8回 専門家インタビュー June. 2021

AIシミュレーションが示す持続可能な社会の姿:多極集中型の実現の道筋

竹内 AIシミュレーションでは「分散型社会」のほうが持続可能であるという結果になっていると思いますが、分散の程度についても分かるのでしょうか。


広井 そこは非常に重要な点で、よく聞かれる点でもあるのですが、実は2017年のAIシミュレーションは都市集中型か地方分散型かという大きな方向性を出していますが、例えば何十万、何万規模の都市がどういう風に分布するものであるかとかそういったあたりまでは出せていません。その点、別のアプローチで試行しようとしています。実は、これまでのAIシミュレーションの結果でも、単純な集中でも単純な分散でもなく、集中と分散の適度な組み合わせがよいというところも見えています。2017年バージョンも、正確に言いますと分散型が望ましいけれど、単純な分散ではなくて分散の中に一定の集中が含まれているようなモデルが割とパフォーマンスがいいという結果が出ています。「分散しつつ集中する」ことを、私は「多極集中」と言っていまして、多くの極があるけれども、それぞれの極はある程度集約的な姿、私の中では、ドイツなどは割とそれに近いと思っています。そういう多極集中的な、分散しつつ集中する姿が浮かび上がってきていると考えたりしています。


桑江 そうすると例えば人口5万人規模の地方自治体を沢山全国に配置するというようなことになりますか。


広井 「多極集中」の極は、どれも同じような極というよりは、大から小までといいますか、100万の都市もあれば50万もあれば5万、1万もあるという状態です。ドイツは、5万、1万、中には数千の規模の町村でも、どこも割と賑わいを保っていますね。規模は大から小まで大きく違ってくる。均質な極が全国にくまなく分布しているというよりは、重層的に大から小までが有機的に連なっているようなイメージを漠然と考えています。その辺をもうちょっと掘り下げていければいいなという風には思っています。


桑江 今日のお話を伺って考えていましたが、ものすごく単純化して将来を考えると、一極集中より多極集中のほうがCO2排出と財政が厳しくなってしまいますよね。そうすると、環境税と炭素税を取って財政を回すというのが、唯一解であるように聞こえてしまったのですが、そういうイメージを持っていらっしゃるのでしょうか。


広井 それはまた重要な点で、福田さんのお話でもあった通り、都市集中型は人口や個人の幸福などは×が多い中で財政と環境は〇がついています。ただ、我々はそれでも都市集中型よりも地方分散型がよいと考えているのですが、中には財政と環境がよいのだから都市集中型のほうがよいという判断・意見も当然あり得えます。それは、我々でも議論している点です。しかし、2017年バージョンというのは単純なシミュレーションになっていることもありまだ検討すべき点があります。特に集中型が環境の項目で×になっているのかというのは十分分析しきれていないのですけれど、少なくとも2つの理由があると考えています。1つは、集中型のモデルというのは人口が減っていくモデルです。皮肉なことに、人口がどんどん減っていったら、環境には色々な面でプラスになるので、それは果たして望ましいのかというのもあります。もう1つは、集中型がプラスに働いているのは、CO2排出の面です。例えば、車依存は東京よりも地方のほうが大きくて、東京は公共交通で大体移動しますから、自動車保有率は地方の方が大きいです。分散型になると、自動車保有量がもっと増えて、CO2排出が増えることも起こります。この辺りは、例えば脱炭素社会の流れが進めば変わり、地方での公共交通が改善する方向に向かう可能性があるので、我々としては全体を見ると分散型のほうがパフォーマンスがよく出ているものが多いので、分散型を望ましいとしています。一方で、財政と環境は集中型がよいということを考えると、「既存の延長ではない分散型」といった新たな分散型のモデルを考える必要があると考えています。実は、兵庫県の結果もそれを示すもので、この新しい分散型モデルが、我々の次の課題です。さらに、生態系との関わりも含めて集中と分散の組み合わせという従来の延長ではない姿を探っていくことは、結構面白いテーマであると思っています。


近藤 AIシミュレーションでは、過去数十年でこの要素とこの要素の間にはフィードバックが働いていなかったけれど、ある外圧をかければフィードバックができるというようなパスを考えることができますよね。その外圧は、法律とか社会のルールなどであると考えれば、効率的に理想の状態の社会システムに持っていくための提案ができるのではないかと思いました。


広井 それは非常に鋭いご指摘です。長野県の例では、当時の阿部知事も、これまでの延長にない、このモデルにはない新たなパスの政策でやることで、新しいフィードバックとなり効果がうまれるのではないかとおっしゃっていました。兵庫県の例では、全体のパフォーマンスは分散型がいいのですが、経済の面だけ見ると分散型より集中型がいいという結果だったのですね。その結果を県庁の方と議論したときに、それは過去20年のデータでやっているから、いわば「工業化社会の経済モデル」でやっているから、「集中型のほうが経済は良い」となっているのではないか、という話になりました。今後デジタル化が進み、働き方もふくめて分散型が進んだり、エネルギーの分散化になれば、分散型でありつつ経済もプラスに循環するようなモデルが新たに作れるのではないかという議論をしています。シミュレーション結果を踏まえて、そこにない要素を更に考えるというのも、1つの使い方としてはあり得ると思います。


福田 今お話にあがったことをやりたいなと思っていて、例えば新しい補助金とか法律を入れて、新しい相関関係を組み込んだ場合、どのように未来が変わるかを示して、効果的な政策に関しての提案ができたらと思ってはいます。色々試して、どこがいいというのを全部総当たりでやるのかもしれないですね。


近藤 すごく意外な因子が重要な役割を果たしているのがわかったりすると面白いですね。「そんなルール作ればいいのか」みたいなことがわかるように、発見的な研究をするといいのかもしれないですね。