竹内 現在、日本では脱炭素化が急速に進んでいます。あまりに急激な変化なので、例えば風力発電を建てる際の生物多様性や生態系のアセスメントは、どれくらいしっかりできているのかな、と傍から見てて思うんですけれど、NGOの立場からはどのように見ていますか。
道家 日本の状況に関していうとNACS-Jの中では非常に強く懸念をしています。なんというか、ずっと宿題をさぼってきて急にやらないといけなくなり、その結果自然にしわ寄せがいっている、といった感覚です。うちのチームは、脱炭素化のために環境アセスメントの規制緩和を行うべきでない、と考えております。拙速に意欲的な目標を立てるのであれば、併せて丁寧な合意形成が必要だと私たちは考えてますし、アセスメント要件の規制緩和は真逆の方向性だと思います。環境アセスメントというのは、声を発せない自然の立場をアセスメントで定量的に示して、声にして発するということで、ある意味自然と人にとっての民主主義みたいなものです。この仕組みをないがしろにするのは問題です。脱炭素化を急速に進めることが生み出す課題は、日本だけでなく世界的にも起こっているので、IUCNも最近「再生可能エネルギーに関するアセスメントのガイドラン」[14]を改定して、再エネのインフラ建設は、生物多様性のリスクが伴うことを明言し、あるべきアセスメント手法を提示しています。日本では、今(取材時)温暖化対策推進法が議題になっていますが、その中で国立公園をまた開発のターゲットにしようという議論も出ています。地熱発電は、今までは普通地域だけを対象としていましたが、特別保護地域にも拡大するとか、また風力発電も保護地域で行う、といった考えが出ているようです。それには反対する立場なので、国会への働きかけも行いながら、適正な形に持っていけないかと思っています。
竹内 急速に進むと摩擦というか、自然にしわ寄せが行く懸念は確かにありますね。一方で、再エネも生物多様性保全も両立ができるようなアプローチはないでしょうか。
道家 はい。ポジティブな関わり方も探していくことも議論しています。NbSの考え方のように、自然再生には、CO2の吸収力を高めたり、将来の排出を抑制したりといった、コベネフィットがあると我々は考えています。例えば、自然保護協会のプロジェクトで、群馬県のみなかみ町(温泉で有名)に広がる森林で行っているAKAYAプロジェクト[15]があります。みなかみ町の国有林は管理不足の人工林で、それを自然林に切り替えていくことが目的の一つにありますが、同時にその材を利用して経済を潤すことを考えています。さらに、人工林を伐採すると空間ができるので、そこをイヌワシがウサギを捕まえることができるような場所になり生態系にとっても食物連鎖が循環する場所となります。また人工林を伐採して自然林に転換していくステージのなかでは、絶滅危惧種の保全と地域支援、それからCO2の吸収量がどう高まるか、場合によっては土壌における吸収量増加も含めて高まるか、などを研究機関と一緒に定量化して評価しようとしています。この活動は、金融機関からの寄付金も貰いながらやっています。
竹内 これは、まさしくNbSの実践で、地域循環共生圏にもつながることですね。活動の波及効果が可視化できれば、研究としても社会の実例としても面白いと思います。