うロボットによる,海底下探査の低コスト化・高効率化が検討されています。これらの目標を達成するために、自力で海底下を自由に掘削することのできるロボットの開発が求められています。
そこで、私たちは地中の生物であるミミズから発想を得た掘削ロボットを開発して,海底下探査を行うことを目指しています。
海底下探査ロボットは、深海の環境に適応するために油圧を動力とした機構でミミズの動きを再現した推進機構と土砂の掘削・運搬を単一に行えるアースオーガの掘削機構の主に二つの機構から構成されています。
老朽化した下水管は、道路の陥没を引き起こす要因となっており、平成18年度には約4000件の道路陥没事故が報告されています。 このような陥没事故を未然に防ぐためには、配管の内部を事前に検査し、補修や交換の是非を検討する必要がありますが、従来の検査ロボットでは、「小径」「複雑な曲がり」「長距離管」の十分な検査ができませんでした。
そこで、狭い空間を安定して進むことができるミミズの蠕動運動と、小さくても大きな力を得ることができる空気圧ゴム人工筋肉を組み合わせることで、あらゆる下水管の検査を目的としています。
◇ 25A管用ミミズロボット
◇ 15A管用ミミズロボット
現在,配管は家庭や工場などで水やガスを輸送するために使用されています。しかし近年、配管の破損や腐食が原因で、配管事故の発生や輸送流体の安定した供給が困難になる問題があります。このような問題を未然に防ぐために配管の検査が必要不可欠となっています。
配管の検査には工業用内視鏡が広く使用されています。しかし、内視鏡は細く複雑に入り組んだ管内や長距離配管を検査することが難しい状況です。これは、内視鏡が管内でたわみ、後ろからの押し込む力が前に伝わらなくなることが原因です。
この問題は、内視鏡に自走機能を持たせることで解決できると考えました。そこで、本研究では特に管径が細く検査が困難である15A配管(管内径約16 mm)、25A配管(管内径約28 mm)に着目し、これらの細管を対象とした内視鏡ロボットの開発を行います。そして、開発したロボットを用いて複雑に入り組んだ細管内を奥深くまで検査することを本研究の目的とします。
◇ 25A配管ミミズロボット
◇ 15A配管ミミズロボット
人力による電線管への通線作業では、施工に大きな力が必要になるため作業者の身体に大きな負担が生じます。また電線管が設置される天井裏などの暗所、高所や狭所における作業では施工作業時に危険が伴います。そこで、本研究では電線管への電線施工をロボットにより自動化することで、安全な電線施工の実現を目指します。