熊野文化のダイナミクス
――熊野学と文化にまつわる複数の言説をめぐって
山本 恭正 さん(岡山大学大学院社会文化科学研究科)
□ 日時 2008年1月28日(月) 18:10~19:40
□ 場所 東洋大学白山校舎 5101教室
□ 要旨
今日、文化の概念は政治的意味に彩られ、それをめぐってさまざまな現象を生み出してきた。日本では本来、民俗学が扱う領域とされ、地元でさえ記憶の片隅に追いやられきた風習や伝統行事が、意識的に「文化」とされ広く流通するような「言説」が多くみられる。平成16年7月、紀伊山地の霊場と参詣道、通称・熊野古道がユネスコの世界遺産に登録されたことで、国内外を問わず熊野の文化遺産や景観が一躍脚光を浴びることとなる。
本発表では、日本の地域社会における文化の構築の問題に注目し、今まで熊野地方において「文化」と呼ばれていたものが具体的に何であったか。またそうでないものが、ある時期からそう呼ばれるようになったのはなぜか。そこにどのようなプロセスが存在し、背後にどのような力関係が作用しているのか。ちょうど世界遺産の登録と時期を同じくして、成立した「熊野学」と呼ばれる地域学での言説や、それに関連した研究会の活動などから、「文化」の表出のされ方について考えてみたい。
ナイジェリアの王を生み出す人々
――ポスト植民地時代の「首長位の復活」と非集権的社会
松本 尚之 さん(東洋大学国際共生社会研究センター研究)
□ 日時 2007年10月22日(月) 18:10~19:40
□ 場所 東洋大学白山校舎 5101教室
□ 要旨 ポスト植民地時代のアフリカ諸国において、特に1990年代に入って顕著となった現象の一つに、「首長位の復活」と呼ばれるものがある。多民族が共生するアフリカの様々な国で、国家が各民族の王や首長を保護し地域社会の代表として一定の権限を与える政策をとっており、近代国家と伝統的権威者が並び立つ状況が見られるのである。 本発表では、ナイジェリアのイボ社会を事例とし、「首長位の復活」と呼ばれる現象が、もともと王や首長と呼べる権威者をもたない非集権制の社会に与えた影響を論じる。国家政策を契機として創られた権威者の地位が持つ正統性の源を分析し、国家に包摂された現代のアフリカの社会的文脈において、王や首長の地位が持つ役割や意味について考えてみたい。
ヨーロッパにおけるマイノリティ
――済州人のトランスナショナリティを中心に
東洋大学アジア文化研究所プロジェクト「境域アジアのトランスナショナル・コミュニティ
――エスニシティ・地域コミュニティ・教育
組織者:山本 須美子 (東洋大学社会学部)
□ 日時 2007年7月28日(金) 11:00~17:00
□ 場所 東洋大学白山校舎 6号館1階第3会議室
□ 趣旨説明
ヨーロッパ諸国は、第二次大戦後の産業復興のために、1960年代をピークに多数の外国人労働者を受け入れました。その数は、例えば現在イギリスでは総人口の約8%を占めるまでになっています。外国人労働者の多くは定住の途を選んだために、各国は多文化・多民族の共生をめぐって、様々な問題を抱えています。
本研究フォーラムでは、日本では数少ないヨーロッパのマイノリティを研究対象とする人類学者が一堂に会し、最新のフィールドワークで得たデータを基に、現代ヨーロッパにおけるマイノリティ社会のダイナミクスについて論じます。EUの拡大・深化が進行している現在、ヨーロッパ各国のマイノリティをめぐる問題を比較検討することは、国民国家というヨーロッパ起源の政治的枠組みを内側から問い直し、新たな共同体構築の可能性を探る一歩になります。さらに本フォーラムでは、東南アジア研究者からのコメントをふまえて、国家とマイノリティの関係についての地域間比較に向けた展望を開きたいと考えています。
□ プログラム
澁谷努 (東北大学文学研究科専門研究員) 11:00~11:40
「移民の地域活動にみる共生と葛藤」
足立綾(東京大学大学院総合文化研究科博士課程) 11:40~12:20
「現代フランスと<ピエ・ノワール>―<セルクル・アルジェリアニスト>の活動からの一考察」
お昼休み(12:20~13:30)
石川真作(京都文教大学客員研究員) 13:30~14:10
「対話・承認・共生―ドイツにおけるトルコ系イスラーム団体の歴史―」
木村葉子(名古屋大学大学院文学研究科博士課程) 14:10~14:50
