vol.23 大西麻貴+百田有希/o+h(後編)

建築と社会の幸福な連帯を目指す建築家、大西麻貴+百田有希(後編)

若手建築家のインタビュー。大西麻貴+百田有希の後半では、新作の『Good Job! センター香芝』を中心に、彼らの建築観について語ってもらった。


誰もが居場所を見つけられる場所づくりのために

大西麻貴と百田有希よる最も新しい作品は、奈良県の香芝市にできた『Good Job! センター香芝』。これは障害者の社会参加に主眼を置いた就労施設だ。運営しているのは奈良に拠点を置く一般財団法人のたんぽぽの家で、社会的包摂をテーマに障害者の社会参加をアートを通じて実現する事業を展開している。

この施設が提供しているのは、単なる就労の場ではない。障害者の個性豊かなアートとそれを活かしたいと考えるデザイナーや企業をつなぎ、魅力的なプロダクトの開発・製造、さらには新しい働き方の提案も行う。

「このプロジェクトをやることで、自分たちの価値観が変わりました。最初は建築を通じて障害のある人のための手助けが求められていると思っていました。しかし実際の彼らは自由に表現をしているのだとわかりました。自分たちに求められているのは、障害の有る無しに関わらず、みんなが居場所を見つけられる場所づくりだと気付きました」

百田は『Good Job! センター香芝』についてこう語り始めた。この施設は少し離れて建つふたつの建物から成りたっている。ひとつは障害のある人の日中の活動を支援するデイサービスの場である「Good Job! Center KASHIBA/STUDIO」、もうひとつはワークスペースに情報発信などのパブリックな機能を兼ね備えた「Good Job! Center KASHIBA」だ。

写真(上)/ Good Job! センター香芝 Good Job! Center KASHIBA 2016 Photos by Yoshiro Masuda

(上)「Good Job! Center KASHIBA/STUDIO」の外観。日中は障害者が落ち着いて過ごせる家の延長のような居場所として利用される。

(下)「「Good Job! Center KASHIBA」の内部。間仕切りは最小限に抑えられ、ふたつのアトリエがゆるやかに繋がる。皆で囲むテーブルや数人用の小テーブルなど、いろいろな居場所が用意されている。


ふたつの建物の役割の違いは、空間の違いにも現れている。「Good Job! Center KASHIBA/STUDIO」は主に決まったメンバーが通うことが想定されているので、自宅にいるときと同じような、ややクローズされた落ち着いた室内環境が用意されている。それに対して「Good Job! Center KASHIBA」は、異なる個性を持った空間をゆるやかに繋げることで、利用者がそのときのコンディションや気分に合った働きの場を見つけられるようになっている

皆が同じ方向に机を並べている不自然さ

「『Good Job! センター香芝』は小説に喩えるなら、ヴァージニア・ウルフの『波』に似ていると思います。小説の中で6人の個性の異なる人物のモノローグが重なり合うように、様々な居場所が同時に目に飛び込んでくる多声的な空間となりました」と大西。さらに彼女はこのプロジェクトが秘めた可能性について話を続けた。

「この施設に限らず、大勢の人が使う建築は管理という観点で語られがちですが、私たちは管理という言葉は好きではありません。視察に来た人たちからは『閉じていないことが信じられない』と言われたりしました。この建物では、個室がほとんどなく、人と人を壁で完全に隔てたりといったこともほとんどしていません。

見学に来た人は音のことなどを気にしますが、たんぽぽの家の人たちは皆さん大らかで、それが空間の雰囲気にもなっています。皆が思い思いの場所で、自由に仕事をしている様子を見ていると、私たちが普段同じ方向に机を並べて仕事をしていることをむしろ不自然に感じます」

現在彼らは、図書館のリノベーションや公民館のプロジェクトにも携わっている。公共の仕事では建物が完成し、それが使われる様子のイメージを多くの人々と共有し、それを具体化することが建築家に求められる。

「最近は、建築をつくることが社会的に望まれていないと感じることもあります。しかし私たちは、建築をつくることは素晴らしく、創造的であることを多くの人と一緒に味わいたいと思っています」と大西は語る。

社会に必要とされる建築を目指すことで、建築の持つ創造的な可能性をより押し広げる。彼らが追い求めているのは、スタイルの追求を超えたところにある、建築と社会の幸福な連帯と言えるだろう。

【プロフィール】

大西麻貴(おおにし・まき)

1983年愛知県生まれ。2006年京都大学工学部建築学科卒。2008年東京大学大学院工学系研究科建築学専攻修士課程修了。2008年大西麻貴+百田有希/o+h設立。2017年より横浜国立大学大学院YGSA客員准教授。

百田有希(ひゃくだ・ゆうき)

1982年兵庫県生まれ。2006年京都大学工学部建築学科卒。2008年京都大学大学院工学研究科建築学専攻修士課程修了。2008年大西麻貴+百田有希/o+h設立。2009~14年伊東豊雄建築設計事務所勤務。2017年より横浜国立大学非常勤講師。

http://onishihyakuda.jp/

取材・文/鈴木布美子、撮影/岸本咲子、コーディネート/柴田直美


■建築家にアンケート⇒大西麻貴+百田有希

Q1. 好きな住宅建築は?

A サラバイ邸(ル・コルビュジェ)、中野本町の家(伊東豊雄)、中心のある家(阿部勤)

Q2. 影響を受けた建築家は?

A 伊東豊雄、竹山聖、SANAA

Q3. 好きな音楽は?

A ショパンのバラード1番、ドビュッシーの子どもの領分

Q4. 好きな映画は?

A 街の灯(チャールズ・チャップリン)、軽蔑(ジャン・リュック・ゴダール)、ミツバチの囁き(ビクトール・エリセ)

Q5. 好きなアート作品は?

A アンリ・マティス、ルーシー・リー

Q6. 好きな文学作品は?

A 「波」ヴァージニア・ウルフ、「ブッテンブローグ家の人々」トーマス・マン、「失われた時を求めて」マルセル・プルースト

Q7. 好きなファッションは?

A ワンピース、シャツ

Q8. 自邸を設計したいですか?

A いずれ

Q9. 田舎と都会のどちらが好きですか?

A どちらも

Q10. 最近撮影した写真は?

A 熊野古道 アルヴァロ・シザの建築

Q11. 行きたいところは?

A ブラジル インド

Q12. 犬派ですか? それとも猫派?

A 犬


もし何の条件も制限もなかったら、建築家はどんな家を考えるのか?

「夢の家プロジェクト」

【夢の家プロジェクト】

今回の連載に登場する建築家の皆さんに、それぞれの考える「夢の家」を描いていただいた。「夢の家」の条件は「住宅」という枠組みだけ。実現可能性や具体性にとらわれず、各自の創造性や問題意識をぞんぶんに活かし、自由にイメージをふくらませて考えていただいた作品だ。

●大西麻貴+百田有希が考える「夢の家」

「夢の家」

「まるで生き物のようでもあり、衣服のようでもあり、屋根のようでもある家。住んでいるうちに、いつの間にか家が移動していたり、姿が変化していたり、違う生き物も一緒に住んでいたりといったことが起こりそうな家」

大西麻貴+百田有希