〈学問〉とは何か? フィールドで考えたこと、教室で感じたこと
加藤剛さん(東洋大学客員研究員・京都大学名誉教授)
コメンテータ:倉沢愛子さん (慶應義塾大学名誉教授)
□日時 2019年1月28日(月)17:00~20:00
□場所 東洋大学白山キャンパス 8305教室
(地下鉄東京メトロ本駒込駅、または都営地下鉄白山駅)
http://www.toyo.ac.jp/access/hakusan_j.html
□要旨
〈学問〉とは何か?―学帽、マントに高下駄の旧制高等学校時代ならともかく現代の学生や研究者の間で、この問いが発せられることは滅多にないように思う。なにやら哲学的で難しそうだし、どう答えてよいかも分からない。勇気をもって口にしようものなら、「なにをいまさら」「そんなことも分からんのか」「なんとも青臭いことよ」、場合によっては「それを問うて何になる」と一蹴されそうだ。「さわらぬ神にたたりなし」である。しかし、なにかにつけ役に立つ研究が強調される今日、今一度この問いに立ち戻ることは大事だろう。
難しい問いに直面した時、助けになるのが「比較」であり「歴史」である。まず最初に、〈勉強〉、コンピューター、AIなどとの対比で〈学問〉とは何かについて、そして人類史における〈学問〉の意味について考えたい。次いで「フィールドは〈学問〉の道場」をモットーに、「〈学問〉は生きもの」をテーマに、自分の研究キャリア、具体的にはインドネシア村落やマレーシア村落を中心に行なってきた己のフィールドワークを振り返る。教室もいわばフィールドであり、長く研究所にいたためキャリアは限られるが、若干なりとも教育についても触れてみたい。いわば加藤の〈学問〉実践の遍歴である。この50年で東南アジアといわず世界は大きく変化した。それと並行するように年を重ねてきた自分の研究関心はといえば、継続しているもの、どこかにいってしまったもの、新たに生れたものと様々である。最後に、現在の個人的研究関心の一端を紹介する。
発表を通じて伝えたいメッセージは、「〈学問〉は時、所、職業を選ぶことなく、定年もない」ということ、〈勉強〉と違い「楽しくなければ〈学問〉ではない」ということである。
※終了後の懇親会の様子@イタリアンバールミラン
[Topic 1] The Quiet Revolution in Malaysia: Changing Mindsets as New Radical Politics
Dr. Goh Beng Lan
Associate Professor, Department of Southeast Asian Studies, The National University of Singapore (NUS)
[Topic 2] Between the Sultan and the Scientist: Disconcerted Knowledge of Mt. Merapi Disaster
Dr. Fadjar I. Thufail
Research Center for Regional Resources, Indonesian Institute of Sciences
[Topic 1] The Quiet Revolution in Malaysia: Changing Mindsets as New Radical Politics
Dr. Goh Beng Lan
Associate Professor, Department of Southeast Asian Studies, The National University of Singapore (NUS)
□Abstract
In this talk I explore new spaces and strategies of radical resistance in a bifurcated Malaysian society whereby Islamization has paralyzed resistance. Using evidence of a turn to spiritual/religious and cultural traditions in the quiet spread of alternative Islamic imaginaries not in accord with dominant conceptions, I show the creative ways through which ordinary Malaysians recover human compassion and conviviality in order to reject, minimize, and overcome ethno-religious differences. Such quiet practices show that radical politics can be inspired by local traditions and may have to being with mindful self-transformations.
[Topic 2] Between the Sultan and the Scientist: Disconcerted Knowledge of Mt. Merapi Disaster
Dr. Fadjar I. Thufail
Research Center for Regional Resources, Indonesian Institute of Sciences
□Abstract
Mt. Merapi sits in Central Java and is one of the most active volcanoes in Indonesia. Archaeological data indicates the oldest recorded eruption happened in the 9th century. The last big eruption took place in 2010. 275 people died of the eruption and many more had to evacuate their villages. Debates ensued following the eruption over the role of scientists and traditional leaders as responsible actors in disaster early warning system. The scientists accuse Mbah (elder) Maridjan, a local leader and a “caretaker” of the mountain, to have obstructed early warning procedure to evacuate. Mbah Maridjan was eventually killed by pyroclastic ashes but the debate lingers. This presentation discusses the controversy over early warning system of the 2010 eruption and will argue that claims made by scientists and local villagers mediate different forms of human-non human relations, between human and the mountain. Both scientists and traditional leaders interpret how Mt. Merapi “behaves”, but they read different signs and materials of the behavior. In other words, Mt. Merapi has acted as different agents for the scientists and the local people. In this presentation I follow how Mt. Merapi has acquired its agency in the reproduction of mythical power of the Sultan of Yogyakarta and in recorded eruption data that scientists have collected.
