ソフトアクチュエーション>

軸方向繊維強化型人工筋肉

概要

本研究室では高出力で高寿命な人工筋肉の開発を目指し、軸方向繊維強化型空気圧ゴム人工筋肉を開発しています(図1)。本人工筋肉はゴムチューブに軸方向にひきそろえた補強繊維を内包させた構造になっています。このゴムチューブに空気圧を印加すると、半径方向には膨張しますが、軸方向には補強繊維の拘束により膨張することができません。その結果半径方向に膨張した分だけ、軸方向には収縮します。その際の収縮力をアクチュエータの出力として利用することができます。

図1 軸方向繊維強化型人工筋肉の構造

従来も同様に軸方向に繊維を挿入したアクチュエータは存在しましたが(ワルシャワ型等)撚り繊維を分散的に挿入したに過ぎませんでしたこの方法では高圧印加時などに応力集中が起き破壊しやすくなるとともに大きな収縮力を得ることが難しくなります

本研究室では「マイクロ繊維」を「層状」に配置することでワルシャワ型の応力集中の問題を解決した軸方向繊維強化型人工筋肉を開発しています図2に従来型と提案型の人工筋肉の断面図を示しますマイクロ繊維を層状に配置することで応力集中が発生せずチューブ全面にわたって均等に圧力が分散されますそれにより人工筋肉は美しい 円形形状を取りながら半径方向に均等に膨張しますこれまでワルシャワ型人工筋肉のボトルネックとなっていた半径方向の大きな膨張や軸方向からの外力に対してゴムや繊維の負担が著しく軽減されましたこの効果はアクチュエータとしての安定した動作や高出力化長寿命化に寄与するのみでなく後述の膨張変形機能を積極的に利用した蠕動運動機構への応用の可能性を広げました

2 ワルシャワ型と提案型の人工筋肉の断面図

軸方向繊維強化型人工筋肉は,自然長における形状(長さと直径の比)が同じ場合大半の形状において同圧印加時のMcKibben型人工筋肉よりも高い収縮力および収縮量が得られることが理論,実験の双方の観点から検証されています

一例として3にそれぞれのゴム人工筋肉の形状(太さ:10mm厚さ2mm長さ180mm)を一致させた場合の圧力-収縮率特性および自然長時の圧力-収縮力特性ついての実験的な比較を示しますなお,膨張時は膨張径がおおよそ同等となるよう軸方向繊維強化型人工筋にはリングが挿入されていますこの図より軸方向繊維強化型人工筋肉が収縮率および収縮力において優れていることが示されています

3 McKibben型と軸方向繊維強化型人工筋肉の収縮特性比較

また本人工筋肉は目標の仕様(収縮力・収縮量等)に基づき形状や材質(太さ長さ厚さゴム材料)を自由に設計することができるとともに、その正確な位置や力・剛性も容易に制御することが可能です。さらに、本人工筋肉の「半径方向への膨張及び軸方向への収縮」を生かすことにより従来のアクチュエータでは実現困難であった運動を引き出すことが可能となりソフトロボティクスの可能性を広げることができます具体的にはミミズや大腸の蠕動運動を模倣したロボットの研究開発などを行っています

軸方向繊維強化型人工筋肉の長寿命化について

収縮特性に優れた軸方向繊維強化型人工筋肉ですが原理的にゴムの大変形を利用しているため疲労寿命が短いという欠点がありましたそのため当研究室では人工筋肉の長寿命化に取り組んでいます

L/D比の変更及び伸張結晶化特性を利用した高寿命化

L/D比の変更及び伸張結晶化特性を利用することで、通常は数千回程度であった疲労寿命が数十万から100万回程度となり約100倍の長寿命化に成功しています。本内容は国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)よりプレスリリースされています。

https://www.nedo.go.jp/news/press/AA5_101253.html


①L/D比の変更による寿命への影響評価 

人工筋肉の内径Dと稼働部長さLの比(L/D比)を変更することで、変形形状が変化しゴムにかかるひずみも変化します。そのため、L/D比を変更した際の疲労寿命の評価をしました。試験結果を図4に示します。図からL/D比を小さくすると疲労寿命を向上できることがわかります。詳細は以下論文をご覧ください。

“軸方向繊維強化型空気圧ゴム人工筋肉の長寿命化のための材料とアスペクト比の検討”、日本機械学会論文集、Vol.84、No.857(2018.1)

図4 L/D比を変更した際の人工筋肉の疲労寿命試験結果


②天然ゴムの伸張結晶化特性を利用した長寿命化 

本研究では図5に示すようにゴムの伸張結晶化特性に着目し結晶層により亀裂の成長を阻害し軸方向繊維強化型人工筋肉の長寿命化検討をしました

図5 伸張結晶化による亀裂伸展阻害モデル

与圧印加による人工筋肉の寿命評価  

伸張結晶化による軸方向繊維強化型人工筋肉の長寿命化効果を確認するために耐久性試験を実施しました。試験結果を図8に示します。図より通常駆動では天然ゴム(結晶性有)及びスチレンブタジエンゴム(結晶性無)で寿命に大きな差は見られませんが、天然ゴムでは与圧駆動(結晶化を利用した駆動方式)とすることで通常の100倍程度の長寿命化を図ることができました。詳細は以下の論文をご覧ください。

“天然ゴムの伸張結晶化を用いた軸方向繊維強化型空気圧人工筋肉の長寿命化”、日本フルードパワーシステム学会論文集、Vol.50、 No.2、(2019.11)


6 通常駆動及び与圧駆動による耐久性試験結果