「都市に共生するマイノリティ-祝祭組織の構成員からみるロンドン―」
山本須美子(東洋大学社会学部) 14:50~15:20
「移民第二世代の学校適応とエスニシティ―イギリスの中国系移民の事例から―」
休憩(15:20~15:40)
コメント―地域間比較の視点から 15:40~16:10
相沢伸広(日本貿易振興機構アジア経済研究所地域研究センター)
奥島美夏(神田外語大学異文化コミュニケーション研究所)
総合討論 16:10~17:00
【問合せ】
山本須美子 yamamoto-s=toyonet.toyo.ac.jp(=を@にかえてください)
長津一史 nagatsu=toyonet.toyo.ac.jp(=を@にかえてください)
事務局 jinrui=soc.toyo.ac.jp(=を@にかえてください)
在日コリアンにおけるエスニシティと多文化的市民権
金 泰泳 さん (東洋大学社会学部)
□ 日時 2007年6月18日(月) 18:10~19:40
□ 場所 東洋大学白山校舎 5101教室
□ 要旨 日本社会の多民族化が進むと同時に、在日コリアンの社会位置もアイデンティティのあり方も変 容してきた。「在日コリアン」の形成過程、直面する諸問題をとおして、日本社会における「共生」の あり方を検討してみたい。
1.在日コリアンの現状
2.「在日」の形成とアイデンティティ・ポリティクス
3.エスニック・アイデンティティのジレンマ
4.在日コリアンと多文化的市民権
5.“責任ある”多元的社会の構築へ
ベトナム・ラムドン省に居住する異民族間の通婚関係
――その歴史と新たな通婚関係の成立
本多 守 さん(東洋大学社会学研究科博士後期課程)
□ 日時 2007年5月21日(月) 18:10~19:40
□ 場所 東洋大学白山校舎 5101教室
□ 要旨 報告者の調査地であるラムドン省には、主に8民族(キン族、コホー族、マー族、ムノン族、チュルー族、ラグライ族、スティエン族、華人)が居住する。
この8民族のうち、キン族、華人とマー族を除いては母系制社会を形成し、妻方居住を基本としている。一方、キン族、華人、マー族は父系制社会を形成し、夫方居住を基本とする。報告者はラムドン省に居住する少数民族マー族、コホー族≪チル集団≫の研究をしているが、その調査地では、この異なる社会を形成する成員同士の通婚がみられる。
特に革命後に増えてきたのが支配民族であるキン族と妻方居住を原則とする母系制社会を形成する少数民族間の婚姻である。この婚姻には二つのケースがある。それは支配層で行政機関に所属する者同士の婚姻と、北から計画移民、あるいは自由移民で南部にきたキン族と婚姻するケースである。そしてこの場合、前者はキン族が女性でキン族と少数民族が同じ職場であり、後者はキン族が男性で貧しい土地なしの移民である。前者の場合は、母系制社会で婚出しなければならない男子が、キン族の女性を娶り独立するケースであり、さほど違和感はない。しかし、後者の場合は貧しい農村の多子の家庭に生まれた男子が、母系制社会の女性と結婚して妻方居住をするケースである。発表者は、これら異なる社会を形成する民族の成員同士の婚姻の歴史と成立要因を明らかにし、その影響を明らかにする。
ドーズ法(1887)時代の先住民
――チャールズ・アレクサンダー・イーストマン(1858-1939)(オヒエサ)による大地の記憶の継承
三石 庸子 さん(東洋大学社会学部)
□ 日時 2007年4月23日(月) 18:10~19:40
□ 場所 東洋大学白山校舎 5101教室
□ 要旨
イーストマンは、母方の祖父は白人であるが、サンティ(東という意味)・スー・インディアン(ダコタ)で、1862年のミネソタ・スー蜂起に加わり処刑されたと思われていた父が15歳の時に迎えにくるまで、逃亡先のカナダで伝統的な先住民の生活をしていた。その後父の要請で17年におよぶ教育を受けて、医者となった。当時のアメリカ社会でもっとも活躍した先住民の一人であったが、同化政策として悪名高いドーズ法を支持したなどの理由で批判され、80年代半ばまで先住民としての貢献を評価されることがなかった。イーストマンが平原インディアン最後の戦いの時期のアメリカ社会をどのように生きたのか、イーストマンが残した多くの著作の中から、ウーンデッド・ニーの虐殺(1890)など同時代を扱ったテクストを選び、その貢献を先住民文化伝統の中に位置づける。