アフリカの中央部には、コンゴ民主共和国(旧ザイール)の外縁をなぞるようにコンゴ河という大河が流れ、コンゴ河と赤道を中心として、広大な熱帯雨林地帯が広がっています。大昔、この地域には、人がほとんど住んでいませんでした。熱帯雨林というのは、その頃周囲に住む人たちが持っていたヤムイモや雑穀などの作物が育ちにくく、鉄なしでは畑を切り開けない土地だったからです。そこに、鉄器が伝わり、熱帯雨林でも非常によく育つバナナが伝わって、人々は、熱帯雨林を使いこなせるようになったと歴史学者たちは考えています。アフリカで熱帯雨林に住む人たちが現在主食としているのは、このバナナと南米からもたらされてここ2世紀のあいだに拡がったキャッサバ、アフリカ起源のコメなどです。アフリカの熱帯雨林とバナナは切っても切れない縁なのです。
カメルーン東南部、バンガンドゥの人々が住む場所は、このような森の西北の端っこにあたります。彼らは、バナナや落花生、カカオの畑をつくったり、魚を獲ったり、野生動物を獲ったりして生計を立てています。彼らが住む地域には、大規模な木材伐採会社の基地があり、毎日何十台ものトラックがヨーロッパに出荷される木材を運んでいきます。トラックの運転手は、副業として、道沿いで農民が売っているバナナやサルの肉などを買って、都会で売って小遣いを得ています。バンガンドゥのバナナも800km以上離れた首都ヤウンデで売られているかもしれません。
バンガンドゥの人たちのバナナ畑を見せてもらうと、日本人ならまず、「え?どこ?どこが畑?」と訊きたくなるでしょう。この地域の畑は焼畑で、森を伐って畑をつくり、作物を植え付けると、作物が収穫される頃には雑草が生い茂り、そのまま放置されて数十年後には森にもどってしまいます。畑には、切り倒されて燃え残った木がごろごろ転がっていて、その上をまたいだり、くぐったりして歩かなくてはなりません。バナナ畑には、バナナの他、キャッサバ、トウモロコシ、マカボと呼ばれるイモ、ヤムイモなどが混然と植えられています。4~5メートルの間隔でバナナが植えられ、そのあいだにいろいろな作物が植えられているのです。このような混作は、以前は技術の低い農業だと考えられていたのですが、最近、農学者に注目されています。混作することで、狭い空間を効率よく使うことができること、地中の養分の使い分けができること、病虫害が拡がりにくいことなどが指摘されています。
彼らの畑では、肥料は一切入れません。畑を焼いたときの灰が肥料になるだけです。バナナが最初に収穫されるくらいまでは一応除草するといいますが、除草と言っても背丈ほどに延びた草を山刀でばっさばっさとはらっていくことで、日本式の一本一本根絶する除草とは違います。熱帯雨林では草木が伸びようと言う自然の力が非常に強いので、人間も無駄な抵抗は極力せず、そのかわり、自然に地力の回復した土地を10年後くらいにまたつかわせてもらいましょう、という自然に依存した農業なのです。
バナナも放任されています。植え付け用の子株を採る以外、子株の管理もしません。管理といえば、収穫時期を早めるために雄花序を切り落とすことがあるくらいです。同じアフリカでも、丁寧に面倒をみるタンザニアのハヤの人たちとはずいぶん違います。
しかし、バンガンドゥの人々のバナナに対する興味が薄いわけではありません。この地域では、24種類のバナナの情報を得ました。中央アフリカのバナナは、プランテンと呼ばれるAABタイプの料理バナナと、バナナと呼ばれるAAAタイプの生食用バナナに大別できます。遺伝的な違いが少ないにも関わらず、プランテン・タイプのバナナだけで、20種も見分けられているのです。インドネシアやフィリピンなどアジアでは、わたしたちが見ても明らかに違うバナナが多いのですが、プランテンという非常に限られたグループの中の変異は、わたしたちが見分けるのはかなり大変です。
主食用につくられるプランテンの中でも圧倒的な量を誇るのは、「ボイ(boi)」と呼ばれる品種です。この種類は、わりと早く収穫できるのと、子株がたくさんできること、実が大きいので買い手に好まれることがたくさん植える理由だということです。早くできること、実が大きいことが好まれるバナナの条件のようです。そのほかに、すべての実が外向きに反ったイカの足のような「ンデンゲ(ndenge)」、実も葉もストライプ模様の「ソンゲ(songue)」、皮を傷つけると赤い液がにじむ「ナンギヤ(nangiya)」など、変わった種類のプランテンがあります。
バンガンドゥの人たちは毎日バナナを主食にしています。朝や昼は蒸したバナナ、夕方は、蒸しバナナか臼と杵で蒸したプランテンを搗いた団子状のバナナです。間食にもバナナを食べます。熟したプランテンバナナを焼いたり揚げたり、皮ごと茹でたりして食べます。凝ったところでは、キャッサバの若葉を搗いたものとバナナ・トウモロコシ・キャッサバ・マカボなどを煮込んで砂糖で味付けした甘い間食もあります。プランテンを保存したいときは、スライスして太陽や炉で乾燥させます。生食用の品種は、そのまま食べられます。
葉は食べ物を包むのにつかわれたり、バナナを収穫して運ぶときに背中にあたると痛いので背中に葉を当てたりします。アフリカでは女性は重いものを運ぶときに頭に載せて運ぶことが多いのですが、そのとき、頭の上に丸めた葉をおいてクッションにもします。
めずらしい使い方では、偽茎からとりだした繊維を消毒用のコットンとしてつかうことがあります。この地域では、男の子は10才くらいまでに割礼をします。割礼をするとしばらくのあいだ傷口が化膿しないように消毒をしなければなりません。そのとき、繊維を煮て消毒したものをコットンとして使っていました。この使い方は「利用可能な現地の技術」として、植民地政府のときの報告書にも載っていました。