□日時 12月3日(土)18:15会場
□場所 東洋大学白山キャンパス 8305教室
(地下鉄東京メトロ本駒込駅、または都営地下鉄白山駅)
インドネシア外島部における森・土地をめぐる現場のポリティックス
――企業、先住民、移住者の動きから――
□日時 2018年11月17日(土)13:00~17:30
□場所 東洋大学白山キャンパス 10号館a301教室
(地下鉄東京メトロ本駒込駅、または都営地下鉄白山駅)
http://www.toyo.ac.jp/access/hakusan_j.html
□趣旨
インドネシア外島部のスマトラ島とカリマンタンでは、企業によるアブラヤシ農園開発、産業造林開発、石炭開発が進められている。これらの開発は、インドネシアの経済発展に貢献し、世界に重要な国際商品(パーム油、紙パルプ、石炭)を供給する一方で、熱帯林の減少による地球温暖化の促進や生物多様性の減少、森林地域に住む先住民の権利の侵害などの問題を引き起こしてきた。その実態がNGOなどによって世界に告発され、今や企業は環境・社会に配慮した生産を世界にアピールする必要に迫られている。また、インドネシア政府も開発と森林保護の適切な実施に向けた法律・規則を整備し始めている。民主化・地方分権化が進むことで、先住民の権利に関する法整備も進められ、国有林地域では企業による開発を重視した政策から地域住民が参画する社会林業プログラムに重点が移されるようになっている。 以上のようなグローバル言説(熱帯林・先住民の人権の保護、持続可能な生産と消費)やインドネシア国家法・国家政策の動きの中で、現場のアクターである企業、先住民、移住者はどのように交渉し、森・土地を獲得・保持しているのだろうか。また、どのような問題が現場で生じているのだろうか。本研究フォーラムは、インドネシア外島部における企業、先住民、移住者の森・土地をめぐるポリティックスの様相を明らかにしていく。
□プログラム:
13:00~13:10 趣旨説明 寺内大左(東洋大学・助教)
13:10~13:55
「ジャンビ州の森の民オラン・リンバの先住民権について――巨大アブラヤシ企業への抵抗と適応戦略」
報告者:中島成久(法政大学・教授)
コメンテーター:水野広祐(京都大学・教授)
13:55~14:40
「ランドグラッビングを進める企業の社会的責任に関する試論――インドネシア南スマトラ州の植林事業地における農民の『不法占拠者化』に着目して」
報告者:笹岡正俊(北海道大学・准教授)
コメンテーター:安部竜一郎(日本インドネシアNGOネットワーク運営委員)
14:50~15:35
「移住者によるアブラヤシ栽培への参入と経営面積の拡大プロセス ――リアウ州北部の旧バガン・シネンバ郡を事例として」
報告者:小泉佑介(上智大学アジア文化研究所・共同研究所員)
コメンテーター:永田淳嗣(東京大学・准教授)
15:35~16:20
「カリマンタンのコモンズ(慣習林)の2つの軌跡 ――木材伐採開発と石炭開発に対する焼畑民の対応から」
報告者:寺内大左(東洋大学・助教)
コメンテーター:宮内泰介(北海道大学・教授)
16:30~17:30 総合討論
日中国際結婚家庭におけるバイリンガル教育にむけたの言語的実践
戴寧さん(首都大学東京大学院博士後期課程)
□日時 2018年10月15日(月)18:15~
□場所 東洋大学白山キャンパス 8305教室
(地下鉄東京メトロ本駒込駅、または都営地下鉄白山駅)
http://www.toyo.ac.jp/access/hakusan_j.html
□要旨
異なる文化的背景の親を持つ日中国際児自身は、姓名や外見から異質性が顕著でないものの、中国人である親が日常的、非日常的に持ち込んだ周囲との異質性を感じつつも、日本的価値観に深く影響され、日本人として生きることを自然に選択することが多い。その背後に考えられる一つの理由としては、平等性と同質性を重視される学校という場で、かれらは「日本人になる」ことをしばしば求められ、あえて多様な背景をもつことを強調せず、日本人としての立ち居振る舞いに傾斜しがちである。とはいえ、いわゆる「日本人」とは違うことは、かれらの言語や居住地の選択を広げると同時に、自分自身の存在に対する疑問や困惑を生むきっかけともなる。したがって、本発表ではもう一つの教育現場である家庭に目を転じることで、国際結婚家庭におけるバイリンガル教育はどのようにして可能になるのか、具体的には、それについて親がとる教育戦略がいかに機能するのか、さらには、国際児がそれらに対して、いかに「柔軟」な働きをしているのかについて考察する。そうすることで、学校教育のみを通じては見えにくい日中国際児の主体性のあり方を切り出してみたい。
日本におけるロシア人の住まい――モノを語る、モノが語る
ゴロウィナ・クセーニヤさん(首都大学東京大学院博士後期課程)
□日時 2018年7月23日(月)18:15~
□場所 東洋大学白山キャンパス 8305教室
(地下鉄東京メトロ本駒込駅、または都営地下鉄白山駅)
