回 専門家インタビュー Feb. 2021

ビッグデータの活用

竹内  私たちの研究グループはビッグデータを利活用して、例えば「観測データを使ってモデリングで予測し、結果をリアルタイムで発信する」等に結び付けたいと考えていますが、ビックデータをどうやって利活用できるか、というニーズとかブレイクスルーはどこにあると考えていますか。

中静  最近、色々な人たちがやり始めていると思うが、例えば、我々も文化的サービスを評価する時もビッグデータを利用しています。インターネット上に出てくるテキストや誰がどこへ行ったというようなデータはインターネット上に豊富に存在し、それを分析することで「何月何日の何時ごろに、ここに、これだけ人がいた」みたいなことが分かります。次に、そこに人がいた理由を他のデータから推測するわけですけど、例えば、ある山に人が沢山登るっていうときに、それは自然林が沢山あるから登るのか、山が高いから登るのか、あるいは都会から近いから人が沢山来るのか、というような色んな条件を与えて分析できる。AIによる深層学習などをやれば、どのファクターがどの程度寄与しているかということも評価可能になった結果、文化的サービスとかの評価の仕方も今までとは違うものがいっぱい見えてきていて、必ずしも自然的な条件だけでなく社会的な条件などもいっぱい関わっているという生態系サービスの実体が出てくると考えています。これらの結果は、いろんな分野で使えると思います。だから文化的サービスの評価はどんどん進んでいくと思うし、健康に関する要素などを含めて、データや解析がこれから増えていくと思う。寿命やある病気の罹患率のようなデータがあったときに、それは自然条件なのか社会条件なのか、ということはこれから分析できる気がしますし、あるいはものの考え方そのものも分析できるような気がします。自然の価値観みたいなものも分析できるかもしれないですね。例えば、環境DNAのように、標準化された手法を用いて多地点で大量に得られるデータを用いた解析は、特定の産業にとってもメリットがあると思います。具体的には、漁業では、色んな社会条件・気象条件・環境条件の場所でのモニタリングができれば、どこで何が取れるか、何がその生産に影響しているかということを、時系列も含めて色んなことが出来ると思います。

竹内  環境DNAは主に水の生きものの観測に限られているので、陸上の生物、特に植物の多様性は、やはり手動で観測するしかないという所があります。例えば、市民活動を利用して多地点で展開できればビッグデータになるという発想で、市民データも利用していく方向性もありますか。

中静  市民の人達と取り組むとなると難しい分類ができないというデメリットはあります。種同定でブレイクスルーがあれば面白いかもしれないですね。今、環境DNA分野でも生物間のインタラクションを明らかにする研究が進んでおり、例えば、採食された植物に残っている唾液から、シカが食べたのかカモシカが食べたのか、を同定したりしています。樹幹流[12]の環境DNAからは、木にどんな虫がすんでいるか、を調べている人もいます。この手法では食う食われる関係もモニタリング可能なので、色々なところで使える可能性があると思います。人間による手動の取り組みも大事ですが、最近は種同定もインターネットでできるようになってきていて、写真を撮って種同定のアプリを使うと、植物なら高精度で同定できる、といった技術はどんどん進んでくると思うので、そういったものを利用する手はあるかもしれませんね。

[12] 樹の幹を流れる雨水