日時:2015年2月21日(土)15:00~
場所:東洋大学白山キャンパス6号館2階6209教室
発表者:荻原祐二(京都大学)
タイトル:「ユニークな名前は増加しているか?日本文化における個性追求と個人主義化」
概要:
これまで文化心理学は、社会・文化環境と心理の相互構成理論を前提としながら、人間の様々な心理プロセスや行動傾向において体系的な文化による違いが存在することを示してきた。しかし、これまでのほとんどの研究は、相互構成というダイナミックなプロセスを前提としながらも、一時点での比較に留まることが多く、文化が動的で変容し得るという側面を十分に検討できていなかった。実際に、アーカイブデータ(離婚率や家族サイズなど)を用いた分析では、日本とアメリカにおいて個人主義傾向が上昇していることが示されている。アーカイブデータはその性質上、過去から継続して同一の計量方式や質問項目が用いられ、そのデータが蓄積されている必要があるため、扱うことができる対象や領域が限定的にならざるを得ない。一方で、広告や教科書など、有形で共有された文化表象である文化的産物を用いることによって、文化の変容を幅広く検討することができる。しかし、東アジアにおける個人主義に関する文化の変容を、文化的産物を用いて検討した研究はほとんど存在しない。
よって本研究では、先行研究において個人主義指標として妥当であることが示されている子どもの名前を文化的産物の一つとして用いて、日本文化が個人主義化しているかどうかを検討した。
また、近年の日本において、ユニークな名前が増加している可能性が、人類学や社会学、言語学などにおいて議論されている。さらに、学術界だけでなく世間一般においても、ユニークな名前を子どもに与えることの是非やその社会的帰結について注目が集まっている。しかし、ユニークな名前が増加しているかについての実証的な知見はほとんど提出されていない。ユニークな名前が本当に増加しているかを実証的に検討することは、心理学だけでなく他の学術領域と社会にも意義がある情報を提供することができると考えられる。
研究1と研究2では、人間の赤ちゃんの名前の経時変化を分析した。研究3では、ユニークな名前を与える傾向が人間だけではなく犬の名前においても追試されるかどうかを検討した。3つの研究を通して、これまでほとんど検討されてこなかった文化の変容について、日本文化の個人主義化に焦点を当てながら議論する。
発表者:福島慎太郎(京都大学)
タイトル「文化の単位と心・文化の相互構成―地域住民の信頼に焦点を当てた社会調査―」
概要:
社会心理学は、心と社会の相互再構成のプロセスを解明するために、これまで主に「個人の社会性」を対象とした実証研究を通して、心の社会性にまつわる機能を精緻に分析してきた。しかし、アプローチ上、個人の合算を超えた社会単位のダイナミクスを実証的に捉えることに困難もかかえていた。
このような中、個人の心理行動傾向とともに、地域や集団で共有される文化固有の心理行動傾向を研究対象とすることで、集合的な社会現象を実証的に捉える研究が必要とされている。
本発表では、まずこの文化の単位に関する実証研究を紹介する。具体的には、京都府北部の地域コミュニティ群を対象として、人々の心理行動傾向が個人に固有の特性と同時に多層的な集団に固有な特性を持つことを理論的・実証的に提示する。
この文化の単位にまつわる知見を概観した後に、文化の単位が維持・変容するダイナミズムを、住民の協力行動ならびに協力行動に対する期待である信頼を対象として実証的に示す。分析方法としては、個人(世帯)、集落コミュニティ、旧市町村の3つのレベルの相互影響過程を捉えるマルチレベル分析を使用する。そして、「文化の単位と心・文化の相互構成」に関する議論へと展開させる。