モノとの関わり方をめぐるポテンシャリティ
ゴロウィナ・クセーニヤさん(東京大学特任准教授)
土井清美さん(中央学院大学講師)
□日時 2020年1月20日(月)18:15~
□場所 東洋大学白山キャンパス 8305教室(8号館3階)
(地下鉄東京メトロ本駒込駅、または都営地下鉄白山駅)
http://www.toyo.ac.jp/access/hakusan_j.html
□要旨
本発表の目的は、人とモノとの関係のもち方における(潜勢性も含む)多彩な様式(モード)を解きほぐすことである。
マテリアリティに関する研究では、モノ側からの働きかけや、人とモノの相互作用に光をあて、そのダイナミックかつ濃密な関係を詳らかにする観点が注目されて久しい。発表者らはこうした方向性に部分的に沿いつつも、モノの有形性やマテリアリティを自明のものとせず、むしろ何らかの手続きを経るなかででふいに現れたり、人の手に負えないようなポテンシャルを擁したりするものとして考察の対象とする。
ゴロウィナ・クセーニヤは、在日ロシア人コミュニティによるロシア系移民が眠る古い墓地の保存活動に焦点を当て、墓地を歩き、墓を清掃する際のモノとの関わりによって可能となる死の可視化ないし死というものの具体像が表出するプロセスをたどる。その議論をもとに、彼らの移住生活に伴う実存的な複雑さへの対処についても模索する。
土井清美は、スペインにあるサンティアゴ・デ・コンポステラへの徒歩巡礼を事例に、日常生活では等閑視されがちな、モノとの関わりのなかで生起するマテリアリティについて考察する。またその議論をふまえたうえで、ハイデガーの「手許性」をもとにした「届かなさ(アウトオブリーチ)」の概念を用いて、モノとの潜勢的な関わり方について考察する。
山道を歩くこと、山間部を運転すること――ネパール・ソルクンブ郡、山岳観光地域における車道建設をめぐって
古川不可知さん(国立民族学博物館機関研究員)
□日時 2019年12月16日(月)18:15~
□場所 東洋大学白山キャンパス 8305教室(8号館3階)
(地下鉄東京メトロ本駒込駅、または都営地下鉄白山駅)
http://www.toyo.ac.jp/access/hakusan_j.html
□要旨
本発表の目的は、ヒマラヤの山岳地帯におけるトレッキング観光と車道建設を事例に、人間の移動には不可避的にともなう身体とモノや環境とのかかわりについて分析することである。
グローバル化の進展により、移動する人々の流れは地球上の隅々にまで達するようになった。エベレストの南麓にあたるネパール東部のソルクンブ郡にも、近年は年間数万人の観光客が訪れるようになり、建設工事の進む車道は山村社会を急速に変容させつつある。
これまでの移動をめぐる研究の多くは、人間の移動をマクロな現象として取り扱ってきた。その一方で、いかなる物理構造が移動を可能とするのか、また個別の身体を持つ人々は変化する環境のなかをどのように移動してゆくのかといった、物質的な側面についてはさほど注目されてこなかった。本発表ではまず、峻険な山岳地帯であるソルクンブ郡において何が「道」と呼ばれ、各地から集まる人々が山中をどのように歩いてゆくのかについて確認する。それを踏まえて山間部の車道建設の現状を報告し、山岳観光地域において車道はどのように認識されているのか、車の到来は山間部の生活にいかなる影響を与えるのか、そして山間部を運転するとはどのような実践であるのかを考察する。
在日コリアンを中心とするマイノリティとその地域性について
□日時 2019年11月23日(土)13:00~17:00
□場所 東洋大学白山キャンパス 8305教室(8号館3階)
(地下鉄東京メトロ本駒込駅、または都営地下鉄白山駅)
http://www.toyo.ac.jp/access/hakusan_j.html
□趣旨
在日コリアンが集住する地域は、歴史的経緯により産業労働者として生計を立てていたことから、主に都市部であることは自明のものである。その中でもっとも人口が集中しているのは大阪府であり、2018年度法務省在留外国人統計では、約10万人となっている。彼ら/彼女らは戦前から日本社会に定着し、それぞれの「地域」で異なった生活の様相を呈しているが、地域性に着目した検討は数少ない。本フォーラムでは、大阪府下の大阪市生野区、八尾市、堺市を取り上げ、各事例にみる地域性が、在日コリアンの生活実態やアイデンティティ形成とどのように関わっているのかを明らかにすることを目的とする。具体的には、済州島出身の在日一世、二世が多く居住する生野区における高齢者問題、八尾市における子ども会の権利運動、そして、その記録が社会史的にも脱落していた堺市における在日コリアンと被差別部落民が構築する生活世界を検討する。さらに、神戸市在住の奄美出身者にみる同郷性についての報告も含めることによって、基盤となる地域社会の通時的過程を総体的に捉える人類学的視点が重要であることを議論したい。
□プログラム
13:00-13:10 あいさつ 松本誠一(東洋大学・教授)
13:10-13:20 趣旨説明 宮下良子(大阪市立大学/東洋大学アジア文化研究所・客員研究員)
13:20-13:50 発表① 黒木宏一(新潟工科大学・准教授)
「大阪市生野区におけるデイサービスを拠点とした在日コリアン高齢者の地域生活とその特性」
13:50-14:20 発表② 鄭栄鎭(大阪市立大学・特任講師)
「八尾市における在日朝鮮人コミュニティの形成とトッカビ子ども会をめぐる権利運動について」
(休憩)
14:40-15:10 発表③ 中西雄二(東海大学・講師)
「国内移民の定着過程と『同郷性』――神戸在住奄美出身者の事例から」
15:10-15:40 発表④ 宮下良子(大阪市立大学/東洋大学アジア文化研究所・客員研究員)
「被差別部落に混住する在日コリアンのエスニシティ――大阪府堺市の事例から」
15:40-16:00 コメント 野村伸一(慶應義塾大学・名誉教授)
16:00-16:20 コメント 伊藤亜人(東京大学・名誉教授)
16:20-17:00 ディスカッション
懇親会
Not for Sale: Artistic Reaction to Overdevelopment of Bali Tourism
Prof. Dr. I Nyoman Darma Putra(Faculty of Literature and Culture, Udayana University, Bali, Indonesia)
