時制・相詞

# 時制

エニシキに時制(文の述べる相対的時間による述語への制約)はない。

未来表現は『亜接続詞』で取り上げる文特殊関係詞 man、過去表現は文関係詞 tu によって迂遠的に表せる。

あるいは、非現在表現として以下で扱う相詞の完結相 ta を使うこともできる。これに終助詞 pa を使えば、おおよそ未来表現になる。

エニシキは現在のことを記述するためにあるため、エニシキで表される事態はふつう現在付近のことである。

# 相辞

述詞の表す事態の相を表すことができる。A形につくことが多い。続いてU形で、I形が一番つきにくい。

ただし、相詞はオプショナルであり、相詞の無い内容語は mu相(継続相)が想定される。

局面系と分布系に分かれ、文法的挙動も異なる。

局面系はある1つの出来事の進捗具合、局面の様子を規定し、接中辞として使う。

分布系はそのような種の事象(一般に複数個)の時間軸上での分布の仕方を述べ、述詞の後ろ(投影詞より後ろ)に置く。

## 局面系

局面系の相詞は非常に体系的である。まずおさえるべきは le(開始)、mu(継続)、ce(終了)の3語である。

他の語のほとんどはこれにいくつかの規則を適用することでつくれる。

これに従えば、lena は開始点より前の局面、leniva は開始点よりすぐ前の局面、cesa は終了点より後の局面…を表す。

上の表にある以外の相をつくることもできる。たとえば、lesa はおおよそ「既に始まっている」を表すし、cena は「まだ終わっていない」を表す。

lesa は mu + ce + cesa の範囲を覆う。つまり、lesa が伝えるのは、「それが既に始まっている」ということのみであり、その事象の終了には着目しない。

しかし、「概ね、ある相の範囲は別の点を超えない」というシャーナ(Caana)の規則があり、これに従えば lesa はもっぱら mu と同じ範囲を示す。

述辞が呼応する。mu相範囲外(端点含まず)にあるとき、h-からy-、w-に変化する。

mu相以前のとき y-、mu相以後のとき w- になる。逆に、これによって、-lena-, -cesa- が省略される場合がある。

ただし、I形へのy付加、U形へのw付加の場合、活用語尾を伸ばす。(yi-, wu- → yii-, wuu-)

エニシキで yi, wu が出てくるのは述辞のこの場合だけであり、I,U形の場合は片方だけ述辞呼応するときもよくある。

### ギャップ相詞

ギャップ相詞は日本語の「未だに」「今だに」、「既に」「もう」に相当する単語である。

ギャップ相詞は局面系の一種だが、述詞の後ろ(分布系と同じところ)に置き、その局面についてそのようなギャップを感じていることを表す。

pue

bue

尚早ギャップ;まだその相ではないだろうと思っていたのに、実際にそうであることへのギャップ

遅延ギャップ;もうその相ではないだろうと思っていたのに、実際にそうであることへのギャップ

-lesa- ... pue : もう既に始まってしまっている

-le- ... pue : もう始まってしまった (実際の開始点が自然な開始点より早いと感じている)

-lena- ... bue : 未だ始まっていない

-le- ... bue : やっと始まった(実際の開始点が自然な開始点より遅いと感じている)

-cesa- ... pue : もう既に終わってしまっている(まだ続くと思っていた)

-ce- ... pue : もう終わってしまった

-cena- ... bue : いまだ続いている

-le- ... bue : やっと終わった

### 自然相

自然相は、「そろそろ~し始めて/終えていい頃だ」という開始や終了が見込まれる段階にあることを表す。

自然相では、当該事象の開始/終了が「見込まれる段階」であることを裏付けるための何らかの根拠が必要となる。

エニシキでは、その当該事象の背景にある状態の遷移がその根拠となる。

例えば、「何かを完了する」というのは、背景の状態がAから(しばしば目的の)Bに切り替わることで言い換えられる。

つまり、自然相は他の並行する状態の遷移に対して相対的に決まる局面・相であり、これは文脈によって様々である。

「リンゴがある→ない」かもしれないし、「13時以前→以後」かもしれない。

いずれにせよ、自然相を用いた話者は、その表現内容に隠れた背景状態を意図していると考えなければならない。

## 分布系

ta

gutta

taasi

相;完結

相;習慣

相;経験 

完結相は時間軸上のある一点にその単一の事象が1つあるように捉えている態度を表す。

この「一点の感じ」は実際の事象が一瞬だったのではなく、その事象が他の重要な時点(概ね現在時点)にまで広がっていないということを意図する。

そのため、完結相は未来時点や過去時点を想定して使われるのがほとんどで、見方によっては「非現在時制」として見ることもできる。

分布系と局面系はふつう共起しない。

習慣相は時間軸上に複数のその単一の事象が習慣的に分布していることを表す。

経験相は現時点より以前にその単一の事象が少なくとも1回あったことを表す。

習慣相と経験相では、その絶対格がそのような習慣・経験を有していることに注意。