森口 岳(東洋大学 人間科学総合研究所 客員研究員)
◎日時:2025年12月8日(月)18:15~20:00ごろ
◎開催方法:対面開催と、Zoomを使用したオンライン開催とのハイフレックス方式にて開催いたします。
◎会場:東洋大学白山キャンパス 6号館1階 第3会議室
https://www.toyo.ac.jp/nyushi/about/campus/hakusan/
◎要旨:
本発表は、ウガンダのガンダ民族における親族構造を分析することで、それがいかにウガンダ国家における「家族的市民モデル」として政治的・社会的秩序を形づくっているかを明らかにするものである。また古典的な人類学・社会学の主題ともなる「社会的なるもの the social」の位置づけを、デュルケムの儀礼論とラトゥールのANT(アクターネットワーク理論)の間で比較・検討しつつ、民族誌的な事例を通してその内実を問うものである。
ウガンダ国家のマジョリティ(約18%ほど)を占めるガンダ民族の社会では父系出自を基盤とした階梯的な氏族制度が存在し、エンジュ(Enju 日本語「家族世帯」の意に近い)からオルニィリリ(Olunyiriri)、オムトゥバ(Omutuba)、エッシガ(Essiga)、アカソリャ(Akasolya)へと氏族内の上位集団へ接続し、最終的にガンダ王国の頂点であるカバカ(Kabaka ガンダ王)の権威へと結び付けられる。この体系は父系性出自集団における家父長制的な価値観に強く依拠しており、儀礼や称号を通じて男性中心に再生産される。
本発表で中心的に取り上げられる儀礼は、カンパラに住まうバントゥー系民族たちの間で行われる伝統的結婚儀礼(オクワンジュラ Okwanjula)とキリスト教式の結婚式、およびガンダ民族の親族組織によって行われる葬送儀礼(オルンベ Olumbe)である。これらの儀礼を通して、個人や「親族/家族」は、親族集団の正統性を確認し、土地・財産の継承を定め、社会的秩序を小国家的に体現する。特に葬送儀礼、かつ継承儀礼であるオルンベにおいては、父系出自の確認と系譜の朗誦が繰り返され、男性の地位承認や共有財産の分配が行われる一方、女性や婚外子、他氏族出身者は排除・制限される。オルンベは包摂と排除を分ける境界儀礼であり、ガンダの文化的正統性の再生産の核ともなっている。
総じて本発表では、ガンダの家族・親族制度を「市民性」の枠組みから読み解き、それが王国制度や富の再分配を背景に、中心と周辺を分かつ政治秩序を支えていることを論じていく。それはつまり、ウガンダという国家において、ガンダ民族における「親族/家族」は「市民」共同体として、規範的モデルを提示しつつ、その排他性が同時に欲望と緊張を生み出し、政治の核となっていることを意味している。
※本研究会は、人間文化研究機構海域アジア・オセアニア研究(MAPS)東洋大学拠点との共催です。
◎日時:2025年11月22日(土)13:00〜17:30
◎開催方法:対面開催と、Zoomを使用したオンライン開催とのハイフレックス方式にて開催いたします。
◎会場:東洋大学白山キャンパス 6号館1階 6101教室
https://www.toyo.ac.jp/nyushi/about/campus/hakusan/
◎プログラム:
13:00–13:35 主旨説明 上野貴彦(都留文科大学比較文化学科)
13:35–14:15 「リトルポルトガル」の半世紀は何を映し出すか:新自由主義下の移民街と多文化都市トロント 髙橋昂輝(北海道大学大学院文学研究院)
14:20–15:00 「存在感が増す南欧の中国系新移民——イタリア・スペイン・ポルトガルー」 山本須美子(東洋大学アジア文化研究所)
15:05–15:45 「希望と諦観のあいだ——バルセロナに暮らすキューバ人の生と想い」 田沼幸子(東京都立大学人文科学研究科)
16:00–16:15 コメンテーター1 渋谷努(中京大学教養教育研究院)
16:15–16:30 コメンテーター2 定松文(静岡大学グローバル共創科学部)
16:40–17:30 総合討論
進行役:上野貴彦(都留文科大学比較文化学科)
◎趣旨:
南欧は、統合欧州の「境界」として位置づけられると同時に、かつて北西ヨーロッパやアメリカ大陸へ移民を送り出した地域でもあった。今日では、ラテンアメリカ、東欧、アジアなど多様な地域から人びとが流入し、定住し、さらに北欧・西欧へと再移動する――「通過」と「滞在」が交錯する空間となっている。このように、南欧をめぐる人の移動は、送り出しと受け入れという直線的なモデルでは捉えきれない。経済の変動、都市の再編、世代間のつながりのなかで、越境・定住・往還が重なり合い、時間をかけて社会や地域を形づくってきた。本フォーラムでは、南欧・地中海圏を中心に、人びとの移動がどのように展開し、その過程で都市やコミュニティがいかに変容してきたのかを考察する。多文化都市トロントにおける南欧移民街の変遷、南欧諸国における中国系移民の定着、そしてバルセロナに暮らすキューバ移民の生活世界といった具体的な事例を通じて、移動の時間性(temporality)と社会変容の関係を探る。それにより、グローバル化の大変動期における〈共生〉をめぐる議論に、新たな視点を提示する。
※本研究会は、人間文化研究機構海域アジア・オセアニア研究(MAPS)東洋大学拠点との共催です。
佐藤 優香(東京大学情報学環・東洋大学人間科学総合研究所・武庫川女子大学附属総合ミュージアム)
日時:2025年10月20日(月)18:15~ (対面・オンラインハイフレックス方式)
要旨/ Abstract
人類学者の坪井正五郎と松村瞭が選定を行った井上式人種模型標本は、明治の終わりから昭和初期にかけて博多人形製作者井上清助の工房において製作された地理学習のための教材である。現在、国内各地の大学博物館等に収蔵されていることが確認されつつあり、国立台湾博物館では台湾総督府博物館旧蔵資料のうち13体が展示されている。島津製作所標本部編『地理及歴史学用標本目録』大正3年版には、人形の他にも胸像や陶版などいくつかの異なる形状のものや、歴史教材として日本の装束の変遷を表した「歴代服飾模型」等も掲載されており、人形模型標本が多様な展開をしていたことがわかる。
