回 専門家インタビュー Apr. 2021

将来予測の社会へのインプット

竹内  将来シナリオ分析は、特に地域がどのような将来を目指すかを考えるときに重要な情報になると思います。どのような成果を期待していますか?


吉田  シナリオ分析はこれから進めるところですが、今後人口も減っていくので宅地も移転することが可能になるだろうし、気候変動影響で激甚化した自然災害が起きやすいので、「危ない土地利用を安全な土地利用に変えるというシナリオをとった場合に、これだけリスクを下げることが出来る」、「被害額は何億円減少させることが出来る」、「被害者人口をこれだけ少なくすることができる」といったリスク減少のための予測だけでなく、「代わりにこの生態系サービスがこれだけたくさん得られる」など、生態系サービスとのシナジーなどの予測が出せるようにしたいと考えています。このようなシナリオ分析をこれから2年の間にこの地図上に載せていくことをやっていくつもりです。あとこれはもう少しテクニカルなことですけれど、今は日本全国500mメッシュで土地利用モデリングを使って将来予測が出来るようになっています。しかし、それだとどうしても実際は宅地でないところに家が建ってたりするので、できるだけ詳細な土地利用モデルにするために100mメッシュを採用しています。そうするとデータが実質25倍になってしまい、計算コストが非常に高くて大変でしたが、計算機自体の性能の向上のおかげで大体できるようになってきました。2050年に向けて土地利用がどういうふうに変わっていくのかという標準的なシナリオ(なりゆき(BAU)シナリオ[11])の計算はできているので、あとはそこに何らかの具体的なシナリオを設定し、例えば危ない場所のハザードのレイヤーを使ってハザードのある場所には家を建てるのをやめて農地や森林に変える、などという選択を取った場合に、どのようなことが起きるのかという予測ができます。


竹内  予測の精度も上がっていくと、社会のいろんなところで”使える”予測結果になりそうですね。具体的な社会的要請とかインプット先はありますか?


吉田  シナリオ分析では、例えば人の住まわせ方を変えたらどういうふうになるかとか、何かと何かの土地利用を交換したらどうなるかとか、財産権のことは考慮しないで、シナリオを自由に設定した結果の将来予測ができます。現在、国交省は2020年を流域治水元年[12]として、いろんな政策を進めています。例えば立地適正化計画[13]など、土地利用規制や住まい方に関する内容もあります。自然災害のリスクは高いけれども経済の利便上使わざるを得ない居住誘導区域に指定されているような場所があるのですが、例えば「居住誘導区域指定を外すと、これだけのリスクを避けることができるうえ、水田にすればこれだけの生態系サービスがありますよ」とか「湿地にするとこれだけの生態系サービスがありますよ」というようなことを出せるシナリオ分析ができるといいなと考えています。

[11] Business As Usual (BAU)現在の状況を継続し追加的な対策を行わなかった場合を指す

[12] 国土交通省流域治水の推進 https://www.mlit.go.jp/river/kasen/suisin/index.html

[13] 立地適正化計画 https://www.mlit.go.jp/en/toshi/city_plan/compactcity_network.html