全日本合唱連盟副理事長
斉田好男(指揮者)
コロナによって様々な表現活動が停滞しましたが、メリットもありオンラインでのパフォーマンスの交流‥‥時間(期間が長ければ)と場所に制約されず、どこにいる相手ともコミュニケーションを取れる、と言う手段が生まれました。
文化・芸術というものは本来的に作者のメッセージが伝わってこそ完結するものです。文学作品は読んでもらって、絵画はみてもらって、演奏家がひたすら練習に励むのは、いずれそのパフォーマンスを共有してくれる聴衆のため、芸術はメッセージの伝達なのです。
その意味からも、大学合唱団がオンラインであっても、発表の場を持つことができるというこの企画は、とても意義あるものと敬意を表します。昨年参加した学生さんからも「東北大学混声合唱団はじめ、会うことの無かった全国の大学合唱団と交流を深め、多々共有することができ良かった」との報告を受けています。
自身のことですみませんが、私が本格的に指揮活動を始めたのは関西に移った時から、まだ二十歳代台でした。当初は吹奏楽から次第にオペラ、オーケストラと広がり、合唱は少し遅れて関わるようになったのですが、以後、一番身近なジャンルとなりました。
そのきっかけは勤め先の大学合唱団から始まり、以降「関西学生混声合唱連盟(関混連)」、「関西六大学合唱演奏会(関西六連)」の合同ステージなどで学生の皆さんと多くのステージを共にしました。斉田の合唱指揮者としての歩みは大学合唱団から始まったわけです。
大学でのクラブ活動は多くの意味において重要です。打ち込むあまり卒業が危うくなるなどは(立場的に)推奨は出来ませんが、仲間との交流は社会人となるべき人間形成においてとても有益です。
★合唱することによって→正しい呼吸法は心身を健康的にする。声が良くなる・口の周りの筋肉を動かすことにより顔の表情が豊かになる→面接などで好印象。歌うことはストレス解消に、コーラスの場合はハーモニーが付くことにより更なる満足感を味わうことができる。アンサンブルすることによりコミュニケーション力が身に付く、共通の趣味を持つ生涯の友人ができる。言葉を使っての自己表現は人間に自信と勇気を持たせる、等々。これから大学生となる皆さん、コーラスしてみませんか!!
日本の合唱の歴史的見地からも大学合唱団の役割は大きく、関西学院、同志社、早稲田、慶応、青山学院のグリークラブなどは明治期から活動を始め、合唱界の発展に貢献していたのです。プロ野球、Jリーグなどスポーツ界では社会人とともに大学出身者が即戦力となっていますが、合唱界でも同様、大学合唱団出身者は所属した合唱団において音楽面、また運営面でも重要な存在となっており、合唱連盟でも役員として実力を発揮される方が多いことも事実です。
全日本合唱連盟もコロナによって若干おとなしくなってしまった大学合唱団の活動に対して、エールを送りたいと考えています。第2回大学合唱団オンライン合唱祭が大学合唱団の意気を更に高め、合唱を愛好する学生さんが増えていくきっかけになっていただくことを期待します。
斉田好男氏(指揮者)
武蔵野音楽大学大学院修了後,同大学研究員。オペラから管弦楽,合唱まで幅広いレパートリーを持つオールラウンド指揮者。1984年「ヘンゼルとグレーテル」指揮でオペラデビュー,以降多くのオペラを指揮。管弦楽では大阪シンフォニカー,関西フィルをはじめクライオバ・フィルハーモニー(ルーマニア)の客演指揮など国内外で活躍。
合唱では管弦楽付き作品,また木下牧子,千原英喜,信長貴富など現代を代表する作曲家の作品初演でその本領を発揮している。他,各種コンクール・音楽祭の審査員,指揮法講習会講師。著書『はじめての指揮法』新装・改訂版(2024音楽之友社)。
日本指揮者協会,日本演奏連盟,日本合唱指揮者協会,日本吹奏楽指導者協会,全日本合唱連盟副理事長・関西支部長および兵庫県理事長,明石フィルハーモニー管弦楽団指揮者,他関係団体多数。神戸大学名誉教授。2009年兵庫県文化功労賞,2022年神戸市文化賞,2024年明石市文化・スポーツ功労賞受賞。