井上式標本の人形は、素焼きにとても細やかに彩色が施されており、顔つきも繊細な表現となっている。服装や装飾品はどの程度の正確さを有しているのか。表現されている外見に「間違い」がないのであれば、綿密な調査による精度の高い情報を得て製作されていることが想定され、その表情は具体的なモデルの存在の可能性さえもうかがわせる。製作の過程において、8種類の「人種」の正確な服装と個性を表現するに足る情報は、どこから提供されていたのだろうか。
本報告では、井上式模型標本から「日本帝国人種模型」を取り上げ、金光図書館所蔵資料を具体例として観察していく。島津製作所標本部の目録によれば「日本帝国人種模型」は、「内地人、琉球人、朝鮮人、アイヌ人、台湾人、台湾蕃人、ギリアック、オロッコ」(ママ)の男女1組16体で1セットになっている。金光図書館所蔵資料は、この16体に加えて子どもの男女16体を含む32体で構成されている。坪井と関わりのあった人類学者の調査活動や古写真等を追い、32体の背景情報の一端を明らかにすることを試みる。
本研究会は、人間文化研究機構海域アジア・オセアニア研究(MAPS)東洋大学拠点との共催です。
Paolo Boccagni (The University of Trento, Italy)
日時:2025年7月21日(月)18:15~ (対面・オンラインハイフレックス方式)
要旨/ Abstract
The future, for young male asylum seekers who appear to be spatially and temporally stuck, is hard to see, or even only imagine. Social, legal and existential precarity militate against any long-term life project and investment. However, their whole pathways of displacement can also be seen as attempts at moving towards a desired future, i.e. the “good life”, and anticipating the risk of a feared one, i.e. lifelong immobility. The spatial and temporal suspension of refugehood makes this future orientation harder to nourish, but does not generally eradicate it. As my ethnography in an asylum centre in Northern Italy shows, traces of the future can be found through the residents’ narrative accounts, life routines, and material cultures. These afford a better understanding of the multiple temporal scales of the future, and of related notions such as destination and home. They also cast light on the balance between isomorphism and distinctiveness in the views of the future and in the struggle to anticipate it, as a part of the gendered transition to adulthood. Overall, the paper challenges the link between spatial, temporal and existential immobility by looking into the interplay between future-related views, emotions, moralities and practices, given the unequal resources and opportunities accessible to turn them into better life conditions.
*Paolo Boccagni's latest book "Undoing Nothing: Waiting for Asylum, Struggling for Relevance" (2025, University of California Press) is available here: https://www.luminosoa.org/books/m/10.1525/luminos.233
**This event is supported by JSPS KAKENHI JP22K01082.
本研究会は、科研費課題番号:JP22K01082の助成を受けています。
***This event is co-hosted by the Toyo University Center, a hub of the Maritime Asia and Oceania Studies (MAPS) of the National Institutes for the Humanities (NIHU).
