vol.5 能作淳平

新しいものと古いもののあいだに創造的な関係を作り出す建築家、能作淳平

長崎五島列島・福江島のプロジェクトではスタッフが島に移住して作業

前回は兄、能作文徳の作品と建築に対する考え方を紹介した。それに続いて今回は弟の淳平の仕事を見てみたい。

長崎県五島列島の福江島。現在、能作淳平はこの島で築80年の民家を地域の小さな図書館を兼ねたゲストハウスに改築するプロジェクトを手がけている。

「元々はお施主さんが友人たちと島に滞在する別荘をつくるという話からスタートしました。でも年に数回しか訪れることができないので、滞在する以外の期間は地元の人たちに建物を有効に使って欲しいという話に至りました。

地元の方々にお話を伺うと、そのエリアには本を楽しめる場所がないとのこと。そこで1階の一部を土間にして、地域の人たちが気楽に集える図書館にするというアイディアが生まれました」

淳平はプロジェクトの出発点をこのように語った。実際の施工では、設計事務所のスタッフが島に移住。現場管理をしつつ、地元の素材や技術をリサーチし、施工の進捗状況をインターネットを通じて発信した。(http://tomiesiteoffice.tumblr.com/)

なるべく、設計だけで完結してしまうのではなく、建物をつくるプロセスのなかで、島の文化やおもしろいと感じたところをレポートすることを意識したという。

写真(上)/ 富江ライブラリーさんごさん tomie library sangosan 2016 Photo by JUNPEI NOUSAKU ARCHITECTS


「できるだけ現地にある素材や技術を使うことで、地域の文化を継承していくことを目指しました。例えばこの島には溶岩がいたるところにあります。また立派な墓を作る文化もあって、石材加工のレベルが高い。そこで溶岩と石材加工をかけ合わせることで図書館の土間や踏石をつくりました」

島には船舶技術があるために、この地域の外壁は船舶用の防腐剤入りの赤いペンキが塗られ、それが街並みのようになっている。

「この島は珊瑚漁で栄えた歴史があり、この建物の名前にもなっていますが、珊瑚の赤色と街並みの赤をかけ合わせて、この建物のイメージカラーにしました」

設計する側が住人になって初めて見えてくることで、淳平は、このプロジェクトを島の隠れた魅力を再発見することにつなげたいという。

「今あるものに少し手を加えたり、かたちを変えることで、魅力的なものになるということを、伝えたいと考えました」


ローカルな技術や素材を大切にしつつ、いかに質を高められるか

写真(上)/神泉のリノベーション renovation in shinsen 2011 Photos by JUNPEI NOUSAKU ARCHITECTS


その場所にある材料を徹底的に活用するという発想は、都市の空間にも応用可能だ。

「2011年の『神泉のリノベーション』では、東日本大震災の直後に工事を進めたので、一時的に必要な資材が手に入らなくなってしまったのです。そこで部屋に残っている廃材を使ってリノベーションしました」

彼自身の事務所も、アートプロジェクトのために改修した古いスーパーマーケット、富士見台ストアーの一角をリノベーションしたスペースだ。道向いにある富士見台団地から出た廃材が事務所内でも活用されている。

また事務所に隣接した住居は、築50年の団地の一室を改装したものだ。そこでは既存の畳をベンチにしたり、押入れをデスクにしたりといった「転用」が試みられている。

写真(上)/富士見台ストアーのリノベーション renovation in fujimidai store 2015 彼自身が現在、事務所として使用している


建築における伝統的な素材や技術の見直しは世界的な傾向でもある。例えばムンバイにある設計事務所スタジオ・ムンバイは地元の伝統的な技術を重視する手法で知られる。彼らは土地の造成から設計、施工までを建築家のビジョイ・ジェインと熟練の職人たちの手仕事で行う。そして建築を作るプロセスを上下関係に基づく分業ではなく、階層を横断するような共同作業として捉えている。その発想は能作淳平のプロジェクトにも通じるものがある。

「日本ではリノベーションでも新築でも、ローカルなものを使うことが建築的な質の高さとは必ずしも結びついていない。これからは既存のものや地域の特性を活かしつつ、建築としての質の高さをどれだけ高められるかがテーマだと思います」

ローカリティや素材のリユースは従来の「建築」ではあまり重視されなかった領域だ。「新しいもの」と「古いもの」のあいだに創造的な関係を作り出そうとする彼の試みは、これからの社会が建築に求める方向のひとつを示している。


【プロフィール】

能作淳平(のうさく・じゅんぺい)

1983年富山県生まれ。2006年武蔵工業大学(現・東京都市大学)建築学科卒業。2006〜2010年長谷川豪建築設計事務所勤務。2010年ノウサクジュンペイアーキテクツ設立。現在、東京大学非常勤講師、東京藝術大学非常勤講師、東京都市大学非常勤講師。

http://junpeinousaku.com

取材・文/鈴木布美子、撮影/岸本咲子、コーディネート/柴田直美


■建築家にアンケート 能作淳平

Q1. 好きな住宅建築は?

A 「私の家」清家清、「自邸(最小限住宅)」増沢洵、「SH1」広瀬鎌二

Q2. 影響を受けた建築家は?

A 大学時代の先生の手塚貴晴先生。事務所勤務時代の師匠の長谷川豪さん。

Q3. 好きな音楽は?

A 90年代のロックを聴くことが多いと思います。

Q4. 好きな文学作品は?

A 村上春樹の作品全般。学生時代によく読んでました。

Q5. 好きなファッションは?

A 短パン。わりと寒い時期まで履いてます。

Q6. 自邸を設計したいですか?

A 設計したいです。子供のころの将来の夢が「建築家になって自分の家を自分で建てる」でした。

Q7. 田舎と都会のどちらが好きですか?

A 郊外あたりのエリアが好きです。

Q8. 最近撮影した写真は?

A 息子の写真


もし何の条件も制限もなかったら、建築家はどんな家を考えるのか?

「夢の家プロジェクト」

【夢の家プロジェクト】

今回の連載に登場する建築家の皆さんに、それぞれの考える「夢の家」を描いていただいた。「夢の家」の条件は「住宅」という枠組みだけ。実現可能性や具体性にとらわれず、各自の創造性や問題意識をぞんぶんに活かし、自由にイメージをふくらませて考えていただいた作品だ。

●能作淳平が考える「夢の家」

weekend house sharing | シェア別荘

「別荘を建てることは贅沢なこと。たまにしか訪れないのであれば、何人かで出資をし、いくつかの別荘を共同で所有する。別荘をシェアすることで、一ヶ所だけでなく、いろんな場所に別荘を持てる。例えばミーティングのある日はビルの屋上に建てたSOHO別荘で仕事をしたり、時間があいた時は、オーナー同士で山に行き、DIYで家を建てたり、週末は海のそばの温泉でゆっくり過ごしたり。また、インターネットなどで、別荘に滞在するスケジュールをみんなで共有することで、オーナーや家族、友人たちが集まって楽しむこともできる。好きな場所を選んで、働き、眠り、食べ、集う」

能作淳平