ロマ民族の音楽創作に見られる民族アイデンティティの創造
――オーストリアを事例として
滝口 幸子さん(お茶の水女子大学大学院人間文化研究科博士課程)
□ 日時 2009年1月19日(月) 18:10~19:40
□ 場所 東洋大学白山校舎 5401教室
□ 要旨
ロマ民族は、ロマネス語とよばれる彼ら共通の言語を拠り所にまとまったエスニック集団である。彼らは、歴史・社会・文化的背景の異なるさまざまなサブグループで構成されており、音楽においても、ロマ民族全体に共通する「ロマ音楽」は存在しないと言われている。オーストリアでは、1980年代後半からロマの人権運動を中心とする動きが活発になり、彼らはロマ独自の文化を通したアイデンティティの復興を目指すようになった。本発表では、オーストリア在住のロマ音楽家の音楽創作に注目し、彼らが民族アイデンティティをどのように捉え、作品の中で表現しているのか考察する。
野生生物保全への地域住民の抵抗
――タンザニア・セレンゲティ地域における土地権利運動
岩井 雪乃さん(早稲田大学平山郁夫記念ボランティアセンター)
□ 日時 2008年12月15日(月) 18:10~19:40
□ 場所 東洋大学白山校舎 5401教室
□ 要旨
アフリカには、野生生物を保全するための保護区が国土の10%以上を占める国が多数あり、これらは、基本的には植民地時代に導入されたものである。保全政策の初期に導入されたのは「原生自然保護」(protectionism, fortress conservation)という、住民を敵視して排除する政策だった。それが、1990年代以降は「コミュニティコンサベーション」となって、住民に配慮した政策へとシフトしている。
このような野生生物保全政策に対して、地域住民はどのように抵抗し、あるいは適応してきたのかを、タンザニア・セレンゲティ地域の事例から分析する。本質的には、帝国主義的資源支配の論理から脱却できない保護区のあり方を明らかにしつつ、そこで展開される住民による日常抵抗や、近年の土地権利運動から、アフリカにおける野生生物と人間の共存のあり方を展望する。
海域クレオールとしてのサマ・バジャウ
――東インドネシア調査の展望
長津 一史さん(東洋大学社会学部)
□ 日時 2008年11月17日(月) 18:10~19:40
□ 場所 東洋大学白山校舎 5401教室
□ 要旨
サマ(バジャウ)人は,フィリピン南部からマレーシア・サバ州,インドネシア東部に至る広い海域に拡散居住している。その一部は、1950-80年代頃まで、沿岸・島嶼海域で船上生活を営んでいた。他のサマ人の多くも、生活様式や他の様々な面で海と密接に関係している。こうした生活様式ゆえにかれらは、東南アジア島嶼部を代表する海民集団のひとつとみなされてきた。
しかしながら、海民としてのサマ人は、けっして非歴史的な実体として存在してきたわけではない。たとえば、東ジャワ州のカンゲアン諸島のサペカン島では、1930年代以降に、在地住民と移民が海を生活の場とするようになり、その過程で同時に「サマ化」してきたと考えられる。この島では、現在でも出自に関わらずサマ語を日常言語化し、同時に自らをサマ人とみなす傾向が顕著にみられる。東インドネシアでは、このように異なる出自の人びとが海域フロンティア空間において混淆し、サマ人口を構成している例が少なくない。ここではサマ人は、いわばクレオール的な海民として生成してきたと考えられるのである。
本報告では、近年の東インドネシアにおける調査を紹介しつつ、いま述べたようなサマ人の集団編成のダイナミクスについて検討してみたい。
東アジアの境域研究
――済州人のトランスナショナリティを中心に
東洋大学アジア文化研究所プロジェクト「境域アジアのトランスナショナル・コミュニティ
――地域間比較研究の定礎に向けて」研究の一環として
組織者:松本誠一 (東洋大学社会学部/アジア文化研究所研究員)
□ 日時 2008年7月26日(土) 13:30~17:00
□ 場所 東洋大学白山校舎 6号館1階第3会議室
プログラム
コロキアム趣旨説明: 松本誠一(東洋大学社会学部/アジア文化研究所研究員) 13:30-13:50
