2019年年頭挨拶
2019年年頭挨拶
新年明けましておめでとうございます。
平成30年4月に、東京理科大学薬学部生命創薬科学科において、薬理学を担当する教員として着任し、この一年は、主に、薬理学2及び薬理学1の授業の準備に費やしました。授業スタイルをどうするかで悩みましたが、昔ながらの板書形式で行うこととしました。目指したのは、大学3年の時に受けて感銘した東京大学理学部生物化学科の西郷薫先生(当時)の授業です。西郷先生は、授業内容が全て頭に入っていて、何も見ないで、スラスラと黒板にショウジョウバエの胚の絵を書きながら、講義をしていくスタイルでした。僕には到底そのような真似はできませんので、予めノートを作って、それを見ながら板書していくというスタイルにしました。
しかしながら、講義前半が終了したところに行われた授業改善アンケートでは、板書を写すのに精一杯で、授業の内容が理解できないという声が多く聞かれたため、途中から、穴埋め式の授業プリントを配布し、iPad Proを用いて、書き込みながら行うという授業スタイルに変更しました。穴埋め形式にしたのは、スライドだけの授業だと、ただ聞いているだけの授業になり、眠くなってしまうからと考えたからです(自分がそうなので)。授業の理解度を確認するために、練習問題を授業プリントに掲載し、対話形式で学生に答えてもらう形式も導入しました。さらに、理解度を上げるために動画も取り入れました。その結果、授業の最後にとったアンケートでは、大半の人が、授業は改善されたと答えてくれました。
薬理学は覚えることが膨大で、学生にとって勉強するのは大変だと思います。薬理学は日進月歩の学問であり、情報量が増加していくのはやむを得ません。そこで、歴史的に重要な古典的薬理学を伝達するのと同時に、新薬の情報を紹介することの両立を目指しました。特に、生命創薬科学科の卒業生の多くは、薬を創る側の仕事に携わりますので、単に薬の作用機序を伝達するだけではなく、歴史的に重要な薬がどのように発見され、どのようにして薬として世に出たかという内容も盛り込みました。
さらに、近年販売が開始されたばかりの画期的な新薬についても触れました。とくに、創薬においては、従来型のスクリーニング型創薬からゲノム情報を活用したゲノム創薬へとシフトしていますし、画期的な技術を用いた生物製剤も登場しています。2018年5月に販売開始された血友病治療薬エミシズマブは、活性型血液凝固第 IX 因子と血液凝固第 X 因子に対する遺伝子組換えヒト化二重特異性モノクローナル抗体(バイスペシフィック抗体)であり、遺伝子工学技術を駆使した治療薬になっています。生命創薬科学科の薬理学の授業においては、このような最先端の内容も理解できる人材を育成することも目標にしました。来年度は、さらに授業内容をブラッシュアップして行きたいと思います。
研究面では、新たな研究室の立ち上げに伴い、一時研究を中断せざるを得ませんでした。研究室は、かつて所属していた東京医科歯科大学難治疾患研究所分子薬理学分野を引き継ぎ、分子薬理学研究室と命名しました。引き続き、骨代謝学を中心とした骨・関節疾患領域の研究を推進していきます。私の発生生物学のバックグラウンドを活かし、再生医療や幹細胞生物学の視点を取り入れた研究を展開していきたいと考えています。
4月の時点で卒業研究生がすでに配属されていましたが、研究室に機器がなかったため、最初の数カ月は、学生は実験をすることができず、毎日論文抄読会を開催していました。研究者にとっては、論文が「生きた」教科書であると思いますので、この論文抄読を通じて、論文の読み方、実験手法や最先端の科学の動向を学ぶことができたのではないかと思います。重箱の隅をつつくような質問も多いですが、それだけ知識は増えていくはずですし、プレゼン能力や質疑応答能力も身につくはずです。
昔聞いた言葉ですが、「一年目は、手が動くようになり、二年目は、頭が動くようになる。そして三年目では、頭と手が連動して動くようになる」だそうです。研究は一度始めると、進捗状況にかかわらず、なかなかやめることはできません。ですので、逆に言えば、「何をしないか」が重要になります。そこで、本研究室の学生には、原著論文や社会の動向を分析しつつ、内なる自らの好奇心に従い、「何を研究すべきか」を自らよく考えてもらいたいと考えています。卒業研究や大学院の数年間はあっという間に過ぎ去っていきます。学生時代の貴重な時間を有意義に使ってほしいと思います。
昨年は、細胞培養を用いた実験を主に行いましたが、今年は遺伝子改変マウスを導入して、遺伝子機能を生体内で解明していきたいと考えています。
日本の大学の薬学部では、骨代謝研究はあまり盛んではありませんが、骨・関節疾患領域では、画期的な新薬の開発が求められています。世界で存在感を示せるような研究成果を理科大から発信できるよう精進してまいりたいと思います。
今後とも、東京理科大学薬学部分子薬理学研究室へのご理解とご支援を賜りますよう、お願い申し上げます。
2019年1月4日
東京理科大学 薬学部 生命創薬科学科
分子薬理学研究室 准教授 早田 匡芳