本研究会は、人間文化研究機構海域アジア・オセアニア研究(MAPS)東洋大学拠点との共催です。
片岡 樹(京都大学)
日時:2025年6月30日(月)18:15~ (対面・オンラインハイフレックス方式)
要旨
鈴木佑記の書評論文に「水のゾミア試論」というものがある。スコットの『ゾミア』を東南アジア海民研究の視点から読み直したものである。この「水のゾミア」をさらに陸の視点から読み直すことで、東南アジア社会の動態を、海と山の辺境からとらえなおすことができるのではないか。それが本報告のねらいであるが、ただしこれもまた、あくまで今後のモデル化に向けた試論である。
まずは海からの知見を山で読み直すことを試みたい。東南アジア海域研究からは、海賊と海のラジャの両義性、あるいは小型港市国家の可搬性などといった問題が提起され、それが周縁部における国家論の外縁を大きく広げてきた。また民族論に関しては、長津一史が東南アジア海域におけるサマ/バジャウ社会の特徴を、異種混淆性、周縁性、違法性などのキーワードで要約している。つまり合法と違法のグレーゾーンに移動性の高い様々な出自の人たちが集まり、国家権力と交渉することで、海域でのダイナミックな国際関係が展開されてきたということになるだろう。
以上の洞察は、おそらく内陸部山地においても当てはまる。本報告では雲南西南部からミャンマー、タイにかけての山地に居住するラフの事例に主に注目するが、そこではゾミア論では「非国家空間」と決めつけられたはずの場所にミニ国家が無数に存在してきたこと、その担い手はラフと呼ばれながらも実際には周辺のありとあらゆる民族集団からメンバーを調達し、国際関係のはざまを操作しながら自分たちの空間を維持してきたことが明らかになるはずである。
スコットが指摘しているように、東南アジアの山地は、平地国家からはじき出された無法者たちの巣窟としても機能してきた。そのことが山地での異種混交的な民族構成を生み出し、山地民と平地の無法者たちの同盟によって、平地からの干渉を拒否する独自の国家が形成されてきた。そしてそれら無法者たちの活動が平地国家の許容範囲を越えると軍事干渉を招き、そうすることで長期的には平地国家の版図が拡大されてきた。
実は今述べた点において山地と海域は並行関係にある。本報告の最後には、漢人不平分子の辺境への流入と辺境情勢の不安定化が結果的に平地国家の確立をもたらした点に関し、両者の並行関係を明らかにすることで、海と山で共振する東南アジア辺境の動態モデルへの考察を試みたい。
※本研究会は、人間文化研究機構海域アジア・オセアニア研究(MAPS)東洋大学拠点との共催です。
アフリカゾウを命がけで追い払う
——タンザニアにおける獣害対策アクションリサーチの20年
岩井 雪乃(早稲田大学)
日時:2025年5月26日(月)18:15~ (対面・オンラインハイフレックス方式)
要旨
ゾウによる農作物・人身被害(ゾウ獣害:human-elephant conflict)は、ゾウが生息するアジア・アフリカの国々で深刻な問題となっている。タンザニアでは、ゾウによる死亡被害は年間100人以上にのぼっており、農作物被害も拡大の一途をたどっている。畑を守る対策としてさまざまな手法が考案されており、唐辛子ロープ柵、養蜂箱の設置、電気柵、ドローン追い払い、GPS行動調査にもとづく接近警報システム、などが試みられている。しかし、学習能力の高いゾウは、次々と対策を破ってしまうので、1つの方法で長期的にゾウの被害を抑え込むことはできていない。その中で、住民が集団になってゾウを追い払う「追い払い隊」は、被害軽減効果が高い手法と評価されている。
本発表では、タンザニアのセレンゲティ国立公園に隣接する村落でのアクションリサーチを元に、①「ゾウ追い払い隊」が持つ技能、②組織の運営動態を報告する。発表者は、2005年から「アフリカゾウと生きるプロジェクト」(NPO法人アフリック・アフリカ)としてゾウ獣害対策支援を行っており、現在、11村の追い払い隊と連携している。これまでいくつもの対策を試みたが、なかなか持続的で効果的な対策にならなかった。近年は、集団追い払いが一番効果的な対策であることが明らかになり、追い払い隊への支援を中心に行っている。
発表では、まずは追い払い活動に必要な技能、すなわち「目視ではなく音でゾウを発見し観察する」「ゾウ群の特性、各個体の特性をすばやく把握した上で、適切な方法を選択して追い払う」などを紹介する。さらに、「追い払い隊」は、ゾウに殺される危険性があり恐れて参加しない住民もいる中で、どのように設立され維持されているのかを分析する。最後に、日本の獣害対策と比較しながら、今後の対策のあり方を考察する。動画、写真を多数使用する予定なので、楽しみにしていただきたい。
※本研究会は、人間文化研究機構海域アジア・オセアニア研究(MAPS)東洋大学拠点との共催です。