バナナという作物

🍌 バナナの植物学


バナナの植物体

バナナとはどのような植物でしょうか。ここで、おもなバナナの部位を紹介します(図1)。

バナナは永年生草本であり、1つの株(母個体)に果実が付く頃には上の図のように、その次世代の株(娘個体)が育っており、品種によっては次々世代の株(孫個体)まで発現しています。

バナナの本当の茎は地下にある塊茎(根茎)であり、地上に見えている部分は偽茎と呼ばれます。塊茎は白色ででんぷんが貯蔵されており、地表面近くの中心に生長点があります。ジャガイモと同様に、1つの塊茎には幾つかの芽があり、ある段階になるとそこから次世代の吸芽が発芽します。おおいに環境条件によりますが、バナナの根(不定根)は1つの塊茎からおよそ300本程度生え、その約半分が土壌深度20cmまでの浅いところに存在すると報告されています。一方の偽茎は、塊茎から伸長した葉鞘が幾重にも重なり合って形成されています(図2)。

図2 バナナの偽茎断面

中央に果軸があり、その周囲を何重にも葉鞘が取り囲んでいるのが分かります。収穫後しばらく経ったものの写真のため、黒く変色し、断面はやや乾燥しています

バナナの葉は花序が発現する頃まで発生し、1株あたりの全葉数は35~45枚といわれています(およそ10枚あまりの葉が常に付いています)。葉は非常に細長の楕円状で、生長するにしたがって大きくなり、最長で3.5mほどになります。

雄花というのは図1の雄花序(‘バナナの蕾’といわれる部位)の内部に2列に並んでいる小さな花で、外側の苞を剥がすと見ることができます。バナナの花には雌花、中性花、雄花がありますが、発育して果実となるの雌花だけです。雌花は果軸の基部から中央付近に発生し、果軸の先端に雄花、その中間に中性花がそれぞれ着生します。

バナナの栽培環境

世界の熱帯・亜熱帯地域を訪ねたことがある人なら、おそらくお店で売られているバナナだけでなく、その植物体をみたことがあるのではないでしょうか。熱帯生まれの作物であるバナナは、温暖・湿潤という気候を好みますが、一方で比較的乾燥した地域でも栽培されるなど、かなり広範囲の気候条件に適応しています。FAO(国連食糧農業機関)の統計をみると約130もの国々でバナナは生産されているようです。とくに生産が盛んなのは赤道を中心に北緯30度から南緯30度までの一帯で、バナナの生産量が多い国々はたいていこの範囲に含まれています。そのため、この一帯は「バナナ・ベルト」と呼ばれることがあります。

ちなみに、私たち「バナナの足」研究会でこれまでに訪ねた地域もすべてこのベルト内にあり、インド北東部のアッサム地方を除くと、すべて南北回帰線の内側に位置しています。

以下では、大東(2000)の記述をもとに、バナナの栽培条件について簡単に紹介します。


○気温

およそ14~38℃の広い範囲でバナナは生長することができる。これより低温だと生長が止まり、5℃以下では生育阻害が生じ、0℃以下では枯死する場合がある(品種によって差異がある)。降霜があると果実の生育が止まったり緩慢になり、その収量や品質にも悪影響が及ぶ。逆に38℃を超える高温でも葉焼けが生じたり生長が止まったりし、さらに乾燥した状態が加わると多くが枯死に至る。バナナの生育にもっとも適した気温は26~30℃あたりであり、全生育期間の平均気温は21℃以上が望ましい。また、土壌温度によって根からの養分吸収量は変化するようである。ある実験ではカリウムやカルシウム、リンといったミネラルは昼間の気温が30℃を超える高温条件下でより多く吸収されたという結果が残っている。


○降雨

毎月75mmの降雨がある地域ではバナナに灌水する必要がなく、さらに100mm/月を超える地域ではその生育や収量が安定するという。逆に、年間で3ヶ月以上75mmに満たない降雨量の月があると灌水が必要とされ、50mm/月に満たない降雨では生育が鈍るようである。このようにバナナは豊富な水分がある環境を好むが、一方で堪水条件には弱く、排水されない土壌では根腐れをおこして枯死してしまう。


○風

バナナにとって強風は大敵である。上述したようにフィリピンが日本へのバナナ輸出国として勃興し、反対に台湾が凋落したのは、台風の有無が大きく関連している。巨大な草本であるバナナは強風に対する抵抗性が弱く、とくに全房がついている個体では容易に倒伏してしまう。また強風によって蒸散が活発になり、結果的に光合成能が低下するなど生理的な障害もあるようである。一方で、バナナの生育にとって無風条件がよいかというとそうでもなく、風による空気の流れがなければ、光合成に必要な炭酸ガスが十分に供給されなくなってしまうため、ある程度の風がある環境が望ましい。


○土壌

バナナはさまざまな土壌条件のもとで生育することができるが、もっとも好むのは排水性がよく有機物に富んだ土壌(とくに沖積土や砂質壌土)である。土壌の酸性度(pH)は5.5~6.5で生育がよく、強酸性土壌では葉の黄変など生育阻害がでやすいという。また塩性土壌もあまり好まれない。


今日バナナが世界中に広まっているのは、食文化や利用にみられるようなバナナの多用途性もさることながら、その前提として広範な生育環境に順応できる作物であったことが大きいといえます。さまざまな環境下で、あまり世話をせずとも、食用となる大きな果実(全房)をつけてくれる不思議な植物。そんな独特な特徴をもつバナナと、人びとが太古の時代からずっとつき合ってきたのは、むしろ必然的なことなのかもしれません。