第5回 自己秩序

人は意識という機能を手に入れたため、

いくつかのの喜びと、多くの苦しみを受けることになりました。

慰安、快楽、尊敬、満足、豊かさ

若さ、健康、誕生、出会い、協力、

疲労苦、不快苦、劣等苦、不満苦、貧乏苦

老苦、病苦、死苦、別離苦、孤独苦

これら生きる喜びを得、生きる苦しみを軽減(けいげん)するため、

生命神は、四つの構造を、人に与えました。

すなわち「生きる力」を与えて、さらに大きな「生きる力」を生み出す、

四つの構造を与えたのです。

 

一つ目は、基本的な生命維持構造です。

これは、第2回のところで述べた「四つの系統と四つの流れ」によって

成り立っています。

免疫(めんえき)機能:白血球、リンパ液を中心にした、外敵内敵排除機能です。

自己修復機能:主に血液の栄養分補給による、細胞の活性、再生、

成長などの、代謝機能です。

自律調整機能:ホルモン液、神経による、細胞、組織、器官の

反応機能です。

行動効率化機能:生物は、たえずエネルギーの消費を節約しようとします。

全身の細胞、組織、器官が、そのような働きをします。

                                      全身の調和をはかります。

 

二つ目は、本能による行動構造です。

認識・記憶野により、ものごとをパターン認識し、それが何であるかを

理解します。

欲求野により、そのものごとが自分にとって、快楽であるか、

不快であるかの判断を行います。

感情野で、その判断の基づき、ホルモン液を分泌して、

全身への行動を指示します。

そしてこれらで欲求の実現を目指すとともに、

群れとの調和も図ります。

人は、群れで生きる動物だからです。

自分の存在を群れでアピールし、群れでの優位な立場をとらせようとします。

また危険を避けるため、行動を共にして、群れに埋没(まいぼつ)させようとします。

他と競争させたり、他と協調させたりして、

ものごとの達成を望みます。

 

三つ目は、人にだけ与えられた意識野による思考構造です。

これは、生命神の直接の干渉(かんしょう)は行われません。

自尊心(じそんしん)や、達成欲求、秩序欲求などが起こります。

そして四つ目は、高い意識レベルによる精神構造です。

生命の維持を目的とする、「自己秩序」の完成を目指します。

上の三つの構造との、調和のとれた補完(ほかん)作用を目指し、

そして自分をとりまく、「環境秩序」の形成を目指します。

生命神は、これら上記の構造で「生きる力」を与えて、

人の生命を、喜びに導き(リード)、攻撃から守り(ガード)、傷を癒します(ヒール)。

人は、心を持っています。

心は、次のような「意識回路」から出来ています。

第3回で述べたように、ものごとを認識して反応する仕組みが、

人まで発達して、認識・記憶野―欲求野―感情野―意識野の

サイクルとなりました。

 

ものごとを感知すると、過去の記憶と照合して、そのものごとが何であるか、

 認識します。

  その認識は欲求野に送られ、本能に照らし合わせて、

 そのものごとが自分にとって快であるか不快であるかの、判断をします。

  感情野は、その情報を受け、快なら追求、不快なら回避の行動を、

 全身に促すよう、各種ホルモンを分泌します。

意識野は、その刺激で、追求または回避の対応を考え出します。

 

対応の結果を認識、または仮想認識して、欲求がおさまるまで、

意識回路を情報、刺激が回り続けます。

また、欲求は一つではありません。

同時にいくつかの欲求が引き起こり、適う欲求、適わぬ欲求のバランスを、

意識野はコントロールします。

 

意識は、生物がヒトにまで進化して、はじめて獲得した機能であると述べました。

環境に応じるだけであった生物が、はじめて環境を変えることが出来る力を、

手に入れたのです。

ものかげに隠れて風を防ぐだけだった動物が、

壁を作って風を防ぐようになりました。

意識野は、仮想認識を作り出すことによって、

ものごとを「観察、記憶、分析、推理、創造」することが出来、

それによって、複合的な対応が出来るようになったのです。

生命神は、意識回路も支配します。

意識野を生み出したのも、さらに環境に適して生きさせようとする、

生命神の意志です。

しかし、意識回路の一部である意識野には、生命神の干渉(かんしょう)はありません。

それは、意識野に、何の束縛もなく、自由に思考させるためです。

思考の演算(えんざん)装置である意識野に、

生存本能や種存本能の影響を受けないようにするためです。

このために人は、自分の身を滅ぼすような思考さえ可能になったのです。

 

意識野は、言語を使用して、思考します。

言語を使うことによって、思考が明確に整理、記憶され、複合的に構成できます。

意識の存在が明確になるため、そこに自己の存在を感じます。

自己の確立です。

人の心―意識回路は、二つの支配を受けることになりました。

生物として生きようとする生命神と、思考する自己です。

互いに影響し合い、また経験や知識を積み重ねることによって、

互いに成長していきます。

意識野は、二つの欲求を持っています。

達成欲求と秩序欲求です。

状況に対応して、問題解決の達成を望みます。

また、集団としての対応や、安定の維持を行なうために、秩序を求めます。

生命神もまた、秩序を求めます。

外の環境に対してではなく、自分内での秩序―「自己秩序」です。

そしてその秩序を尊重します。

 

生命神は、基本的な生命維持構造(免疫、自己修復、自律調整など)を、

支配していると述べました。

そして本能による行動構造(快楽追求・不快苦回避欲求)も支配しています。

これらの構造は、それぞれが微妙に調整し合い、バランスをとっています。

外の環境の変化から、バランスを崩さないように、

全体の構造が秩序だっている必要があるからです。

 

自己は、意識回路の一部である意識野で、思考を生み出します。

自己もまた、問題対処(たいしょ)のため、秩序を尊重とします。

経験や知識の蓄積で、自己秩序がより完成されていきます。

意識野で生まれた自己秩序は、身体や精神にも大きく影響を及ぼします。

思考する自己の秩序欲求と、生命神の秩序欲求、

それらが相乗(そうじょう)して、人の意識を高レベルへ導きます。