【掲載雑誌】
Nishikawa Tomoaki and Satoshi Ide, “Recurring Slow Slip Events and Earthquake Nucleation in the Source Region of the M 7 Ibaraki‐Oki Earthquakes Revealed by Earthquake Swarm and Foreshock Activity”, Journal of Geophysical Research, 2018 (PDF ).
【研究の要点】
日本海溝における30年間の地震活動を統計的に解析し、茨城県沖の大地震の震源域内部でスロースリップが繰り返し発生していることを明らかにした。
1982年・2008年茨城県沖地震の数日前に発生したスロースリップは、他のスロースリップと比べ大規模であったことが示唆された。
大地震直前のスロースリップとそれ以外のスロースリップを、スロースリップの規模に着目することで、見分けられる可能性がある。
【研究の詳細】
近年の研究により、大地震直前に"スロースリップ"とよばれる、特殊なゆっくりとした地震が観測される例がいくつか報告されています。その一方、スロースリップは大地震直前以外にも数多く発生します。重要な問題は「大地震直前のスロースリップと、それ以外のスロースリップを見分けられるか?」ということです。私はこの問題を茨城県沖の大地震(1982年・2008年マグニチュード7茨城県沖地震)で調査しました。
まず、過去30年間の日本海溝の地震活動記録に対し地震活動統計解析を行い、スロースリップによって誘発された可能性のある地震活動(群発地震)を検出しました。その結果、茨城県沖地震の震源域内部に群発地震が特に集中し、スロースリップが繰り返し発生していることを明らかにしました。茨城県沖ではスロースリップが原因と考えられる群発地震が、30年間で21回発生しており、1982年・2008年茨城県沖地震の数日前にも発生していました。
次に、地震活動統計解析と小繰り返し地震解析によって、21個のスロースリップの規模を比較しました。その結果、1982年・2008年茨城県沖地震数日前のスロースリップは、それ以外のスロースリップと比べ、異常地震発生数もプレート境界すべり量も大きく、規模が大きかったということが示唆されました(下図)。さらに、それらのスロースリップは大地震発生のおよそ12時間前から急激に成長したということも明らかになりました。これは「大地震直前に、固着域内部でスロースリップが発生し急激に成長する」という地震発生物理学の理論的な予言と整合的です。
【結論・展望】
本研究によって、茨城県沖では、大地震直前のスロースリップとそれ以外のスロースリップには規模に違いがあったということが示唆されました。この結果は、スロースリップの規模に着目することで、大地震直前のスロースリップを見分けられる可能性があることを示しています。これは大地震の発生予測精度を高める上で重要な結論です。今後、茨城県沖以外の地域の大地震に対しても同様の解析を行い、「大地震直前のスロースリップとそれ以外のスロースリップを見分けられる」という仮説をさらに検証することが重要です。