第29回 心の成熟

人は、精神を持っています。

精神は、広大な潜在(せんざい)意識の領域と、

その一部が顕在(けんざい)化して、

自分の認識が可能になった意識の領域から出来ています。

意識の領域は、意識回路によって作られています。

意識回路を、情報が廻(めぐ)ることによって、意識が生まれます。

意識回路は、五感の情報や、本能的な欲求や、感情、

知識や経験などの記憶、知性などが渦巻き、ごったがえし、

その中で意識は、観念としてまとめられ、形成されます。

意識は、意識回路に発生した問題と、ストレスを解消しようとします。

意識が、他から強い感動や爽快(そうかい)感を受けたとき、

そこに他と協調する観念、他を尊重する観念である「慈愛(じあい)」が

生まれます。

意識の中の「慈愛」を持った領域、

それが「心」であると、前章で述べてきました。

「慈愛」は、環境を愛することです。

「愛する」ことは、対象を尊重することです。

対象に媚びたり、屈(くっ)したりすることではありません。

対象のもつ、大きな道理の流れを尊重し、その流れを妨げず、

協調することです。

そのためには、「心」の成熟が必要です。

「愛する」ためには、「心」の成熟によって得られる能力が必要です。

「心」の成熟によって、快楽や安堵(あんど)が得られるわけではありません。

「心」が成熟し、能力が広がるということは、

たとえば、耕す畑が広がるということと同じです。

収穫も増えるけれど、管理する範囲も増えます。

喜びも増えるが、苦労も増えるということです。

能力が広がり、能力が高まるということは、そういうことです。

人は、環境を変えることが出来ます。

これは、意識回路の意識野が、仮想認識という働きによって、

分析、推理、創造を行うことが出来るようになったからです。

意識野は、それゆえ論理的に働き、

意識に巻き起こった観念に、整合をもたせようとします。

他と協調しようとしようとする「心」の成長は、

その意識に、「自己秩序」の形成、やがて「環境秩序」の形成を

望むようになります。

それは道理を守ろうとする、「心」の働きです。

そして、それが「プライド」となります。

真の「プライド」は、欲望のままの自己顕示や虚栄(きょえい)心とは違います。

「慈愛」は、対象が持つ大きな道理を尊重することでした。

そして「プライド」は、環境を含め、自分に関わる大きな道理を守ることでした。

秩序正しくすることは、道理を守るための最も有効な手段ですが、

道理を守るために、現状の秩序を壊さざるを得ないときもあります。

秩序は決して固執(こしゅう)されるべきものではありません。

秩序は絶えず、改築されなければならないものです。

固執すべきは、道理です。

道理は導きだからです。

道理は人を、未来へ導きます。

人を爽快な未来へ導くのです。

道理に逆らってはいけません。

たとえどんな権力に脅(おど)かされても、欲望に誘われても、

断固拒否すべきです。

どんな存在にも媚(こ)びて、気に入られようと尻尾を振ってはいけません。

どんな攻撃にも耐え抜くべきで、許しを請(こ)うてはいけません。

誠意は尽(つ)くしても、道理を曲げてはいけません。

それが「プライド」を守るということです。

「プライドのシステム」です。

「心」が成熟すれば、「プライドのシステム」と「慈愛のシステム」が生まれ、

それが、あなたを強くします。

道理は、自然を越えた大局(たいきょく)です。

自然は、生命神を生み出し成長させました。

道理は、生命神を成熟させ、志向へ導きます。

生命神は、道理にもとづき、あなたのもとへ、

自分を含めた心ある人を導きます。

心ある人との共鳴は、大きな幸福です。