竹内 三枝さんがやられているFLUXNET[9]なども脱炭素社会の実現をサポートする科学的エビデンスの点から、非常に重要な役割を果たされていると思います。FLUXNETなどの観測データ・ネットワークが、脱炭素社会を実現するためにどのように貢献するか、お考えをお聞かせください。
三枝 私が元々参加しているFLUXNETでは世界中に観測点があり、「このタイプの森林ではこういう気象条件ではこういうスピードで二酸化炭素を吸収する」という観測データを世界中から集めることをひたすら行っています。そのようなデータを集めて、世界の森林の二酸化炭素吸収の将来予測を行う研究なども行われていますが、この研究を一生懸命やってもそれだけで脱炭素社会ができるわけではありません。この研究と脱炭素社会をどう繋げていくか、たぶんその間にいろんな研究を作っていかないといけないし、繋いでいく必要があると思います。例えば、国立環境研究所は、産業技術総合研究所とは違って脱炭素の技術を開発する研究はあまりしていませんよね。私たちの仕事は、世界のどこで温室効果ガスが排出され吸収されているかについて現状把握することや、気候の将来予測を向上すること、そして将来の気候が社会や環境への与える影響を評価することなどだと考えています。私自身はFLUXNETの1サイトでじっくり研究する仕事からは外れてしまいましたが、それをやっている個々の研究者には、しっかりデータをとって、世界のフラックスデータベースに貢献し、それを世界のモデラ―が自信を持って使えるようにしてほしい、と言ってます。また私は現在、地球全体の風の流れを計算する研究者たちと一緒に、地面ではなく大気中の観測から地表の温室効果ガスの排出や吸収を推定する研究、例えば、ヨーロッパでは温室効果ガス排出がここでは減ってるけどここでは増えているとか、アジアからの温室効果ガスの発生量は2000年代までは増え続けてきたけど、ある年から対策が効果を結び始めて減りはじめた、などの評価ができるようにする研究をしています。ほかにも、東京での温室効果ガス排出量の準リアルタイムモニタリングが出来るようにしようとしているグループもあります。東京や横浜など世界のメガシティと呼ばれている都市では、脱炭素化の意識が高いところだと2050年までに独自にネットゼロをめざすゼロカーボンシティの実現に向けて頑張っています。大都市の温室効果ガス排出量の準リアルタイムモニタリングが出来れば「交通、産業、オフィス、家庭も一緒に頑張って削減の取り組みを行ったら、このぐらい減りました。もうちょっと頑張ればここまでいけます」のように、削減目標達成の動機づけを高めるようなものを作れるかな、と思っています。やっぱり人間、頑張った結果がすぐわかるとやる気になりますよね。このように、人為起源・自然起源の排出量・吸収量の準リアルタイムでの見える化やそのための解析システムなど、パリ協定などの交渉の場に利用できるデータを作るための研究をしたいと思っているところです。
[9] FLUXNET: 二酸化炭素・エネルギーフラックス観測の世界的ネットワーク https://fluxnet.org/ 地域コミュニティである、AsiaFlux, JapanFluxなどもある。