ファジィ集合

ファジィ集合はファジィ理論の根幹となる概念である。現代数学は、集合論を基礎として成り立っており、集合をファジィ集合に置き換えることで様々な概念のファジィ化が試みられている。

ファジィ集合を直感的に説明するならば、人が持つ概念のようにあいまいな集合を数学的に定義したものであると言える。たとえば、通常の集合の例として「小型トラック」という集合は、積載量が3トン以下である、と法律ではっきり決められていて、あるトラックが小型かどうかは客観的に判定することができる。いっぽうで「小さいトラック」という言葉で呼ぶトラックはもしかすると4トンを超えているかもしれない。気温を例とすると「暑い気温」という言葉で呼ぶ温度ははっきりと「25度以上」のような基準があるわけではなく、24.5度でも暑いし、22度でも暑いといえなくもない。ファジィ集合は「小さいトラック」「暑い気温」のようなあいまいさを許容した集合である。

全体集合 U 上のファジィ部分集合 A の定義。ある要素 x があるファジィ部分集合 A に属する度合いを決める値域 [0, 1] の関数 μ_A(x) をメンバーシップ関数といい、その値をメンバーシップ値(membership value)あるいは帰属度またはグレード(grade)と呼ぶ。表記として μ(・) を用いることが多い(Membership のため)。

ファジィ集合を扱うとき、メンバーシップ関数をファジィ集合そのものと同一視することも多い。

ファジィ集合の演算

メンバーシップ関数の演算によりファジィ集合の演算が定義される。和と積のmax(), min()の二項演算はそれぞれt-conorm, t-normである。

  • 部分集合(包含) A ⊃ B ⇔ μ_A(x) > μ_B(x)

  • 同一 A = B ⇔ μ_A(x) = μ_B(x)

  • 集合和 A B : μ_{A ∪ B}(x) = max(μ_A(x), μ_B(x))

  • 集合A B : μ_{A ∩ B}(x) = min(μ_A(x), μ_B(x))

  • 補集合 ¬A : μ_{¬A}(x) = 1 - μ_A(x)

  • 全体集合 U : μ_{U} (x)= 1

  • 集合 φ : μ_{φ} (x)= 0

ファジィ集合の演算の性質

  • ド・モルガンの法則 ¬A ∪ B) = ¬A ∩ ¬B が成り立つ

  • 排中律 ¬A∪A = U と無矛盾律 ¬A∩A = φ は成り立たない

メンバーシップ関数の形状

メンバーシップ関数は[0,1]区間で値を取ればその形についてはとくに条件はない。

ファジィ制御やファジィモデリングなど計算機での応用が多い分野では、メンバーシップ関数の形として表現のしやすいものが用いられる。とくに多いのは以下の3つの形状である。

  • 三角型 二辺の直線で表現された形状

  • 台形型 三角型の頂点が区間となった形状

  • 釣鐘型 ガウス関数を用いた連続的(微分可能)な形状

確率分布との違い

ある事柄が「なりたつ」度合い、という実用上の意味ではメンバーシップ値は確率と混同されることがある。実際、多くの応用ではほぼ同じ「意味・用途」で用いられる場面がある。

ファジィ集合の度合いには、確率分布と比較して、積分値を1で規制しないという特長がある。このため、ファジィ集合の方が表現力とその自由度が高いことがある。

type2ファジィ集合

ある要素 x でのファジィ集合 A のメンバーシップ値を実数値一点ではなく、さらに[0,1]上のファジィ集合で表したものを、type-2ファジィ集合という。たとえば、10℃が「寒い気温」に属する度合いを 0.8 のように定めるのではなく「0.8くらい「寒い気温」」とあいまいにしたものである。

ある概念をファジィ集合で表現するために人からのインタビューで作るとき、メンバーシップ値をはっきり決められるものでもない。ここでのあいまいさを尊重して記述したものといえる。計算量は増えるが人の感性との一致率がよくなることが知られている。

外延的定義

全体集合の要素が離散的ではっきりしているときには、外延的な定義を用いることがある。集合の外延的定義では、要素を例示列挙して集合を定義する。ファジィ集合では、要素 xi にそのメンバーシップ値 gi = μ_A(xi) を合わせて明示する。要素数nのファジィ集合Aは、

  • A = {g1/x1 + g2/x2 + .. + gn/xn}

と書ける。