第165回

日時 2014年8月8日(金)15:00-18:00

場所 東洋大学白山キャンパス 1号館3階 1307教室

発表者:村田光二 先生(一橋大学)

タイトル:誰かのためにがんばる自分-他者志向性が課題への内発的動機づけに及ぼす影響

概要:

本研究は、他者のために目標追求活動に従事することが、自分のためだけにそうする場合と比べて、その活動への内発的動機づけを高め、活動の成果を促進するという仮説を、いくつかの実験を通じて検討するものである。

この仮説は、伊藤忠弘(2004)が提唱する「他者志向的達成動機づけ」という概念や議論に基づくが、他者志向性を操作した実験研究はまだほとんど行われていないようである。他方で、私の研究室ではこれまで4つの卒論研究の実験でこの仮説(ただし、失敗経験時や制御資源枯渇時などに限定された仮説)が検討されたが、1つを除いて成果を得たものはない。

他方で、近年のいくつかの研究は、この仮説が成り立つ可能性を示唆している。例えば、Dunn たち(2008)の向社会的な支出研究では、自分のためにお金を使うよりも、同じ額のお金を他者のために使った方が幸福感が増すことを見出している。一連の研究を手短にレビューした論文では(Dunn, et al, 2014)、この効果の理論的根拠をデシやライアンの自己決定理論に求めている。これは、他者のための行動が自己の自律性を損なうことなく機能する可能性を議論していると考えられる。また、Walton たちの研究(2014)では、他者と一緒に仕事することの手がかりが、個人の課題達成場面における内発的動機づけを高めることを示している。この研究は、他者志向性を扱っているわけではないが、他者と一体化した心理状況が独立した状況よりも、課題遂行を促進する可能性を示す。

以上のような背景から、この6月後半から7月前半に、立て続けに4つの実験研究を実施した。最後の実験はこの概要を書いている当日に実施したばかりで、いずれも分析結果がどうなるのか不明である。研究会の発表では、できるだけこれら実験の結果を含めたいが、そうできなかったときは、向社会性と個人的な達成動機づけとの関係について、これまでの議論を整理する報告を行いたい。

発表者:井上裕珠 先生(一橋大学)

タイトル:資源の分割容易性と分配への期待が妬みに及ぼす影響

概要:

妬みは良くない感情と考えられているが,それにも関わらず私たちはなぜ妬んでしまうのだろうか。本研究では妬みの適応的機能,具体的には妬みが資源分配場面において有益であった可能性に焦点を当て,妬みの程度は資源の性質と他者からの分配の期待に依存すると予測した。この予測を実証的に検討するために実験室実験を実施した結果,他者が分割容易な資源を持ち,かつその相手からの分配が期待できない場合に妬みが特に強まることが示された。本研究の意義と限界,今後の研究の可能性について議論する。