第三回目研究会(2018年3月9日開催)のご案内
1.テーマ
第三回目の研究会は、入会権をめぐる判例や学説を法学的に検討します。近年、最高裁で入会権についての重要な判決が続きました。入会権者の全員一致原則を退け、役員会の決定で入会地を売却できるとした上関原発訴訟判決(H20年4月)、訴訟に同調しない入会権者が存在する場合、従来のように訴え不受理とするのではなく、同調しない者を被告とすれば受理するとした馬毛島入会権訴訟判決(H20年7月)です。研究会では、相反する面もあるこの二つの判例をどのように理解したら良いか、を学説史を遡ったり、事案を詳細に見たり、訴訟法での学説を検討したりすることで、考えてみたいと思います。
今回は、龍谷大学里山学研究センターとの共催という形で実施します。
2.日時と場所
2018年3月9日(金曜) 13:00〜17:30
龍谷大学深草キャンパス22号館4階会議室(下記のURLのキャンパスマップの⑨の建物となります)
http://www.ryukoku.ac.jp/fukakusa.html
3.内容
a.共催挨拶「龍谷大学里山学研究センターの紹介」 牛尾洋也 (龍谷大学里山学研究センター・センター長)
b. 報告1「共同地分割問題に関するドイツ団体法論(法人論)と入会理論」 西脇秀一郎 (龍谷大学大学院・里山学研究センターRA)
要旨 従前、入会地の形態を本質的に変更するような変更(処分)行為については、構成員の多数決で決議することができるのか、または、全員一致が要求されるのかが問題とされてきた。このような問題は地域の慣習の読解を指示する民法263条(294条)の法解釈の問題といえるが、入会団体(集団)の性格に応じた意思決定の理論をどのように構築すべきかが問われていたものといえる。裁判実務では、入会団体(集団)の全員一致による意思決定を認める裁判例もある一方で、当該団体(集団)をいわゆる「権利能力なき社団」と法性決定した上で、社団の多数決による意思決定を認めるような方向付けを行う例もみられる(最一小判平成20年4月14日民集62巻5号909頁〔具体的には役員会構成員のみによる処分が可能という慣習を認めて入会地の処分が認められた事例〕)。
もっとも、講学上、「権利能力なき社団」の財産に関する構成員の法律関係は、入会団体(集団)と同様に、「総有」関係であると説明されてきた。そうすると、「総有」関係にかかわらず、「社団」であるということによって多数決による意思決定規範が認められ、他方、入会団体(集団)はその団体の特性から異なる意思決定規範が認められ得るとも考えることができる。しかしながら、そもそも「社団」であることによって当然に多数決による意思決定を正当化すべきかについては、それ自体別に検討がされるべき問題であるといえる。
本報告では、わが国の入会理論及び社団理論が強い影響を受けたドイツ法の中でも、特に共同地分割(請求)局面における団体法論の検討を通して、「社団」の意思決定規範についてどのような議論が展開されていたのかについて報告し、可能な範囲で日本の入会理論への示唆を検討することとしたい。
参考文献:西脇秀一郎 (2017)「団体法の二元性(1)」龍谷法学49巻4号の特に525-570 頁。
http://opac.ryukoku.ac.jp/webopac/r-ho_049_04_016._?key=QUHPOC
c. 報告2 「入会権と訴訟」 古積健三郎 (中央大学法科大学院)
要旨 入会権の処分は構成員全員の同意によらなければならないというのが、伝統的な入会慣習とされてきた。その背景には、入会権は全構成員が共同して保持する所有権ないし物権であるという思想があると思われる。この観点からすれば、入会権をめぐって第三者との間に紛争が生じた場合、第三者に対する権利主張・訴訟は、権利者全員によってなされなければならないというのが一応の理論的帰結であり(固有必要的共同訴訟)、実際に判例もそのような立場をとっていた(最二小判昭和41・11・25民集20巻9号1921頁)。
しかし、この前提の下では、構成員のうち訴えに同調しない者が現れれば、実際に訴えを提起することが困難となり、入会権者に対する法的救済の途が閉ざされることになりかねない。かかる弊害を考慮して、最高裁は、鹿児島県馬毛島の訴訟において、入会権の確認訴訟では、訴えに同調しない構成員も被告とすることによって、訴えを提起することが許されるという立場を示し(最一小判平成20・7・17民集62巻7号1994頁)、さらに、和歌山県岩出市の溜池に関する訴訟においてもほぼ同じ判断を下した(最二小判平成21年12月18日)。
ところが、この最高裁の見解は、確認訴訟の場合には通用するとしても、第三者の不実登記についての抹消登記手続請求などの給付訴訟においては、通用しがたい。かねてから、筆者は、入会集団の構成員のうち訴えに同調しない者が現れたときに、残余の構成員がいかなる法的構成をもって訴えを提起しうるかを検討してきたが、その手掛かりとなるのが、構成員相互間に存在する義務関係ではないかと考えている。そこで、本報告では、上記の二つの入会紛争を題材として、入会権をめぐる訴訟形態に関する卑見を提示してみたい。
参考文献:古積健三郎(2015)「入会権の変容について」法学新報122巻1・2号347頁、同(2016)「実在的総合人および総有の法的構造について」法学新報123巻5・6号275頁。
http://ir.c.chuo-u.ac.jp/repository/search/item/md/-/p/9675/
d.研究会の今後の進め方についての意見交換・議論
*報告の際の司会は、鈴木龍也先生(龍谷大学)に務めて頂きます。
*今回の研究会での検討対象となる二つの判例の背景、すなわち上関原発訴訟、馬毛島入会権訴訟の背景を知るための参考文献としては、中尾英俊・江渕武彦編(2015)『コモンズ訴訟と環境保全 ー入会裁判の現場から』法律文化社があります。
4.懇親会
会場周辺のお店で会費 4千から5千円程度で予定しています(院生は2千円程度)。
5.参加申し込み
3月1日(木)までに takamura ☆ sps.ritsumei.ac.jp までメールでご連絡ください(☆を@に)。
その際、懇親会に参加するか否かも併せてお伝えください。参加申し込み後のキャンセル、もちろんOKです。
参加予定者には、古積先生の報告原稿を事前にメールにて送信します。
*今回、共催いただく龍谷大学里山学研究センターについては、以下をご覧ください。