□日時 2019年10月21日(月)18:15~
□場所 東洋大学白山キャンパス 8305教室(8号館3階)
(地下鉄東京メトロ本駒込駅、または都営地下鉄白山駅)
http://www.toyo.ac.jp/access/hakusan_j.html
□Abstract
The Indonesian Government has set a five-year target of receiving 20 million international visitors by 2019, half of whom are expected to arrive on the small island of Bali. While there has been a lot of public concern over the overdevelopment of the tourism industry in Bali, this new target for Bali to attract 10 million tourists adds to the growing negative reactions by community members toward tourism in particular, and to development in general. The controversial project of land reclamation in Tanjung Benoa Bay, near the Bali airport, has triggered much protest and opposition. Among other means, such concerns are expressed through artistic art installations, popularly known as 'Bali not for sale'.
This presentation discusses the recent popular movement 'Bali not for sale' as a critical reaction towards tourism development in Bali. It discusses the background of the reaction, artists involved, and its significance to UNESCO's inscription of “Cultural Landscape of Bali Province” as a World Heritage Site. The paper argues that this movement can be seen to reflect two themes of opposition to development: on one hand it echoes a negative attitude towards acceleration of the transformation of agricultural land into tourism related facilities, hence a call for a halt of the environmental exploitation of the island of Bali. On the other hand, the movement encourages communities to maintain use of land through agriculture as cultural heritage, not only as a source of income but also to preserve the uniqueness of Bali's landscape which adds to the aesthetic attractiveness of the island as tourist destination.
The Expansion of Tabligh Jama'ah and its Influence on the Religious Belief of Bajo People
Dr. Benny Baskara(Lecturer, Department of Anthropology, Halu Oleo University, Kendari, Indonesia / Visiting Scholar, Center for Southeast Asian Studie, Kyoto University)
Commentator: Makibi Nakano(Graduate School of Asian and African Area Studies, Kyoto Univiersity)
□日時 2019年7月29日(月)18:15~
□場所 東洋大学白山キャンパス 8305教室(8号館3階)
(地下鉄東京メトロ本駒込駅、または都営地下鉄白山駅)
http://www.toyo.ac.jp/access/hakusan_j.html
□Abstract
Tabligh Jama’ah is a sect of Islam originating in India which has rapidly spread and developed in Southeast Asia, including Indonesia. The spread of the Tabligh Jama’ah in Indonesia even already reach remote areas to indigenous people and marginalized ethnic groups, which one of them is the Bajo people. Therefore, this paper wants to analyze the expansion of Tabligh Jama’ah movement to the Bajo people and its impact to their religious belief.
