日時:12月12日(金)15:30~
場所:東洋大学白山キャンパス8号館3階8301教室
発表者:中山義久 先生(公益財団法人東京都医学総合研究所 前頭葉機能プロジェクト)
タイトル:霊長類における行動のプランニングおよび実行の神経メカニズム
概要:
近年、心理学において神経科学の知見の重要性が高まってきている。病気や事故によって脳に障害を受けた患者が、言語や認知機能にどのような影響を及ぼすか という神経心理学的研究にとどまらず、知覚・認知心理学、さらには社会心理学の領域にも神経科学の知見を考慮にいれることが重要となってきている。逆に、 神経科学の分野においても、社会性を対象とした研究への関心が高まりつつある。社会性を対象とした研究として、ヒトを対象とした機能的磁気共鳴画像法 (fMRI) 等の手法を用いた脳機能イメージング研究が行われ始めている。このようなfMRIで観察される脳活動は脳内の血流の変化を測定したものであるが、それらは 脳内の単一の神経細胞の活動が基盤となっている。単一の神経細胞の活動が多様な情報を反映しており、様々な認知的、社会的な処理過程に関わっている。ま た、神経細胞は他の神経細胞とシナプスを介して情報伝達を行っており、脳部位特異的なネットワークを形成している。そのため、脳の機能を明らかにするため には単一の神経細胞のはたらきを検証することが重要であり、ヒトを対象とした脳機能イメージング研究に加えて、動物を用いた神経生理学実験が欠かせない。
本発表では、サルを対象にした神経生理学実験の手法の特徴や得ることができる知見について、発表者が行ってきた研究を中心に紹介する。特に、前頭葉の高次 運動野や前頭前野が、外部指示に基づいた行動のプランニングおよび実行の過程に関与するメカニズムについて紹介する。さらに、これらのメカニズムが、コ ミュニケーション等の社会行動の基盤となっている可能性を検討する。社会心理学と神経生理学の方法論や視点の違いを考慮しつつ、両分野の協調の可能性を検 討したい。
発表者:石田裕昭(公益財団法人東京都医学総合研究所 前頭葉機能プロジェクト)
タイトル:「他者の感覚、情動を推測するミラーメカニズム」
概要:
ミラーニューロンは、サルの運動前野から記録された視覚運動ニューロンで、自己(サル)の手指の動作時に反応することに加え、同じ動作を他者が行うのを自己が観察したときにも反応する。 ミラーニューロンの特性に基づき、非言語コミュニケーションを支える神経基盤の一つとしてミラーメカニズムが提唱されている。ミラーメカニズムは、自己の感覚運動情報に基づいて、他者の動作の意図を推測する脳機能に関わると考えられている。
近年、ヒトを対象とした脳機能イメージング研究により、自己の体性感覚や情動を処理する脳領域は、他者の感覚や情動の推測にも関わることが明らかとなってきた。さらに発表者自身はこれまで覚醒下のマカクザルを用いて、感覚や情動に関わるミラーメカニズムの神経基盤を検討することにより、以下の主要な発見を 報告してきた。
1)自己(サル)が触られた時だけでなく、対面している他者の身体が触れられるのを 自己が観察した時にも反応するニューロンを頭頂葉に発見した。この発見は、他者の触覚の推測に関わるミラーニューロンが存在することを示唆した。
2)毛づくろいの実行と観察の両方に反応するニューロンを島皮質に見出した。毛づくろいは他者のポジティブな情動を誘発し、行為者はそれを推測する。したがって、 この発見は、感覚や運動だけでなく、情動に関してもミラーニューロン が存在することを示唆した。
こうしたミラーニューロンの活動特性は、自己の身体感覚と社会的認知が密接に関わっていることを示唆している。すなわち、他者は「身体」という自他共有の 枠組みを通じ、自己と別け難い存在として脳内で共有され、これが他者の動作認識や感覚、情動の共感の基盤となっていると考えられる。本発表では、最近の身体性と社会的認知に関わる研究を紹介し、社会心理学と神経生理学のコラボレー ションについて議論したい。