【掲載雑誌】
Nishikawa, T., T. Nishimura (2023), Development of an Epidemic-Type Aftershock-Sequence Model Explicitly Incorporating the Seismicity-Triggering Effects of Slow Slip Events, Journal of Geophysical Research, https://doi.org/10.1029/2023JB026457.
【研究の要点】
世界標準の地震活動統計モデル(ETASモデル)に、スロースリップイベントの地震活動誘発効果を初めて組み込んだ
新しいモデルをニュージーランド・ヒクランギ海溝のスロースリップイベント活動・地震活動に適用し、有用性を確認した
本モデルは、「過去の地震活動とスロー地震活動から未来の地震活動を予測する」という、新しい地震活動予測研究の枠組みを提示する
【研究の詳細】
プレートとプレートの境界では、スロースリップイベント(数日から数ヶ月かけて断層がゆっくり滑る現象でスロー地震の一種)と呼ばれる低速な断層滑り現象が発生し、しばしば地震活動(群発的な地震活動や巨大地震)を誘発する(Rediguet et al., 2016; Nishikawa et al., 2021)。しかし、現在、世界で標準的に使用されている地震活動統計モデル(ETASモデル; Ogata, 1988)には、スロースリップイベントの地震活動誘発効果は考慮されておらず、スロースリップイベントに伴う地震活動を全く予測できないという問題があった。
そこで、本研究は、測地観測データ(GNSSデータ)から推定されるスロースリップイベントの滑りの時間発展の情報(具体的には、モーメントレート)を、初めてETASモデルに組み込み、スロースリップイベントに伴う地震活動の予測できるよう改良した。そして、新しいモデルをニュージーランド・ヒクランギ海溝のスロースリップイベント活動・地震活動に適用し、地震活動の予測精度が従来のモデルと比べて大きく改善することを確認した。
さらに、本研究は、新しいモデルを用いてヒクランギ海溝のスロースリップイベント活動・地震活動を詳細に調査した。その結果、ヒクランギ海溝のスロースリップイベントの滑りの時間発展と地震活動の活発化には有意な時間ずれがあることがあり、それは既存の地震活動物理モデル(地殻にかかる応力の変化で地震活動を説明するモデル)では説明できないことを示した。つまり、スロースリップイベントに伴う地震活動の活発化の中には、地殻にかかる応力の変化以外のメカニズム(例えば、スロースリップイベントに伴う地殻内部の水の移動等)で発生しているものがあることが強く示唆された。
【今後の展望】
本研究は、世界標準の地震活動統計モデルを大きく改良し、スロースリップイベントによる地震活動の活発化を予測することを可能にした。今後、この新しいモデルの世界各地の沈み込み帯への適用や、モデルのさらなる改良が期待される。本研究は、「過去の地震活動から未来の地震活動を予測する」という従来の地震予測の枠組みを変更し、「過去の地震活動とスロー地震活動から未来の地震活動を予測する」という新たな枠組みを提示する。これは、将来の地震活動予測研究の重要な指針となると期待される。
また、本モデルの解析によって発見された、既存の地震活動物理モデルでは説明できない地震活動活発化現象は、今後の地震活動物理メカニズム研究の重要な研究対象となると期待される。