報告
1. 高 成鳳(東洋大学非常勤講師)
「近代日朝間航路の中の大阪‐済州航路」13:50-14:20
2. 井出弘毅(東洋大学アジア文化研究所客員研究員) 14:25-14:55
「ポッタリチャンサ―日韓境域の行商人について」
休 憩(14:55-15:10)
3. 宮下良子(東洋大学アジア文化研究所客員研究員)
「大阪・東京の済州シンバンの事例を中心に―境域の巫俗的信仰」 15:10-15:40
4. 梁 聖宗(文化センター・アリラン専任研究員。耽羅研究会) 15:40-16:20
「東京における済州同郷親睦会の事例を通じて」
質疑応答 16:20-17:00
ベナンにおける民主化
――政治、宗教、メディアへの人類学的考察から
田中 正隆さん(高千穂大学人間科学部)
□ 日時 2008年6月23日(月) 18:10~19:40
□ 場所 東洋大学白山校舎 5401教室
□ 要旨
1990年初頭の社会主義体制の崩壊から、アフリカ諸社会は、東欧やラテン・アメリカと同様に、民主化路線へと転ずることになった。各国の政治体制は、権威主義的な無党、一党体制から複数政党制へ移行し、自由選挙による議会制、大統領選挙が行なわれている。こうした政治変動を間近に見聞しつつ、近年、社会運動、民主主義、ネオリベラリズムの人類学などの名称で「政治的なるもの」や「社会的なるもの」の検討がなされている。また、仏系政治学サークルは、現代政治の領域に対しての宗教や文化的領域の重要性を認識し、いかにそれらが密接に連関し、現実の場を構成しているのかを解き明かそうとしている。アフリカ民主化のモデル国とされるベナンでは、90年代初頭に国家アイデンティティのための伝統信仰再興がなされた。経済の停滞に悩みつつも2006年には平和裏に新大統領が誕生し、順調に世代交代が行われている。本報告ではベナンの近現代史を背景に、伝統信仰ブードゥ(ヴォドゥン)と政治、経済、メディアの連関を調査事例にもとづいて紹介する。
フェアトレードと文化
――大学における文化人類学教育の試みとして
子島 進 さん(東洋大学国際地域学部)
□ 日時 2008年5月26日(月) 18:10~19:40
□ 場所 東洋大学白山校舎 5405教室
□ 要旨
多くの文化人類学者は、文化人類学部(学科)に所属することなく、文化人類学の講義やゼミを担当している。そして、それぞれの置かれた立場で、専門と学部カラーとを接合する試行錯誤を繰り返しているものと思われる。今回は、そのような試みの一環として、フェアトレードを取り入れた事例を紹介したい。
発表者の所属する国際地域学部は、「国際協力と地域の活性化」をテーマとする学部である。この学部に所属する最初の文化人類学の研究者として、発表者は04年度から採用された(08年度より、人類学者は2人となった)。フェアトレードは「国際協力の新しい形」として注目を浴びている。また学生と行っている地元の商業施設での販売は、ささやかながらも地域の活性化に貢献するものでもある。また、よく知られるコーヒーやバナナ等の食品にとどまらず、刺繍や絵画などの「文化的な素材」が活用されていることも、フェアトレードの特色となっている。フェアトレードのこのような特徴を組み合わせることで、グローバルな文脈で生成される文化、生産者と消費者、その媒介となるNGO等に着目した文化人類学の研究と、国際協力の実践の両立を目指すことが可能になると考える次第である。
公道モータースポーツに対する開催地と隣国の世論の比較
――マン島TTレースの事例
小林 ゆきさん(東洋大学大学院社会学研究科)
□ 日時 2008年4月21日(月) 18:10~19:40
□ 場所 東洋大学白山校舎 5401教室
□ 要旨
道を閉鎖し行うオートバイのロードレース、マン島TTは、メガスポーツイベントとして世界的知名度がある一方、重大事故が発生することでも知られている。2007年には100周年を迎え、隣国イギリスのマスコミでも活発に報道された。本報告では、マン島の地元新聞エグザミナー紙の読者投稿と、イギリス放送協会(BBC)のウェブサイトにおける読者投稿から、開催国マン島とイギリス両国の世論の差を分析するものである。