夢の共演
夢の共演
極めて偶然である。
というのは、その出来事は、2013年10月、秋田にある大学での面接の帰りでのことだった。愛媛県で行われた学会の次の日に、羽田から飛行機で秋田に行った。当初の予定では、面接日は宿泊して、次の日に帰る予定だったが、予定を変更して、岩手県にいる大学時代の友人に会いに行くことにしたのである。飛行機は、マイレージクラブの特典航空券だったので、そのままにしておいた。採用の面接委員は何人かいたが、委員長と思われる人からの形式的な質問しかなく、これは、脈はないな、と思った。その日は、一人で、秋田の郷土料理のお店に行って、秋田の日本酒を飲みながら、若い頃は美人であっただろうお店のおばちゃんと他愛もない話をした。次の日は、秋田新幹線で盛岡に行く予定だったが、せっかくだからと思って、途中で温泉にでも入ろうと思った。田沢湖の近くに、乳頭温泉という有名な温泉があるようので、行ってみるかと思って、田沢湖駅で降車した。そして、乳頭温泉行きのバスに乗っていると、あるバス停から、カメラをもった集団がのってきた。なんと、武田鉄矢と前田吟だった。まじかーと思った。チームの人が、テレビ東京の旅番組「にっぽん、いい旅」」のロケ中です、という看板を持っていた。女優さんらしき人がバス停に立っていたが、残念ながら、彼女はバスに乗ってこなかった。後でテレビを見てわかったが、星野真里という女優で、彼女はそこでお別れだった。実際のTV番組の記録はこちらにある。途中、バスを乗り換えたが、どうやら目的地は一緒らしく、鶴の湯温泉というところだった。私は、その一行のことは気にしないで、当初の目的通り、露天風呂に入りに行った。旅館の人が、「これから、テレビの取材が入りますけど、いいですか?」と聞いてきたので、「はい、かまいません」と答えた。実は、そこは、混浴露天風呂だったのだが、テレビの取材が入ると聞いて、ほとんどの人は出てしまっていた。しかし、私は果敢に攻めた。他には、もうひとりの年配の男性客がいただけだった。そして、早く武田鉄矢入ってこないかなー、と思って、ずっと風呂につかっていたのである。しばらくして、撮影チーム、武田鉄矢、前田吟が入ってきた。武田鉄矢と前田吟が二人で、喋っていたが、なんと、武田鉄矢が、私に話しかけてきたのだ。「今日はお泊まりですかー?」「いえ、たまたま寄っただけですー」というやりとりをした。そして、その後、それぞれの方とツーショットで写真を撮ってもらった。そして、武田鉄矢に名刺を渡した。名刺には東京医科歯科大学とあったので、「私も、先は長くないから、そのうちお世話になりますよ」のようなことを言っていた。一緒に入っていた男性客のおじさんとも仲良くなり、一緒に昼飯を食べた。なんでも、大阪から来ていたそうだ。そして、実際のテレビでも私の入浴シーンが放映され、テレビ初出演、しかも、武田鉄矢と夢の共演を果たしたのだった。その後、取材チームとは別れ、長風呂で染み付いた硫黄臭をプンプン匂わせながら、秋田新幹線に乗って盛岡に向かい、友人と久しぶりの再会を果たしたのだった。
ちなみに、就活では、他にもいくつかの大学に行ったが、行く先々で旧知の方々に会うことができた。北海道では、東大大学院生のときの助手の先生、青森県では、東大理学部の一学年下の後輩。埼玉県では、医科歯科時代の教え子。横須賀の大学校では、共通の知人を持つ人に会えた。栃木県の医科大には、幼い頃に頭部を強打して救急車で運ばれたことがある(自分は記憶にないが)。 したがって、僕にとっては、就活の面接は、旧知に会い、昔を懐かしみ、そして自己を再確認するような巡礼の旅のようなものだった。