回 専門家インタビュー Apr. 2021

見える化で消費行動は変わるか?グリーンエコノミーの展望

竹内 私たちのチームの将来像では、IoTなどの技術を利用した生物や生態系のモニタリングシステムを社会インフラとして実装して、データからの予測を用いて環境配慮のニーズに答えることを考えています。先ほど、消費行動の変容の必要性のお話がありましたが、例えば自分の行動が、どこの環境や生物にどれだけ負荷を与えているかが「見える化」できれば、商品を選んだり使ったりする消費行動が変わるかもしれません。また負荷の定量化ができれば、商品の価格に反映させ、お金の分配の仕組みに利用できるのではないかと考えています。


大沼 それは、先ほど話に挙がった二酸化炭素の場合は外部費用をちゃんと可視化しています。2018年にノーベル経済学を受賞したノードハウスの試算だと2020年の外部費用は、大体二酸化炭素1トンで大体35ドルです。二酸化炭素1トンは、ガソリンでいうと400Lちょっとですから、車のガソリンを10回満タンにすると、大体35ドル分地球に迷惑かけている、ということです。その分を税金の形で払ってくださいというのが炭素税です。日本では、「地球温暖化対策のための税」が導入されていますが、そのお金は、将来地球温暖化で被害を受ける人のために再生可能エネルギーを導入するなどのいろいろな経路で使います。ただし、日本の炭素税はまだ外部費用に比べて低く、だいたい十分の一以下です。また、可視化でいえば、いろいろな経済活動での炭素排出量をオフセットするプログラムがあります。たとえば、飛行機に乗った場合の二酸化炭素排出量を計算し、この二酸化炭素をオフセットすることができます。ブリティッシュ・エアウェイズだと東京ロンドン間のチケットを買うときに、排出される二酸化炭素をオフセットするか聞かれ、買うことを選択すると、そのお金で、植林で得られた炭素削減量を購入するシステムになっています。生物多様性の損失の被害を定量評価することはもちろん重要ですが、どうやって自身がその負担を補償できるかという仕組みを作るとさらにその評価による取り組みが実装されると思います。


竹内 炭素の場合、その排出の見える化でオフセットしようという行動につながるわけですね。例えばこのオフセットのための植林の場合、どのような種類の樹木を植林するか、他のどんな生物も一緒に保全できるか、というコベネフィットを特定するような技術というのも今後あるとよいかもしれませんね。こういったところは、他分野との協働やデータのシェアなどで進めていけたら、と思います。

   今回、自然環境や社会の持続可能性を高めるためのいろいろな経済システムや資金メカニズムについてお話を伺いました。これらはグリーンエコノミーの要素であると思いますが、そもそもグリーンエコノミーの実現は可能か、という議論もあります。大沼さんはどうお考えですか。


大沼 グリーンエコノミーで物質的な経済成長を続けていく、というのは難しいかなと思いますが、自然と経済が両立して、しかも豊かな人間生活を生み出していけるかということでいえば、私はできるんじゃないかと思います所得というのは、色々な形で生み出した付加価値でもたらされます。環境を守ることが付加価値を生み出せば、基本的には経済と自然環境が両立する、つまりグリーンエコノミーが成立します。だから生態系サービスへの支払いも含めて、自然や生物多様性というものを保全していくような経済活動は十分可能で、それはボランティアベースじゃなくてビジネスベースで出てきていれば、グリーンエコノミーに繋がると思います。


竹内 ありがとうございます。環境経済の本では、割と悲観的な話も書かれていることもあるのですが、今回は明るい気持ちになりました。


大沼 ちょっと楽観的な部分があるかもしれませんけど、経済システムを新たに作っていくことが大事なんだと認識していただくと良いと思います。

[17] https://www.env.go.jp/policy/tax/about.html

[18] 国際民間航空のためのカーボン・オフセット及び削減スキーム Carbon Offsetting and Reduction Scheme for International Aviation (CORSIA) https://www.icao.int/environmental-protection/CORSIA/Pages/default.aspx

[19] 自然界からの資源や生態系から得られる便益を適切に保全・活用しつつ、経済成長と環境を両立することで、人類の福祉を改善しながら、持続可能な成長を推進する経済システム