vol.2 能作文徳、淳平兄弟(前編)

能作文徳、淳平兄弟が協働で作る祖母のための家とは

前回の監修・千葉学氏へのインタビューに続き、いよいよ今回から若手建築家のインタビューが始まる。その第1回目は、能作文徳(左)と淳平(右)の兄弟だ。都内にある能作文徳のオフィスで、ふたりに共通する建築観、そして共同で行うプロジェクトについて話を聞いた。


子供時代を過ごした家を改修してゲストハウスを作るという試み

高岡のゲストハウス Guest house in Takaoka Photo by Jumpei Suzuki

2016年第15回ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展日本館展示に出展し、特別表彰を受賞。

富山県の高岡は江戸時代初期に高岡城の城下町として誕生し、商工業の町として発展した歴史を持つ。能作文徳と淳平の兄弟はこの町の出身だ。現在はそれぞれに設計事務所を設立し、建築家として活動している。「高岡のゲストハウス」はそのふたりが「能作アーキテクツ」の名前で手がける共同プロジェクトだ。ふたりが「協働」するには特別な理由がある。これは彼らが子供時代を過ごした家を改修し、祖母の住まいと家族や友人が宿泊できるゲストハウスをつくる試みなのだ。

「小学生まで住んでいた家には特別な思いを抱いていました。上京して東京で暮らすようになると、それまでありきたりだと思っていた田舎の風景、特に瓦屋根の家が並んでいる風景を別の視点から眺めるようになりました。するとそこに、今まで気づかなかった価値が見えてきました」

能作文徳は「高岡のゲストハウス」についてこのように語り始めた。既存の建物は古い木造の住宅だ。改修では中央の二階建部分を解体。二階建部分があった場所は中庭として残し、その中庭を囲むように三つの独立した棟(祖母の住居棟、ゲスト用の寝室棟、家族や友人が集えるダイニング棟)に分解した。


豊かな暮らしのために住み慣れた家を改修して「減築」する

これからの地方都市では人口のさらなる減少が見込まれる。そうした地域では建物を増築したり、新築したりするよりも、建物を縮小する「減築」を行うほうが、豊かな空間や暮らしが得られるのではないか。プロジェクトの出発点にはこうした考えもあったという。

「80歳を越えた祖母に新しい環境に住んでもらうことには抵抗がありました。そこで住み慣れた家の一部を改修して、祖母が暮らすための棟を最初につくった。さらにゲストハウスをつくることで、一人暮らしの祖母のところに家族や友人が訪れる機会を増やし、少しでも見守れるような環境にしたいと考えました」と淳平は語る。


既存の風景を無視するのか繋がりを意識するのか

施工中の高岡のゲストハウス View of Guest house in Takaoka under construction Photo by Jumpei Suzuki


「高岡のゲストハウス」では素材のリユースが徹底している。既存の家の中央部を解体する際には、瓦葺の屋根部分全体をそのまま建物から切り離して敷地内に保存。この屋根の小屋組は、新しくできたダイニング棟に利用されている。

既存の建物のボリュームをダイナミックに分割し、新たに組み直していく手法からは、若い建築家らしい発想の大胆さが感じられる。瓦屋根の再利用という手法の発見がプロジェクト全体の方向性を大きく決めたと文徳は語る。

「周辺の住宅には瓦屋根が用いられています。そこで自分たちが住宅を設計するとなると、既存の風景や町並みを無視するのか、それとも何らかの繋がりを意識するのかの選択を迫られることになります。僕たちとしては瓦を使いたいが、現代建築に瓦屋根という組み合わせには抵抗感がありました。そこで、今ある瓦屋根の小屋組をリユースするというアイディアが出てきた。その瞬間からこのプロジェクトの持つ可能性が大きく広がった気がします。

実際にはクレーンを使って屋根を建物から切り離したのですが、そうした作業にはどこかイベントのような祝祭性があって、土地に根ざした古い建物に新しい息吹を吹き込んでくれるように感じました」

≪次回に続く≫


【プロフィール】

能作文徳(のうさく・ふみのり)

1982年富山県生まれ。2005年東京工業大学建築学科卒。2007年東京工業大学大学院建築学専攻修士課程修了。2008年Njiric+Arhitekti勤務。2010年東京工業大学補佐員。2010年能作文徳建築設計事務所設立。2012年東京工業大学大学院建築学専攻博士課程修了。2012年より東京工業大学大学院建築学系助教。

http://nousaku.web.fc2.com

能作淳平(のうさく・じゅんぺい)

1983年富山県生まれ。2006年武蔵工業大学(現・東京都市大学)建築学科卒業。2006〜2010年長谷川豪建築設計事務所勤務。2010年ノウサクジュンペイアーキテクツ設立。現在、東京大学非常勤講師、東京藝術大学非常勤講師、東京都市大学非常勤講師。

http://junpeinousaku.com/

取材・文/鈴木布美子、撮影/岸本咲子、コーディネート/柴田直美