メイキング・オブ・ナショナル・ヒーロー――現代インドネシア地方社会の歴史創成の一動態
山口裕子さん(一橋大学特別研究員)
□日時 1月21日(月)18時10分~
□場所 東洋大学白山キャンパス 8305教室
(地下鉄東京メトロ本駒込駅、または都営地下鉄白山駅)
※最寄り駅までは右URLを参照(http://www.toyo.ac.jp/access/hakusan_j.html)
※構内は右URLを参照(http://www.toyo.ac.jp/campus/hakusan_j.html)
□要旨
スハルト大統領の中央集権体制が潰えたインドネシアでは、現在、中央の民主化と地方分権化政策に呼応した地方の地域民族社会による、独自の文化や歴史の掘り起こしが興隆し、さらに国家の認定制度などを用いてその権威づけを図る動向が顕在化している。「国家英雄」制度はその好例であり、体制移行後に成立した新自治体や、スハルト期に名乗りが抑制されてきた小地域民族社会では、自社会のシンボルとなる「英雄」を模索し「国家英雄」へと推挙する運動が盛んである。本発表では、この制度を共和国成立前後からのインドネシアの歩みに関連させて概観した後で、東南スラウェシ州で現在進行中の二つの「国家英雄」推戴運動に焦点をあて、認定を目指す地方社会の思惑とその今日的意義を考察する。 独立運動の功績者の称揚を目的に1950年代のスカルノ初代大統領期に制度が創始されて以来、全国で認定された英雄の総数は150人以上に上る(2012年時点)。その中で、東南スラウェシ州は未だ国家英雄を輩出したことがない全国でも稀な例である。本発表では、一見競合する二つの運動の動機と背景を、1.民主化と地方分権化の進む現在、2.国家における東南スラウェシ地方の周辺化、2.その内部の地域民族社会間の序列化、3.その背景となる植民地時代前後からの地域史という複数の歴史過程の累積として説明する。その上で、それらでは十分に説明できない、人々が運動に邁進する中で、もともと確たる「功績」が見当たらない人物が「英雄らしさ」を帯びて行く過程を、a. 図像や名称の複製、出来事への名付け、反復、誇張、上書き、b. 「他者から不名誉な歴史像を押し付けられた自分たち」という転倒した歴史的自己像とその払拭といった運動の諸特徴の中に辿り明らかにする。以上をとおして、二つの運動の「非双方向的な競合」の在り方を、国家の中の幾重にも周辺的な小地域社会が、運動をとおしてそれぞれの問題となる枠組みの中で「中心性」を希求する動態として示す。
※終了後、白山近隣で懇親会を予定しております。
<対話性>の人類学に向けて――インド周縁部における神格の複数性/選択性から
小西公大さん(人間文化研究機構現代インド地域研究推進事業東京外国語大学拠点研究員)
□日時 12月17日(月)18時10分~
□場所 東洋大学白山キャンパス 5403教室
(地下鉄東京メトロ本駒込駅、または都営地下鉄白山駅)
※最寄り駅までは右URLを参照(http://www.toyo.ac.jp/access/hakusan_j.html)
※構内は右URLを参照(http://www.toyo.ac.jp/campus/hakusan_j.html)
□要旨
パキスタン国境に接する、インド西端タール沙漠エリアには、無数の女神たちが存在する。女性たちの胸元にはこれら女神たちを彫りつけた銀製のペンダントが集合し、儀礼や祭礼時には、数多くの神々へ即興的な祈りが捧げられる。従来、民俗神(folk deities)として一括して処理されてきたこれらの多様な神格たちが、いかに/なぜ、祈りの対象として選択されるのか。本発表では、沙漠にみられるこの神格の複数性と選択性を分析対象とし、同地において支配的な存在である「王権」のイデオロギーの中心性と、具体的な生活空間を取り巻く世界の拡散性のはざまに生きる人びとの関係実践のあり方を解きほぐしていく。そこでは、「移動」と「行き交い」を特徴とするタール沙漠の周辺社会において、世界と対話(世界の隠喩的把握=修辞学)を繰り返しながら、他者との関係を円滑なものへと変換していく人びとの能動的営為をみいだすことができる。本発表ではこうした人びとの営為を、世界との<対話性>として定位し、社会唯名論/実在論的な理解で取りこぼされてしまう、人びとの関係実践の能動的側面をモデル化することを目指す。
※終了後、白山近隣で懇親会を予定しております。
宗教実践にみる自然災害
-タイ南部ムスリム村落におけるインド洋津波災害とグローバル化の一断面-
小河久志さん(大阪大学グローバルコラボレーションセンター)
□日時 11月19日(月)18時10分~
□場所 東洋大学白山キャンパス 5403教室
□要旨
