【掲載雑誌】
Nishikawa, T., T. Nishimura, and Y. Okada (2021), Earthquake Swarm Detection along the Hikurangi Trench, New Zealand: Insights into the Relationship between Seismicity and Slow Slip Events, Journal of Geophysical Research, 126, e2020JB020618. doi: 10.1029/2020JB020618 (PDF )
【研究の要点】
ニュージーランド・ヒクランギ海溝において初めて群発地震活動を網羅的に検出した。
群発地震活動はプレート境界で発生するスロースリップイベントに伴って発生していたが、群発地震活動とスロースリップイベントには一週間程度の時間ずれがあることが初めて明らかとなった。
群発地震活動とスロースリップイベントの時間ずれは、従来の群発地震誘発メカニズムでは説明できず、「スロースリップイベント発生前後の地殻内流体の移動」のような、全く新しい群発地震誘発メカニズムを検討する必要がある。
【研究の詳細】
ニュージーランド・ヒクランギ海溝では、プレート境界で発生するスロースリップイベント(数日から数ヶ月かけて断層がゆっくり滑る現象)によって群発地震活動が誘発されることが知られています。しかし、群発地震活動の網羅的な検出はこれまで行われたことがなく、群発地震活動の詳細は明らかではありませんでした。そこで、私たちは地震活動統計モデルを用いて、1997年から2015年までの期間において、ヒクランギ海溝沿いの群発地震活動を初めて網羅的に検出しました。
検出された群発地震活動と陸上のGNSS(Global Navigation Satellite System)観測データを詳細に比較したところ、群発地震活動はプレート境界で発生するスロースリップイベントと時空間的に近接して発生していました。その一方、群発地震活動とスロースリップイベントにはしばしば一週間程度の時間ずれがあることが、初めて確認されました。群発地震が、スロースリップイベントの一週間程度前に発生したり、後に発生したりすることがしばしば確認されました。
これまで、スロースリップイベントに伴う群発地震活動は、スロースリップイベント発生によって地殻内の力のバランスが変化することで誘発されると考えられてきました。しかし、今回確認された群発地震活動とスロースリップイベントの時間ずれは、この誘発メカニズムでは説明することができません。特に、スロースリップ前に発生する群発地震に関しては説明が非常に困難です。つまり、ヒクランギ海溝においてスロースリップイベントに伴って発生する群発地震活動は、従来の群発地震誘発メカニズムでは説明できず、全く新しい誘発メカニズムを検討する必要があることが明らかとなりました。
そこで私たちは、「スロースリップイベントの発生前後において、地殻内の流体圧が変化する」という最近の研究(Warren-Smith et al., 2019)に着目し、「スロースリップイベント発生前後における高圧な地殻内流体の移動」という全く新しい群発地震誘発メカニズムを提案しました。スロースリップイベントの発生前には、高圧な流体が地殻内に蓄積し、時折、地殻内を移動します。この移動によって群発地震が誘発されます。また、スロースリップイベント発生後は、スロースリップイベント発生に際して生じた地殻内の微小な亀裂によって流体の経路が変化したり、流体が亀裂内を移動したりすることで群発地震が発生すると考えられます。
【今後の展望】
本研究では、「スロースリップイベント発生前後における高圧な地殻内流体の移動」という全く新しい群発地震誘発メカニズムを提案しました。今後、この仮説の検証が待たれます。また、この仮説の検証を通して、地震活動を支配する物理メカニズムの理解が大きく深まることが期待されます。