マレーシアは、インド、フィリピンとともに栽培バナナの起源地のひとつと考えられており、世界のバナナ栽培文化の中ではもっとも古い(5000~10000年)もののひとつです。マレー人(Melayu)の主食は米であり、貨幣経済が浸透する今日、バナナは主として副食や菓子として消費されるマイナー・クロップです。しかしながら彼ら独自のバナナ栽培文化は現在でも根強く継承されており、それはマレー語によるバナナの細かい部位名称に反映されています。
調査はマレー半島北東部クランタン近郊で実施しました。
この地域を特徴づけるバナナの栽培様式は、バナナと果樹の混作畑です。また、栽培様式には地域差が見られ、州都のコタバルを中心とした平野部では水田の割合が高くバナナは小規模に栽培され、西部や南部の丘陵や山地ではバナナや果樹の栽培が盛んです。バナナは重要な換金作物であり、果房単位でローカル・マーケットや州都の市場に出荷されます。
現地で確認したバナナの在来品種は25種類です。遺伝子型に関しては、AA、AAA、AAB、ABBそれぞれのタイプが満遍なく利用されています。代表的な品種は、AAのpisang mas、AAAのpisang jelai barangan 、AABのpisang nangka 、ABBのpisang kebatuで、インドネシアとの共通種です。品種管理においては、畑で市場価値のある代表種を育て家庭菜園で稀少種を育てる傾向がみられます。家庭菜園は品種流通の受け口と言えます。
利用法は、生食を除くと23種類が確認されました。内訳は、食用17、薬用1、物質文化3、儀礼での利用2です。25品種のうち、薬用にする1種を除いた24種が食用として利用され、Aタイプが生食、Bタイプが料理される傾向がみられました。