8回 専門家インタビュー June. 2021

AIを使った政策研究と社会ニーズの方向性

近藤 このAIシミュレーション研究は、社会に関するデータが蓄積されると色々な提言に利用できるという良い可能性を示していると思いました。社会に関するデータというのは基本的には公共財なので自治体がそのデータを誰でも利用できる形で公開しておいて、今回の広井先生や日立さんみたいな人々が沢山現れて、色々なモデリングをみんなが提案するみたいになったら、素晴らしいと思います。実際に色々な自治体の方々と付き合ってみて、データの公開は可能だと思われましたか。


広井 そこは我々もある意味では岐路かと思います。1つの姿として、例えば自治体が総合計画とかその他を作る時、こういったAIのシミュレーションを使うことが当たり前になっていくような時代が来ることです。しかしモデルの開発が難しいなど色々なハードルがあるので、これ以上普及しないで終わるかもしれませんし、我々も今第2ステージに入ってきたという感じはしています。


須藤 補足ですが、総務省の「地域の未来予測に関する検討ワーキンググループ[14]」から提言が出ていて、今後自治体においては地域の未来像・未来シナリオをシミュレーションし、そこから望ましい未来というのを考えた上でバックキャスティングして政策を作っていくべきだという提言が出ています。そのワーキンググループに私たちは参加していないのですけれど、奇しくも私たちが取り組んできた政策提言の手法と同じ様なことを言われていて、それが最近公表されています。まだ1つのワーキンググループからの提言で、どこまで本筋の流れになるか分からないですけれど、総務省の自治体を管轄するところの1つの見解として出ているというのはある程度追い風だなという風に感じています。


近藤 自治体はこういうデータをオープンにすることにどれぐらい前向きだという印象がありますか。


広井 例えば、兵庫県はどういうパラメータを使ってどういう計算をしたかというかなり詳しいデータを公開していますし、福山市、高浜市でもシミュレーションを行いましたがそのデータを公表しています。透明度を高めるというか福田さんの話にもありましたが、つまりAIは意思決定をブラックボックス化するのではないかという批判がある半面、実際のところはシミュレーションにつかうデータはオープンにして、またその結果をつかってどうやって意思決定をしたかもオープンにできれば、むしろ透明性は高まると思います。ですから、データのオープン化も一定のプラス面があるのではないかと思います。


近藤 データが公開されれば、追試できますので、そういう意味ではオープンというかブラックボックスではないですね。


福田 総務省あるいは経済産業省のRESAS[1]みたいな仕組みでは、最近はなるべくデータを公開しようという動きになっているので、自治体も総合政策をなるべくもっとオープンな形・追試出来る形でデータを出す方向性だと思います。私たちの政策提言AIを使うことも、その一環だとは思うので、やる気はあるだろうと思っています。


中村 EBPMやオープンガバメントは、政府の大きなトレンドになっているので、もちろん色々難しい面もあるのですけれど、ここは動いていくのではないかと思います。我々は、自然環境の外部経済というのが政策に入っていかないところを課題としてあげています。国交省がやっているグリーンインフラの整備効果についても、自然環境を整備した時に単に生物が増えるというだけでなくて、経済だとか健康だとかウェルビーイングというところにどう効くかみたいなところをどう可視化して経済に取り込むかというところかと思っています。今日伺った話で、複雑な環境をモデル化できて、政策提言に繋がると自治体も国も色々なセグメントですごく効くなという感じがしました。


広井 まさにそういう方向になっていけばと思います。


中村 それと、社会データベース、生物や環境のデータベース、また国交省的に言うと3次元地図データもそうですが、国が整備するのか、民間と併せて整備するのか、あるいは民間が主導になって整備するのか、という戦略は結構悩ましいところです。3次元地図は、アメリカでは民間ベースで動いていて、公共に売る形でビジネスモデルを組んでいます。私は日本の測量業者にもそれをやったらと言っているのですけれど、中々厳しいので、国と企業のミックスで整備していくのが妥当な線じゃないかと思っているのですけれど、その辺の戦略も結構大事ですよね。


広井 もっと地域に即した精緻なバージョンで政策提言をするためには、自治体だけでなく企業ともうまく連携し、さらに統合していければと思っています。私たちの政策提言AIは今まで試行錯誤しながら、それなりにある程度まで広がってきましたが、それが更に広がっていくためには、多様なステークホルダーを含めた構想が必要です。今後も普及に努めていきたいと考えています。


竹内 本日は多岐にわたるお話、どうもありがとうございました。私たちのチームの報告書にも重要なインプットを得られたと思います。