5回 専門家インタビュー Apr. 2021

「自然共生社会」の実現のためのNGOの役割と課題

竹内 これまでのNACS-Jさんの活動のなかで、生物多様性の浸透や社会的な意識の改革がボトムアップ的に広がっていくのがよくわかりました。今後もNGOの役割はどんどん大きくなると思いますが、今後の活動としてどういう方向性をお考えでしょうか。


道家 自然保護協会という組織としては、2つの路線を同時に追う必要があると思っています。1つは、純粋に自然保護の強化ですね。絶滅危惧種とか重要な生態系だとかを守るということについて、しっかり特化して声を発し続けることがやはり重要だと思います。それと同時に、よりクリエイティブな路線というか、自然を守りながら社会の色んな課題も解決できるというものを見せていく、ということです。どちらかではなく両方追及し続けなければならないと感じています。


竹内 NACS-Jさんは市民に接する機会も多いので、市民の温度感も実感しやすいでしょうし、市民とのインターフェースとして活躍されることを今後も期待しています。

   最後に、私たちのチームは「自然共生社会」の基盤となる生物や生態系データをインフラとして整備し、データとAIモデルを使って生物多様性や生態系サービスを評価・予測し、さらに社会ニーズに答えるようなアプリケーションツールを開発するといった研究計画を立てています。具体的に、こういったツールがあるといいみたいな、希望やニーズはありますか。


道家 一つは、レッドリストがこのまま作り続けられるかといった問題があります。ナチュラリストやセミプロの自然愛好家は、希少な生き物がどこにいそうかが分かったり、見ただけで種を判別したり、一般人では到底真似できないような技術や感覚をもっていますよね。この環境に、この時期生育するこの植物だったら、ここを見分ければ種の同定ができますよ、といった判断技術はアートに近いものがあると思っていますが、そのような生物同定の技術も失われる可能性があります。レッドリストが作れない、現場の情報が分からない、というのは非常にまずいと思います。それは、赤信号のない道路を走るような世界に近いかもしれません。警報がちゃんと鳴る社会は実はものすごく大事で、赤信号をともす技術が失われようとしていることには危機感があります。そういった状況では、専門家の知見や知識、ノウハウも含めて集約するシステムが必要なんじゃないかと思っています。例えば、フィールド調査の際にアプリケーションのようなものを活用して、そこにレポート、調査結果とかや写真を色々載せられるようにして、データはデータで集約されていってその場でも結果がみれるようなものがあるといいですね。自分でとったローカルなデータをデータベースにいれると、それが自動的に解析されて、全国的な位置づけも把握できるようなシステムだと楽しんで出来そうです。共通の端末、データベースも大事ですけれど、個人としてもデータが還元される仕組みが大事です。さらにデータを入れることにお金が発生するとか、楽しんで活用できるヒューマンインターフェース的なところも考えられているといいですね。さらに、写真を撮れば種の同定を助けてくれるアプリがあれば、ますます調査も便利になると思うので何か繋がるといいなと思います。


竹内 種同定は、フィールド生態学では既に直面している課題です。一番最初のお話にも高齢化問題がありましたが、フィールドでの生物データの取得では人的資源不足は一番根本的なところですよね。AIは判別が得意なシステムなので、データが溜まると同時に種同定のような技術も進めていけるとよいですよね。


道家 NACS-Jでは、ほかの企業さんに協力していただいて、センサーカメラの自動解析などもやっています。2030年、50年やその先は、現場の調査は極力簡易なものになっていって、むしろ保全や管理のほうにもっと力が注がれるという状態を作らないとまずいなという気はします。