「放送大学の出会と数学」
2013/06/28 15:35 に 山口文夫 が投稿
自然の理解コース卒業、大学院・自然環境科学プログラム修了
社会と技術コース在学中 山下 功
1. 放送大学を知った経緯
まだ現役の会社員として働いていた頃、同じ職場に嘱託で働きながら放送大学で勉強している方がいて、話を聞く機会がありました。その方から工業材料に関するテキストを見せてもらうと、当時の最新の内容が記載されており、立派な内容であることに感心しました。その事がきっかけで興味を持ったものの、日々の仕事に忙殺される中、すぐに放送大学の門を叩くには至りませんでした。
2. 定年後の人生と数学
その後、定年の時期が近づくにつれ、今後の人生をどのように過ごすか、歩んできた道を活かしつつ知的好奇心を満たす対象について、模索し始めました。はじめに、私の機械技術者としての人生を振り返ってみると、製品の構想・設計から、図面を引いて製品を試作し、最終的に生産ラインに載せるまで、設計開発の全ての工程にかかわり、まさに物造りの醍醐味の中で日々を過ごしてきました。特に、頭を悩ませながら設計した製品が、初回出荷時にトラックに積載されて遠くに立ち去るのを眺めるときは、我が子の旅立ちを見送るような、設計者冥利に尽きるといった感慨に包まれたものでした。一方で、物造りの現場においては、経験や勘による設計が非常に重要で、意外にも、大学時代に学んだ数学や物理の高度な理論や法則に触れる機会は多くありませんでした。その為、数学や物理をもっと深く探求したいと言う気持ちが、常に心の奥底にありました。また、私には、若いときに一時、数学を専門に勉強したいと願いながらも、諸事情により実現できなかったという経緯がありました。
そのような状況下で、時間的制約のない定年後に自宅でできる活動として、数学を勉強するという考えが浮かび上がりました。また、ちょうどその頃、数学に関するある雑誌の記事を思い出しました。その記事とは、昔、科学者として活躍していたものの田舎に戻り家業を継ぐことになった人が、やはり学問自体をあきらめきれず、紙と鉛筆できる数学を選び、独学で家業の傍ら学んで、後に立派に数学の業績を上げたというものでした。
3.放送大学の入学動機
よし、若い頃からの心残りである数学を重点的に学び直そう、と決意したものの、次なる課題は具体的な学習方法の検討でした。数学を勉強するに当たって、自学自習するのは難しいと考え、まず、通信で勉強できる大学がないかと調べた結果、玉川大学の通信課程を見つけました。しかし、この通信課程は、高校の数学教員免許を取るための特別なもので、私の望む方向性とは違うと思案していたところ、冒頭に述べた、嘱託で働きながら放送大学で勉強していた方のことを思い出しました。そこで、放送大学の入学案内を取り寄せて内容を確認すると、自然の理解のコースには充実した内容の数学、物理等の講座があり、学び直すには最適だと思い、入学しようと決心しました。早速、定年退職の半年前である平成16年4月に、先ず科目履修生として入学しました。
4.放送大学入学から卒業
最初に受講しようと選んだ科目は、「数学基礎論」の1科目でした。その名の通り、数学の基礎を学ぶ科目と思って選びましたが、実際の内容は非常に難しく、今まで私には聞いたこともない数論が展開し、戸惑ったものの、補助教材用の参考書を買って必死で勉強し、何とかクリヤーしました。その年の8月に定年となりましたが、引き続き嘱託としてしばらくの間勤めることになった為、更に半年間、科目履修生として受講することにして、数学の科目を含め数科目を受講しました。
その翌年、いよいよ全科履修生に入学しました。当初から、早く、卒業に必要な単位数を修得して大学院まで行きたいと考えていましたので、初めから数多くの科目を取りましたが、仕事との両立の問題もあり、大変苦労しました。何とか勉強時間を作りながら、卒業の半期前には2単位を残すところまで単位をとることができ、平成19年3月に自然の理解のコースを卒業することができました。
5.大学院入学から卒業
学部卒業後、大学院の修士選科生に入学し、その年の9月に大学院の修士全科生の入試に挑戦し、無事合格することができ、大学院の数理科学ゼミに所属しました。しかし、今度は、修士論文のテーマを選定に非常に悩みました。色々なテーマが頭をよぎるものの自分自身の数学力が追いつかず、悩んだ末に、現役時代の仕事の中から、テーマを選び、『製品設計における数式の適用(弁機構の数学的解析)』という題目の修論をまとめることにしました。千葉の大学本部で開かれるゼミに出席し、ゼミの討論でもまれながら、何とか修学期間の2年間で修論を書き上げ、クリヤーし、卒業することが出来ました。卒業後は学部の「社会と技術」に再入学し、現在に至ります。
6.数学への思い
私が40数年前に在学していた頃に学んだ数学の内容は、主に微分積分、微分方程式、ラプラス変換、フーリェ級数等でした。ところが、現在では、基礎部分こそ昔の内容と変わりませんが、新たなコンピュータにまつわる数学や、線形代数、非線形微分方程式や偏微分方程式等々が学問内容として加わりました。さらに、近年の物理の進展(量子力学、相対性理論、非線形理論等々)に伴って、色々な新しい分野の数学も発展しつつある状況です。それらの最先端の数学を理解するのはまだまだ遠い道のりでありますが、急がず少しずつ努力し理解して行こうと考えています。
最後に、数学を学ぶ楽しさを紹介しますと、勉強を少しずつ日々積み重ねていく中で、昨日まで全く理解出来なかった難解な内容がふと理解することができたり、解けなかった問題が解ける瞬間があることです。この時の達成感は、何とも言い難い気持ちです。今後も、このような達成感を少しずつ積み重ねながら、私自身ができる範囲内で、少しずつ挑戦し続けようと思っております。