第3回 生きる力

生命神は「生きる力」を、生物に与えます。

しかし、それは強いが、非常に緩(おだ)やかに働く力です。

環境によって、生物の構造や、生命維持システムが損傷(そんしょう)を受けたり、

遺伝子の異常によって、機能不全(ふぜん)があると、その効果は十分ではありません。

「生きる力」の効果が働くのに、さらに時間がかかってしまいます。

神経系統の発達した生物は、本能によって行動を起こします。

本能とは、魚類などの、 知覚―認識・記憶―行動反応

爬虫類・鳥類などの、知覚―認識・記憶―欲求―行動反応

哺乳類などの、 知覚―認識・記憶―欲求―感情―行動反応

これらの反応の蓄積が、遺伝子に書き込まれたものです。

本能は、三つに大別できます。

生存本能(生命を維持しようとする)

種存本能(自己または種の遺伝子を子孫に残そうとする)

存在本能(上の本能を補助する、自己の存在をアピールする)

生物のほとんどは、通常、自らを傷つけるようなことはしません。

しかし、上の本能が強く働いたとき、自らを傷つけてしまうことがあります。

生存本能より種存本能が優先すると、自分の体を犠牲にもしてしまいます。

自らを傷つけ、その生物の「生きる力」は弱まります。

本能は基本的に「生きる力」を守り、育てますが、

本能同士のぶつかり合いで、その「生きる力」を弱めてしまうこともあるわけです。

生物に出来ることは、傷を癒(いや)すため、その「生きる力」の効果が戻り、

働いてくるのを、静かに待ち続けることだけです。

ヒトの行動反応は、上の反応方式から、さらに発達したものです。

知覚―認識・記憶―欲求―感情―意識―行動反応

意識とは、ヒトが手に入れた、環境への対応能力です。

今までの生物は全て、環境のなすがままになるだけでした。

ヒトははじめて、環境に働きかけて、それを変化させることが

出来るようになりました。

意識は、ヒトの脳が膨大(ぼうだい)な記憶容量を持つことから生まれました。

それらを使って、ヒトは仮の状況を想定できるようになったからです。

意識は、それらから生まれた五つの機能(知能)から成り立っています。

観察:ものごとの変化の差異を知る。

記憶:ものごとをパターン化して記憶する。

分析:ものごとを分解して整理する。

推理:ものごとの因果を予想する。

創造:新たに、ものごとを組み立てる。

これらを使って、意識は思考ができるようになりました。

ヒトの意識は、存在本能の領域を発達させ、

自尊心、自己顕示(けんじ)力を生み出します。

そして、さらに二つの欲求を生み出しました。

達成欲求と、秩序欲求です。

達成欲求は、環境を自分の望むように適応させたいという欲求であり、

秩序欲求は、環境を安定化して、適応を維持したいという欲求です。

これらの欲求が文明や経済を発達させ、人の生活を安定にしました。

しかし、同時に貧富の差、身分差別や、多くの争いを生み出しました。

さらに文明が進み、社会が発達すると、知識が豊富になり、

精神が豊かになります。

しかし、同時に多くの精神ストレスを受けるようになります。

複雑になった本能や欲求から、人は、さらに多くの苦しみを

感じるようになります。

苦しみから、自らの体を傷つけ、また自分の体を粗末(そまつ)に扱うようになります。

そして、他の生物のように、傷が癒えるのを静かに待つことが出来ず、

悪あがきをして、事態をさらに悪くしてしまうことが多くあります。

人は、生命神の「生きる力」に気づいていません。

欲求と苦しみに振り回されて、自らを必要以上に傷つけ、

「生きる力」を弱めてしまっています。

人は、もう一度、生命神の声に耳をすます時です。