2019年1月28日(月)に大阪産業大学梅田サテライトで、公開研究会「国産バナナの可能性を考える―台湾と日本の生産者からみた食と農―」を開催しました。
台湾と日本各地から関係者にお越しいただき、バナナをめぐる様々なお話をいただきました。とくに、実際に栽培・販売している立場からの講演と議論はとても新鮮で貴重なものでした。参加者は18名で市場関係者、バナナ生産者の方が中心でした。ここでは、研究会の様子について紹介させていただきます。
なお、この研究会は「味の素食の文化センター2017年度研究助成「国産バナナの食文化における可能性―「バナナと日本人」から「日本人のバナナ」へ」(代表:佐藤靖明)の一環として実施しました。この場をお借りし、味の素食の文化センター様に感謝申し上げます。
世界におけるバナナの食と農(佐藤靖明(大阪産業大学))
現在の世界のバナナには、大きく二つの農業の形態がみられます。一つは小規模農家経営です。これは在来的なバナナ栽培文化に位置づけられ、自給やローカルマーケットへの少量の販売が中心です。そこでは多様な品種、栽培法、利用法がみられます。もう一つはプランテーション経営です。大規模な生産・流通システムを形成しており、今日の日本におけるバナナの消費も支えています。鶴見良行(1982)『バナナと日本人―フィリピン農園と食卓のあいだ』以降、この形態における生産者と消費者の関係については、構造的な問題も指摘されてきました。
今回焦点を当てるのは、国産バナナです。バナナは九州・本州において生産が増加傾向にあるようで、温暖化がそれを後押ししているものと思われます。また、近年ではD&Tファームによって耐寒バナナの開発されました。日本においてバナナは外来作物ですが、それがどのように土着化していくのか、また、いかにバナナの魅力を発見し、食文化や食農教育に展開させていくのかは今後の課題です。上記の二つの農業のどちらにも当てはまることのない、第三軸としての方向性を考えるのがこの研究会の目的です。
最後に、これまでの「バナナの足」研究会の活動で明らかになった世界の在来農業と食文化の一端を紹介しました。
バナナ王国台湾のバナナの食文化(王繼維(台湾・台青蕉))
王さんは、台湾第一のバナナの生産地である旗山における若手農家さんです。ご自身でバナナグッズの専門店も経営されています。
(詳しくはぜひ台青蕉のホームページをご覧ください。 http://youthbanana.blogspot.com/p/about.html )
18世紀からの台湾におけるバナナの歴史について説明するとともに、バナナを通して「生活のニーズに応えること」と「経済的に発展すること」の好循環を実現させる考えについて述べてくださいました。そして、台湾から大量のバナナが日本に輸出されていた時期の活況と、その後の低迷の歴史を踏まえ、現在の取り組み(生産地において食文化を再び根付かせる活動、新しい加工法の開発、食農教育やロックバンドなど様々な社会活動)について紹介していただきました。試食用に、バナナのケーキなどを持ってきていただきました。
台湾におけるバナナの工芸と地域振興―先住民地域の事例から(張瑋琦(台湾・国立清華大学))
張さんは、台湾少数民族の研究を行っており、台湾の食育についても造詣が深い方です。今回の発表では、「文化(的卓越)作物」と「換金作物」の考え方の違いや相互の関係を述べた上で、台湾東部で行われているバナナの染織についての説明をしていただきました。現在、バナナが神事など地域の文化に深く浸透している様子を紹介し、1990年代にKavalan族において文化振興運動・復興運動が始まり、その流れでバナナの染織がおこなわれ、工房ができ、職人の方が人間国宝に認められたことについて解説をいただきました。
九州でのバナナ生産の挑戦(山神司・松本歩(神バナナ株式会社))
九州で新しく立ち上げたバナナ生産企業である神バナナ株式会社から山神さん、松本さんのお二人の方に来ていただき、活動内容や特徴について説明をいただきました。2017年にD&Tファームから苗を購入し、鹿児島県南九州市の栽培ハウスで植え付けを開始し、現在、奄美大島と佐賀県にも生産地を拡大させているそうです。「皮ごと食べられる」品質の無農薬栽培、水へのこだわり、追熟へのこだわりをとおして、主に百貨店や地元の店舗向けに果実と加工品の販売をおこなっているそうです。とても需要が多く、生産が追い付かないほどのようです。試食用に、果実とバナナチップも持ってきていただきました。
バナナを通して伝えたい食と農業の可能性(石田守(稲沢バナナ園))
稲沢バナナ園は、愛知県稲沢市にある社団法人です。園主の石田さんから、園ができるまでの経緯や、園の特徴的な活動について講演をしていただきました。この園では「子どもが自然に自然と触れ合う」ことを大切にしていて、ハウスにも関わらず自然農法に近い方法で栽培しています。果実の販売には特化せず、園や幼稚園での収穫体験イベント、料理イベントなどを主におこなっています。ウェブ媒体を効果的に使いながら、一度利用した方に再度利用してもらう工夫も紹介していただきました。
議論
台湾の王さんと張さんからの発表については、食文化を醸成して経済を回す方法についての意見や質問がありました。それに対して日本の山神さん・松本さんと石田さんの発表については、どのようにして経済的に成り立たせられるのか、という点に多くの質問があり、様々なアイディアが話されました。本州においてはまだバナナ園の経営モデルがなく、関係者の間でもさまざまな試行錯誤があると言えます。「文化」を作ることと持続的に経営していくことをめぐっては、地域やアクターによって優先順位や方法がことなるものの、両立させていく方向性について今回共通した認識をみることができました。
日本のとくに九州・本州ではバナナ生産者同士で交流する機会はとても少なく、情報交換するよい機会にもなりました。