2004年12月26日にインド洋沿岸を襲った津波は、タイにも未曾有の人的、物的被害をもたらした。津波後、被災地では、タイ政府をはじめ国内外のNGO団体や民間企業などから様々な形の支援、援助がなされた。しかし、中身や実施過程を詳しく見ると、それは必ずしも被災地が置かれた状況に適ったものとはいえず、各地で支援をめぐる不和や復興の遅れといった問題が生まれた。 タイにおけるインド洋津波災害を扱った人文・社会科学分野の研究は、こうした状況を受けて、主に被災地の政治・経済の変化に注目してきた。しかし、災害人類学者のオリヴァー=スミスが災害は「環境・社会・経済・政治・生物などの状態に影響を与えるもの」(オリヴァー=スミス2006: 29)と述べているように、それらはあくまでインド洋津波災害の一部にすぎない。 本発表では、タイ南部トラン県のインド洋津波被災地に住むムスリム住民の宗教実践を事例に、津波が信仰という被災地の私的領域に与えたインパクトを解明する。そして、トランスナショナルなイスラーム復興運動や国家政策との関わりなどに着目しながら、被災地におけるグローバル化の様相やインド洋津波災害の長期性について検討したい。
※終了後、白山近隣で懇親会を予定しております。
湾岸アラブ諸国における東南アジア出身の外国人労働者
――共生と分断の視点から――
□ 日時 2012年10月6日(土) 10:30~17:00
□ 場所 東洋大学白山キャンパス 第3会議室(6号館1階)
(地下鉄東京メトロ本駒込駅、または都営地下鉄白山駅)
※最寄り駅までは右URLを参照(http://www.toyo.ac.jp/access/hakusan_j.html)
※構内は右URLを参照(http://www.toyo.ac.jp/campus/hakusan_j.html)
□フォーラムの趣旨
グローバリゼーションの時代、湾岸アラブ諸国は新たな注目を集めている。 巨額のオイルマネーを使ってインフラ整備を行った後、経済の脱石油化の先端 産業を推進するなど、その躍進はとどまる様子をみせない。一方で、こうした経 済的躍進を支えているのは外国人労働者であり、一部の諸国ではコスモポリタン化や 国民のマイノリティ化もすすむなど、「多外国人国家」が出現している。 このような湾岸アラブ諸国の特徴をとらえるとすると、第一に、多様な国からの 外国人労働者が流入していること、第二に、かれらと国民との間に圧倒的な格 差があること、第三に、労働市場では外国人同士が国籍によって分断されてい ることがあげられる。
本フォーラムでは、湾岸アラブ諸国および労働者の送り出し国双方におけるフィ ールドワークに基づいて、東南アジアを中心とする外国人労働者がどのような局 面で他者と共生、あるいは分断するのかを分析する。第1セッションでは、湾岸ア ラブ諸国において、国籍境界にそって分断された非融合型多民族社会が形成・ 維持されている状況をファーニヴァルの複合社会論の視点から検討する。次に、 国籍や改装を超えて新たなつながりを形成する事例として、改宗する在湾岸フィ リピン人労働者を取り上げる。第2セッションでは、家事労働者に焦点を当て、 はじめに「周縁化されたインサイダー、親密なアウトサイダー」とも呼ばれる 労働者と雇用主の権力関係を議論する。つづいて、フィリピンとインドネシアの両 政府が家事労働者の問題にどのように対処してきたかについて事実関係を整理 し、その送り出し政策の相違点を比較する。最後に、湾岸アラブ諸国と送り出し国 の間において構築されている、外国人労働者をめぐる国際レジームがいかに双方 の国内制度に影響を与えているのか、検証する。これらの事例報告を基に、フォー ラム全体では、東南アジア出身の外国人労働者をとおしてみる、湾岸型の共生・ 分断モデル構築をめざして議論を深めていきたい。
プログラム
10:30-10:40
開会
10:40-10:50
趣旨説明
渡邉暁子(東洋大学)
10:50~12:00 ◇セッション 1
10:50-11:20
◆報告1
湾岸アラブ諸国のエスノクラシー
――複合社会論の視点から
松尾昌樹(宇都宮大学)
11:20-12:00
◆報告2
改宗する在湾岸フィリピン人労働者
――国籍・階層を超えた新たなつながり
細田尚美(香川大学)・
渡邉暁子(東洋大学)
12:00-13:10
昼休憩
13:10~14:50 ◇ セッション 2
13:10-13:40
◆報告3
自国民と外国人労働者の権力関係
――家事労働者と雇用主に関する考察
辻上奈美江
(高知県立大学)
13:40-14:20
◆報告4
「家事労働者問題」と送り出し社会
――フィリピンとインドネシアの比較
石井正子(大阪大学)・
平野恵子(お茶の水女子大学)
15:55-16:10
◆報告5
コロンボからアブダビへ
――外国人労働者の保護をめぐる国際レジームの形成と課題
堀拔功二
(日本エネルギー経済研究所)
14:50-16:05
休憩
15:05-15:25
コメント
黒木英充(東京外国語大学)
15:25-15:45
コメント
速水洋子(京都大学)
15:45-16:50
ディスカッション
16:50-17:00
閉会
(18:00から懇親会)
本研究フォーラムは、東洋大学アジア文化研究所/湾岸移民社会研究会(科学研究費事業「『多外国人国家』における共生と分断」代表:細田尚美[香川大学])との共催で行われます。
存在をつなぐ縦糸と横糸
