ファジィ理論とAI

ファジィ理論は1965年にL.A. Zadeh が提案した、あいまいな集合を基礎とする新しいシステム表現の理論である。

複雑な対象を数理的に扱い、計算機を援用する研究が進んでいた当時(1960年代)、還元主義的な表現=とくに簡素な線形モデルへの分割と統合では複雑なシステムを精度よく表そうとすると表現パラメータが爆発的に増え「手に負えない」問題になると Zadeh は指摘し、これを「不適合性の原理 (The Incompatibility Principle)」と呼んだ。その対応のひとつとして、人がしているような「あいまいな」表現によるシステムモデリングに可能性を見出し、計算機的に実現可能な方法としてファジィ集合、ファジィ論理、ファジィ推論を作った。のちにセメントキルンの制御モデルの実装実験に成功し、ファジィシステムの効果が確かめられた。

ファジィ 集合に基づいたシステムモデルは、同時に幅のある概念と見ることが可能で、これを言葉と対応づけることでモデルの言語表現として扱うことができる。Zadeh は言語とのつながりを重要視し「言語変数」という概念も提案した。ここでの言語は、単語とくに定性的な意味をもつ形容詞的修飾語の定量的表現を主体としており、階層的なファジィ 集合を用いる。文法構造については対応がなく自然言語全体との理論的な繋がりは薄い。

ファジィ理論を理解するには、ファジィ理論が生まれた背景の理解が必要である。それは、システム理論が発展する中で、従来手法へのアンチテーゼとしてファジィ論理が提案され発展したためである。言い換えると、従来手法(特に線形システム)では十分に扱えないような複雑な対象でこそ、ファジィ理論にもとづく簡便な方法が有用かつ必要となり、ファジィが必要ない範囲の簡単なシステムであればまず従来法での解決が優先するということである。万事を尽くしてその上にファジィによる手法が意義を発揮する。

計算機の能力向上につれ従来法やその拡張で、以前より複雑な問題を扱えるようになってきた。大規模な人工ニューラルネット深層学習 DL)も計算力の向上により解決可能な空間が増大している。その一方で構築されたシステムは大量のパラメータからなり、内部構造や動作の理由が人にはほぼ理解不能な状態となっている。

このような状態こそが不適合性の原理にあてはまる状態である。現在の計算力の馬力でこなしている複雑な問題に対して、言語的で理解可能なシステム表現を得ることはファジィ理論の目標である。

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