回 専門家インタビュー Mar. 2021

伝統知・地域知の防災や保全へのフィードバック

竹内  吉田さんのプロジェクトでは、伝統知・地域知の収集も取りくまれているということでした。例えば、地域ごとに過去の自然災害の歴史があると思うんですけれど、その歴史的な洪水の事例とか歴史的な治山治水の知見は、このプロジェクトにどのようにフィードバックされるのでしょうか。


吉田  例えば土砂災害が歴史的に多い滋賀県比良山麓では、山が崩れると石が出てきて、それを石材などの資源として利用したり、出てきた石で逆に土石流を防ぐような石積み堤を作ったりするなど、実は山崩れは集落の人たちにとっては資源採取ができる大事なイベントでした。しかしそのことは、防災計画のなかには入ってなかったり、河川施設として公的に認識されてなかったりするので、そういった慣習的な資源利用を政策にどういう風に繋げてったらいいかというのを、取掛かりとして研究しています。他にも、九州の伝統的な河川管理、富山の散村景観の屋敷林など、災害を避けるための伝統的な防災インフラですとか、既存の情報を収集して、色んな人達に読んでもらう読み物として冊子を作るということを進めています。

    あと滋賀県の場合は、京都の公家やお寺の荘園だったりするので、結構古地図が残っていて、歴史学者の人が古文書を見ながら昔どういった災害があったかを調べています。古地図には集落がどこに立地しているかとか、どういう風に災害を避けていたかとか、インフラが少し地形図に書かれてたりして、今も残存しているものもあります。そういった、古いインフラを残すとか、それをどういう機能を持ってるのかというのを評価することで、地域でそれを守っていく動きに繋げられないかと考えています。

    それと、先ほど話題にあげた福井県の北川の霞堤は、多分明治の頃作られたものなのですが、それが今でも現役で残っているのです。しかし、現役の霞堤はどんどん無くなっています。それを、本当に無くしていいものなのか、ちゃんと評価して保全していくことは重要です。霞堤は、生物にとっては非常に重要な場所ですし、あとは防災減災上も大事だということもちゃんと見せていくのが、やっぱり地域の人たちにとって意味のあることではないかと思います。


竹内  吉田さんが集められている歴史的な知見や事例は、今後地域の防災とかにも活かせる可能性がありますよね。


吉田  そうですね。でも地域の人たちもそれが段々見えにくくなっているという現状もあるので、伝統知に現代的な意義付けをすることも必要なんだと思います。例えば、霞堤のもつ多面的な機能を具体的に数字で見せられる時代なので、防災減災の機能だけでなく他の生態系サービスがあるとか、生きものにとってどういう貢献をしているかなどの科学的な評価を行い、それを地域の人たちに見てもらうことによって、価値づけみたいなものが出来れば「守っていこう」という話になっていくと思っています。