マレーシア華人社会の〈家族〉をめぐる論理
櫻田 涼子さん(京都大学GCOE研究員)
□日時 7月23日(月)18時10分~
□場所 東洋大学白山キャンパス 5403教室
□要旨
マレーシア華人社会は、他地域の漢族社会同様に父系社会とみなされてきた。父系出自を一つの基準とし関係性を切り、そしてその外にいる他者を取り込むことによって人びとを次代へつなぐという関係性の取り結び方は、確かにマレーシア華人社会における重要な諸局面で繰り返し立ち現れるフォーマルな理念であるといえるだろう。しかしマレーシアの日常生活をつぶさにみていくと、そこには父系出自イデオロギーだけでは説明できない実際、例えば非父系の家族も積極的に書き記す葬儀告知の興隆や、婚出した娘と実母、あるいは姉妹の協力により維持される子どもの養育実践などが確認される。それでは、一体この理念からはみ出す諸関係はどのように切り捨てられ、理念と現実の矛盾はいかに理解されるのだろうか。本報告では、家族の関係が表出する諸局面を検討材料として示しながら、ある関係が捨象される一方である関係が重視される〈家族〉をめぐるロジックについて考察を試みたい。
※終了後、白山近隣で懇親会を予定しております。
「外国人集住都市」における宗教組織の役割
静岡県浜松市を事例に
高橋 典史さん(東洋大学社会学部)
□日時 6月25日(月)18時10分~
□場所 東洋大学白山キャンパス 5403教室
□要旨
現在日本には多くの「外国人集住都市」を称する自治体が存在する。ただし、その大半は1990年の入国管理法改正以降に多数の南米出身の日系人労働者(とその家族)を受け入れた都市であり、その「外国人集住」の歴史は浅く、いわゆる大企業の「企業城下町」も少なくない。それゆえ、地方の工業都市が短期間のうちに急激な外国人住民の増加を経験したという点で、東京や大阪などの大都市とは性格が大きく異なっている。 本報告では、そうした「外国人集住都市」を代表する静岡県浜松市を取り上げて、地域社会において行政主導の多文化共生や国際交流の取り組みとは異なる領域において、外国人住民たちと接点を有している宗教組織(新宗教教団、カトリック教会)について考察を試みる。そして、地域の日本人住民と外国人住民とのあいだを架橋しうる存在としての各宗教組織の特徴を明らかにするとともに、そこに見られる諸問題についても指摘したい。
※終了後、白山近隣で懇親会を予定しております。
ナマコを捕る技法
タイの少数民族モーケンによる潜水漁の諸相
鈴木 佑記さん(日本学術振興会特別研究員PD)
□日時 5月28日(月)18時10分~
□場所 東洋大学白山キャンパス 5403教室
□要旨
視覚器官を持たないナマコの「マナコ」を通して、アジアの人びととナマコの交流史を描いたのは鶴見良行である(1990『ナマコの眼』筑摩書房)。それから20年後には、赤嶺淳がナマコに着目し、グローバルに展開される生物保全と食文化をめぐる問題について論じている(2010『ナマコを歩く』新泉社)。両著者とも現場を歩き、人びとの活動を見聞きしてナマコの生産・流通・消費の実態を明らかにしている。しかしながら、流通・消費に関する「厚い記述」に比して生産に関する記述は十分であるとはいえず、ナマコの捕獲方法については不明な点が多い。そこで本発表では、タイの少数民族モーケンによる潜水漁を事例として取り上げ、ナマコの生産の基底部分を成す「捕る」という行為に焦点を当てる。タイ政府が推進したアンダマン海域の国立公園化の動きと同海域を襲った2004年インド洋大津波の影響が、モーケンによるナマコ漁にいかなる変化を与えたのか、また彼らがその変化にいかに対応しているのかを明らかにする。そうすることで、動態的な生産の現場を浮かび上がらせることを試みる。
※終了後、白山近隣で懇親会を予定しております。
現代の「米国先住民」という枠組み
保留地および都市先住民のコミュニティーの比較による一考察
水谷 裕佳さん(東洋大学社会学部)
□日時 4月23日(月)18時10分~
□場所 東洋大学白山キャンパス 5403教室
□要旨
現在の米国領土内に居住する先住民の社会は、極めて多様で複雑である。本発表では、発表者が長く調査対象としているアリゾナ州のパスクア・ヤキ・トライブと、カリフォルニア州サンフランシスコ近郊の都市先住民コミュニティーを具体的な例として取り上げる。前者の社会はトライブ政府と保留地を基盤とし、後者の社会は非営利団体とコミュニティーセンターを基盤として機能している。さらに、前者に帰属する人々は同一の先住民文化を共有しているが、後者は多様な先住民族に属する人々によって構成されている。つまり、彼らは外部の者によって一括りに「米国先住民」と表現されているものの、実際にはその組織や社会が大きく異なっている。このような状況の中で、例えば米国政府による先住民政策や、研究者による先住民研究の文脈において、彼らをどこまで「米国先住民」という同一の集団として捉えることが可能であり、あるいは不可能であるのか、本発表では議論することを試みる。
※終了後、白山近隣で懇親会を予定しております。