日時:10月25日(土)15:00~18:00
場所:東洋大学白山キャンパス6号館3階6311教室
発表者:渡辺 匠(東京大学)
タイトル:自由意志信念の概念的フレームワーク
概要:
実験哲学や社会心理学では、自由意志信念にまつわる多様な問題が検討されている。そこで中心となるのは、「自由意志は存在する」と人々が信じているかどうか、またその信念がわれわれの社会生活でどのような機能を果たしているか、という問題である。これらを検討した研究では、われわれは全体として自由意志の存在を支持しており、またその信念は自己コントロール(衝動的反応の抑制)
や責任帰属(道徳的責任の付与)を促進することが示されている。
しかしながら、一口に自由意志信念といっても、そこで操作・測定している概念はかならずしも一致していない。多くの研究は「自由意志」という用語を直接使用しているが、ある研究者は自由意志を行為の選択能力として解釈し、別の研究者は意識的意志の能力として解釈している。さらに、行為者性や行為者因果などの関連概念が区別されることなく同一の概念としてあつかわれてきた。したがって、自由意志信念に関する過去の研究は、一体何に対する信念の問題を検討しているかが不明確であったといえる。
以上の問題点をふまえ、本発表は自由意志にかかわる概念のフレームワークを整理し、この概念的フレームワークが人々の信念を反映しているか(すなわち、人々は自由意志の関連概念を本当に弁別しているか)について検証する。そのうえで、われわれがそれぞれの概念を信じているかどうか、またその信念が自己コントロールや責任帰属とどのような関連をもつかについて分析結果を報告するこ
ととする。最後に、これらの結果にもとづき、研究の限界や今後の展望について議論をおこなう予定である。
発表者:白岩祐子(東京大学)
タイトル:犯罪被害者のための正義:新しい司法制度の効果測定
概要:
従来、刑事裁判は公益、つまり社会秩序の維持を図ることのみが目的とされ、犯罪被害に遭った人々にとっての「正義」を実現する場所ではなかった。そのため、「裁判がいつどこで行われるのか知りたい」「傍聴したい」「事件の詳細や故人の最期の様子が知りたい」「自分たちの意見も聞いてほしい」などの裁判に対する被害者の希望は、実現されずにきた。
しかし近年、「被害者に信頼されない刑事司法は国民全体からも信頼されない」などの理由から、司法における被害者の処遇を見直すさまざまな動きが生じている。
そのような動きのうち、本研究では、2001年に始まった「意見陳述制度」と2008年に始まった「被害者参加制度」に着目し、これらの制度による効果を検証する。具体的には、死亡事件のうち主たる被疑者が起訴され、少なくとも第一審が終結した事件の遺族を対象に調査を行い、制度の利用によって刑事司法に対する被害者の信頼は向上しているかどうかを検討する。なお、調査は小林麻衣子氏(筑波大学)との共同研究によるものである。
発表者:橋本剛明(東京大学)
タイトル:勢力感が人々の罰や許しの動機づけに与える影響
概要:
日常的な対人関係のトラブルから犯罪被害場面に至るまで、他者が巻き込まれた侵害場面を知覚すると、人々は、たとえば侵害者に対する制裁を通して公正を回復しようとする。一方で、侵害者が誠意ある謝罪を呈する場合も公正の回復は知覚され、それは人々の寛容的な反応を導く。
本発表では、制裁や寛容といった人々の反応が、勢力感(sense of power)の要因によって調整される過程について議論する。勢力感とは、状況や他者に対して、自らがどれだけの影響力を持っているかに関する主観的感覚を指し、侵害場面の当事者への罰や救済に自らが関与できる程度によっても規定される。また、プライミングなどを通して勢力感そのものを操作し、その効果を検討することもできる。
先行研究では、勢力感が人々の行動に及ぼす中核的な影響として、顕現化する目標に焦点化された反応を促進するということが指摘されている。このフレームワークに従えば、勢力感の高まりは、人々の応報性と寛容性を、いずれも促進するという仮説を導くことができる。本発表では、この仮説にもとづき発表者がこれまでに実施してきた研究結果に触れながら、その理論的妥当性について総合的
な議論を行いたい。