http://www.toyo.ac.jp/access/hakusan_j.html
□要旨
本発表は、日本におけるロシア人移住者の住まいに着目し、住居自体やその中にあるモノの有り様を通じて移住者ライフを考える。住居のタイプについては主にオンライン調査で得たデータを用い、家の中や身の回りにあるモノについては現在進行中にある自宅訪問型のフィールドワークの成果を紹介する。その中で、インフォーマントの住まいにある家具や置物、小物等がロシア人移住者によりどのように語られ、移住者アイデンティティ構築やホスト社会との関係においてどのような役割を果たすか辿る。その一方で、研究者としての自己反省的なスタンスを保ちながら、モノが主体となって語るストーリーや、集団としてのロシア人移住者の住まいにて作り出されるパターンを模索する。モノが移住者の住まいの一部となるまでの過程にも注目し、日本のリサイクルショップの利用や移住者コミュニティ内のオンライン取引といった移住者による実践の位置づけを試みる。上述のように、本発表はモノの主体性を重視しながら、移住と物質性の相互関係の理解を展開することを課題とする。
中国雲南省の農村における人口移動の動向――仕事をめぐる若者の選択を中心に
阿部朋恒さん(首都大学東京大学院博士後期課程)
□日時 2018年6月18日(月)18:15~
□場所 東洋大学白山キャンパス 8305教室
(地下鉄東京メトロ本駒込駅、または都営地下鉄白山駅)
http://www.toyo.ac.jp/access/hakusan_j.html
□要旨
1980年代以降の急速な経済的構造転換に伴い、中国では農村から都市へ、あるいは西部から東部へと向かう大規模な労働移動の流れが継続してきた。地理的にも政治経済的にも“周縁”に位置する雲南省の少数民族居住地域においても、おおむね21世紀に入る頃には若年層の出稼ぎが一般化しており、若者の姿を欠く農村風景が常態となって久しい。しかし、地方都市近郊の一部の村落ではさらに新たな動向として、出身村に戻る/留まることを選択する若者の姿がみられるようになっている。彼らの多くは土地を継いで農業に従事するのではなく、むしろSNSを介して村の景観をアピールして観光化を図り、個人間電子商取引サービスを利用して親戚がつくる農産物を全国に向けて販売するなど、都市と村落を結ぶ媒介役を担うことで生計を立てていた。本発表では、同地域のハニ族、ラフ族、ワ族、タイ族、そして漢族の村落で実施した広域調査をもとに、中国周縁の「村落」が新たな価値を担う空間として主流社会へと包摂されつつあるという視点を提示したい。
ブギス社会における性とトランスジェンダー――ビッスとチャラバイ
伊藤眞さん(首都大学東京名誉教授)
□日時 2018年5月28日(月)18:15~
□場所 東洋大学白山キャンパス 8305教室
(地下鉄東京メトロ本駒込駅、または都営地下鉄白山駅)
http://www.toyo.ac.jp/access/hakusan_j.html
□要旨
南スラウェシのブギス人は、一般に、イスラーム信仰に篤い人々として知られるとともに、伝統的信仰と慣習を堅持していることでも知られる。そうした多様性を内包した信仰のあり方を、仮に「ブギス教」と呼ぶならば、そうしたブギス教の中心にあったのが「ビッス」と呼ばれる、しばしば宗教的両性具有として特徴づけられてきた儀礼祭司であった。今日、ビッスは、いくたびかの政治的変遷の中で、その社会的役割を大きく変えつつある。彼らに今日、期待される役割とはどのようなものなのか。それについて、ブギス社会におけるトランスジェンダーである「チャラバイ」との対比の中で考えてみたい。
ノマドがツーリストと巡りあうときーフランス市民社会の只中に現れるジプシーの「旅の共同体」について
左地亮子さん(東洋大学准教授)
□日時 2018年4月23日(月)18:15~
□場所 東洋大学白山キャンパス 8305教室
(地下鉄東京メトロ本駒込駅、または都営地下鉄白山駅)
http://www.toyo.ac.jp/access/hakusan_j.html
□要旨
フランスのジプシーは、移動という生活様式に基づき定住民社会の隙間に散在して暮らしてきた。かれらは専有する領土も強固な社会組織ももたず、 西欧社会の内を動き回ることで生き抜いてきたノマドである。しかし現在、進行する定住化とそれに伴う統治政策の下で、一つの名と特定の場をもつ「共同体」として集約、固定化、周縁化されつつある。本発表では、この人々を一元化し隔離する諸力との交渉の中で、ジプシーが新たに編みだす「旅の共同体」に着目する。定住する地域と押し付けられた共同体を離れ、束の間の旅をするジプシーが、実践やアイデンティティの同一性により境界画定された別様の対抗空間をたちあげるのではなく、異質な他者との偶発的な出会いと共在を享受しながら非同一的な共同体を生きる局面を探る。ゲットー化された定住地を離れ、ツーリストのごとく旅するノマドの経験を通して、現代社会における市民的共同性について新たな角度から考えてみたい。