The Bajo people are the most distantly dispersed and widespread indigenous ethnic group in Southeast Asia, known widely as “sea people” because of their marine based livelihoods. Because of their fluid identity and vast mobility, their socio-cultural sphere is characterized by syncretism and symbiosis. This is true also for Bajo religious belief, which developed as a form of syncretism and symbiosis between their indigenous beliefs and Islamic belief.
The impact of the Bajo people’s acceptance to the Tabligh Jamaah’s teaching mainly is the change in their religious belief, which is more predominantly by Tabligh Jamaah’s teachings, and the syncretism and symbiosis in their indigenous belief is no longer appear. The life of the Bajo people also becomes more fatalists because of the influence from the Tabligh Jamaah’s teachings.
アフリカ牧畜民女性のライフコースの多様化――伝統規範にしばられず、開発ディスコースにもおどらされずに生きる術
中村香子さん(東洋大学准教授)
□日時 2019年6月24日(月)18:15~
□場所 東洋大学白山キャンパス 8305教室(8号館3階)
(地下鉄東京メトロ本駒込駅、または都営地下鉄白山駅)
http://www.toyo.ac.jp/access/hakusan_j.html
□要旨
社会が急速に変容している現代アフリカにおいては、女性のライフコースも激変を迫られている。学校教育の普及とともに、出産年齢があがり、多くの社会で繁栄や豊かさの象徴であった多産に対する価値観も変容しつつある。近年、その勢いを増す「ジェンダー平等の実現」を目指す取り組みによって、従来の結婚の形態は「児童婚」「強制婚」とカテゴライズされ、処罰の対象となった。また、結婚や出産とのつよい関連のもとで実施されてきた女子割礼・女性性器切除(FGM/C)という慣習に対しては、その根絶に向けて世界規模の取り組みが強化されている。
本発表では、発表者が1998年から現地調査を継続しているケニアの牧畜民サンブルの社会を事例としてとりあげる。この社会では、一夫多妻の家父長制のもとで性別と年齢にもとづく徹底した分業体制がとられており、政治・経済・宗教に関するあらゆる権限が年長男性に集中してきた。すなわちサンブル社会は、「ジェンダー不平等」を社会・文化の構造に強固に埋め込んできた「長老制社会」であった。このような社会で、女性のライフコースはどのように変容しているのだろうか。本発表では、現地調査によって得た資料を紹介しながら、従来の厳格な社会規範と、近年に浸透してきた強力な開発ディスコースとのあいだで、女性がみずからのライフコースに関して多様な選択肢を創出しながら、主体性を獲得してゆくプロセスの一端を明らかにする。
「ムスリム女性」のステレオタイプに抗う――エジプト女性の宗教実践を事例に
嶺崎寛子さん(愛知教育大学社会科教育講座准教授)
□日時 2019年5月13日(月)17:00~19:30
□場所 東洋大学白山キャンパス 8602教室(8号館6階)
(地下鉄東京メトロ本駒込駅、または都営地下鉄白山駅)
http://www.toyo.ac.jp/access/hakusan_j.html
□要旨
グローバル化が進む昨今ですら(だからこそ?)、「ムスリム女性」の実態やその「リアル」は、なぜか未だに捉えがたいものとしてある。ジェンダー・オリエンタリズムや、9.11以降、ムスリム女性の救済を口実に侵攻を正当化するグローバルな政治の文脈にムスリム女性の表象が巻き込まれ、それが政治化したことがその背景にある。ムスリム女性の表象は政治化し錯綜し、当事者の声は聞き手側に都合よく選別・編集されるか、あるいは届かない。
本発表では、「主体的に女性であり、かつムスリムであるとは彼女たちひとりひとりにとってどういうことか」という問いを、現時点までの発表者のエジプトでの調査をもとに考える。調査は主に2000年から2008年(および2016年)にかけて行った。エジプトの家庭に居候させてもらい、女性説教師が主催する女性のためのイスラームの勉強会に出、女性たちがウラマー(イスラーム法学者)に電話で寄せた悩み相談に耳を傾けるなどして得た資料から、彼女たちの等身大の姿と、彼女たちの日常に織り込まれるイスラームの姿を、特定の社会的経済的文脈に位置づけつつ示す。
さらに、ジェンダー・オリエンタリズムの席巻する日本で、日本語で「ムスリム女性」を研究することの意義についても考えたい。