竹内 政策提言AIのプロセスでは、ワークショップなどで市民と対話する機会があるとのことでしたが、AIシミュレーションは、市民にどのように受け入られるか、もしくは受け入れらないこともあるのかなど、お伺いできますか。
須藤 福井新聞の例では「市民の人が、自分たちがどういう町に住んでいきたいか」をテーマにしていたので、賛同して集まってくださった方々が多く、反対や懐疑の声は出て来ず、AIシミュレーションのよい面を捉えていただいたと思います。「こういう福井に住みたい」という意見は一人一人違っているので、意見を集約する話し合いは収集がつかなくなることもあります。しかし、政策提言AIのシミュレーションをもとに話し合いをすると、この中でいうとこれかなという話になり、共通認識がうまれて、議論が非常にしやすかったという声がありました。この時は、最終的に5~6個の未来像にまとまりました。自治体の場合も、将来像をシミュレーションするニーズは元々あります。自治体は、総合計画を立てる上で「将来こうなりたいから今こうするべきだ」という考え方をするのですが、その「将来こうあるべき」というのは中々考えにくいというのがあります。というのも、将来の地域に関する情報は、国立社会保障・人口問題研究所の人口推定ぐらいしかないのです。この情報からは、自分たちの自治体が何年後に人口が減って、高齢化率がこうなる、というのが分かります。しかし、大体地方都市だと人口に関しての傾向は似通っています。そのため、おのずと将来の人口から考える未来像も似通い、地方自治体で特徴を出すことが難しいという状況にあります。
そういった問題意識があるので、人口推計だけじゃなくて、自分たちの任意の指標が将来どうなるのかについてシミュレーションの結果が出てくると、自分たちのオリジナルの地域像を作りやすいという良い面の声はあります。マイナス面の声で言うと、モデルの作り方とかシミュレーションの手法論の理解が難しいことです。そこは課題ですが、やはり将来像を予測できるというツールは類似のサービスとしては他にないので、賛同していただける声は多いなとは思います。
竹内 「AI」といった言葉は、最先端の科学技術を連想させて興味を引くキーワードではあるのですが、一方で、そもそもの科学への信頼や、結果の解釈のためのリテラシーなどもあって障壁になる場合があるのかなと思っていたのですが、割とポジティブな声が多いというのは非常によい方向性ですね。
広井 このAIシミュレーションモデルの特徴は、色々な要因の関係性・相互関係を重視しているというのが特徴です。従来の自治体の未来予測というのは、人口は人口、経済は経済、環境は環境、といったようにそれぞれ独立して予測したり指標を設定したりしています。そうではなくて、色々な領域の関係性に注目しているというのが、福田さんが開発したモデルの1つの特徴です。例えば以前に同僚だった千葉大の倉坂先生という方が「未来カルテ[13]」というモデルを作っています。未来カルテでは、自治体名を入れると2050年に向けた色んなフローやストックを含めた指標のそれぞれ予測値がすぐ出てくる、素晴らしいシステムですが、このモデルは、それぞれのパラメータを独立に扱っています。一方で福田さんの開発したモデルは、要因間の相互作用やトレードオフの関係を含んでいるのが特徴で、私は「関係性モデル」と読んでいます。ある意味では生態学的かもしれないですね。自治体の計画は、おのおのの指標について割と総花的でいいことばかり書いているけれど、本当は色々トレードオフの関係があってプライオリティを設定しないといけない。その辺が割とはっきり出るというのが面白いところで、今後深堀していけたらなと思っています。
[13] 人口減少・高齢社会のインパクトを地域レベルで実感できるよう、2050年の各自治体の姿を視覚化するプログラム 「未来カルテ2050」 https://opossum.jpn.org/