回 専門家インタビュー Feb. 2021

COVID-19と生物多様性、現代の都市構造

竹内  今回の COVID19で、生物多様性は負の生態系サービスをもたらすことが強く認識されるようになりました。COVID19は、生物多様性や生態系サービスのイメージを変えたと思われますか。

中静  生物多様性や生態系サービスは、言葉の定義の問題があると思います。生物多様性の意味を皆さん意識していないところがあり、生物種がたくさんいたほうが、生物多様性が高くてよい、と考えている人が多いが、実はそうではない。種の数に関していえば、日本では外来種がたくさん入ってきて種の数が増えているじゃないですか。それがいい状態なわけではないです。本当の問題は、例えば、人間が生物を利用するときに「まずいセット」の生物群ではなく、「よいセット」「持続可能性の高いセット」の生物群を持つことがよいことであり、それを利用すべきだ、というのが私の生物多様性問題の捉え方です。負の生態系サービスというような言い方をしますが、病気やシカの問題は、生物と生物、生物と環境、生物と人間、のインタラクションの中で、いい組み合わせと言えるような相互作用関係が失われているから起こります。つまり、負のサービスは生物多様性があるから悪いのではなく、「いいセット」の生物群が損なわれているから起こるのです。

竹内  COVID19は、グローバル化が行き過ぎているため起きたので、よりローカルな系の地域循環共生圏へシフトするべきという議論もあります。しかし、グローバリゼーションによってもたらされた、例えば、薬のような必要なサービスもあります。グローバル化とローカル化は、生態系サービスの享受のバランスをとった形で実現できないでしょうか。

中静  COVID19の問題は二つあります。1つ目は、なぜ蔓延するか、人間の密集のしかたとか生活の仕方といった問題。2つ目は、ウイルス性のものや人獣共通感染症などの発生リスクが高くなることの問題です。発生リスクを下げることはすごく大事だと思っています。発生リスクが高くなっている一番の問題点は、人間の農業のやり方だと思います。例えば、単一品種を一か所で沢山育てるとか、ニワトリをケージに入れて何十万羽も一か所で育てるといったことです。このような環境は、病気の発生と進化を促進する。何十万羽に感染したら、その間に変異はいくらでも起こってしまうわけで、それらを運んでいるのは渡り鳥だとしても、渡り鳥が悪いわけではないですよね。人間の農業生産方法の問題なのです。科学技術が進んでワクチンを作るのが早くなったとしても、一番時間がかかるのは治験で、人間に対して安全かどうかチェックしなければならないので、時間をかける必要があるわけです。毎年のように変異が起こって、次々と新しい感染症が出てきたら対応出来ないですよ。

私が一番大事だと思うのは、発生リスクを下げることだと思います。何が発生リスクを上げているのかを徹底的に検証する必要があって、その作業の中で、自然共生のあり方が見えてくると思います。人間の住み方は、現状より分散した形がよいでしょうね。COVID19のような感染を防ぐこともありますが、さっき言った、生態系サービスのただ乗り論とか、都市と周辺地域のバランスをもう少しよくするだけで、もっと色々なことができる気がします。田舎で人口が減っているのは経済的に稼げないからですが、生態系サービスの負担や受益者とコスト負担者のバランスを良くすることで、田舎でも仕事は生まれます。そうすれば、自然に分散社会や自律社会が実現でき、ウイルスの蔓延を防ぐことが期待できます。発生リスクを下げて、田舎と都会の経済的な不均衡を同時に達成することは、自然共生社会として取り組むべきことだと思います。

竹内  自然共生社会の実現に向けて、グローバルな見方からもローカルな見方からも、スケールをまたいで共通してできることがありそうですね。

中静  自給自足、地産地消などはよく言われていますが、ある一つの地域の中で自給して外に出ないというのは成り立たないと思うので、これらの単語はあまりよくないと思います。ある一定のスケールの自然共生社会のなかで、自給できるものは自給するが、外に売れるものを作らないと持続的ではないと思います。だから、特産物や独自の産業、独自の発想に基づくイノベーションなどがその地域にないと、恐らくは今後の社会において生き残るのは難しいと思います。ここでのイノベーションとは、観光、産物、独特な農産物、工業製品、持続可能な材料を用いた新しいデバイスを作るなど、多方面の可能性があると思いますが、イノベーションに取り組みながら自給を目指すことは非常に重要なことだと思います。地域おこしの人たちも最近は地産地消じゃなくて地産他消と言っているが、そこにしかできないものだとか、そこにしかない独特なもので外に価値がある特産物のようなものを作ることは大事で、なおかつ、ライフラインに近いようなものは出来るだけ自給するということだと思います。こういった社会が、自然共生や地域循環共生圏に近い考え方だという気がします。