17.「3密」の大切さとメンタルケア

―新型コロナとの心理戦を生き残る―

新型コロナウィルスはその病気自体のみならず、その対処として行われている「自粛」や「3密の回避」がこころにとって大きなダメージとなります。皆さんもさまざまな不安や恐怖を感じ、不自由で気疲れする日々をお過ごしのことと思います。

致し方ないことですが、こういう時こそ、こころの動きをよく見て、対処していく視点は大切です。こころのケアについてのコラムを書きましたのでご参照ください。

感染と潜伏期間の長さ、つまり誰が感染しているか本人すらもわからない。このことが今回のコロナウィルスの最も厄介で過酷な点の一つだと思います。私たちは感染拡大を防ぐために、集・閉・接の「3密」を徹底的に避けることを守っていくしかありません。

3密はこころを育む基本

しかし、こころの視点ではこの「3密」な関係こそ人間にとって基本的で不可欠なこころの栄養の源なのです。密閉・密集・密接を言い換えれば、閉じられ、守られた場所(密閉)で、皆で肩寄せ合って(密集)、触れ合い、つながる(密接)ことです。この密な関わりの心理的な原点は「守られた暖かい家で、家族に囲まれ、母親の腕で安心して甘えている赤ちゃん」をイメージするとよいでしょう。

人間の基本的な信頼と安心はまさにこの3密状況で育まれます。 日常のおしゃべりや愚痴、飲み会や会議、ライブやスポーツなどが次々と制限されています。私たちはこの当たり前だった3密なつながりによって、安らぎや癒しという「安心感」を得て、解放感ややる気という「元気」を受けとっていたのでした。心理的観点から言えば、この安心感と元気の源である人と人とのつながりをウィルスは破壊します。こころにとっては効果的かつ致命的な攻撃であり、まさに私たちとウィルスの心理戦とも言える点です。

3密の制限によってこころが壊される

ウィルス本体のみならず、この3密の制限によって人のつながりや信頼の断絶が進んでしまいます。今、世間で日増しに高まっている殺伐感はその反映と言えましょう。この状態が長く続くほど、私たちのこころは想像以上に疲弊し、損なわれていくことになります。学校閉鎖で1か月以上それを強いられている子どもたちにその兆候を読み取ることができます。「暇すぎるー」とイライラし、「友達に会いたい」「LINEだけでは足りない」と欲求不満は限界に達しています。学校がなくて喜んでいた子どもたちも、今や切実に学校の再開を求める言葉が増えています。大人だってそうです。一人暮らしのある男性は私と会って「話してほっとした」「家で一人でコロナのニュースを見てると苦しくて」と打ち明けてくれました。大人だってこの安心とつながりなしには健全に生きてはいけないのです。

私たちは、物理的には3密を避け、心理的には3密の制限で失っているものを補わなければ生き残れない、という困難なミッションの渦中にいます。乗り切るためにはさまざまな工夫が必要です。戦いのイメージは、断ち切られた人とのつながりの線を、結びなおし、繋ぎなおし、触手を伸ばして、補強するという地道なメンタルケアの工夫です。

たとえば、以下のようなことを意識的に増やすことによってウィルスに対抗していきましょう。

➀接触しない交流を増やす

ソーシャルメディアやオンラインの飲み会、電話や手紙など、3密がなくてもつながる手段はあります。触れ合いの感覚は充分ではなくとも、「やらないよりずっとまし」の精神で細くなりがちな糸をつなぎましょう。あなたが幹事になって、人と話す機会やつながりを維持する努力をしましょう。仲間や知り合いで孤立している心配な人はいませんか?その人に連絡をとりましょう。アメリカやイタリアでは、マンションのベランダで離れながらも歌を歌ったり、体操したりしているとのことです。また、武漢では直接の接触を避けて、お互いの靴と靴の先っぽで挨拶をする武漢挨拶を開発しました。世界中どこでも触れるつながりをいかに欲するかをあらわすエピソードですね。

➁家族や親密な人とのつながり

在宅勤務が増え、家族や親密な人との関係がますます大事になってきます。それはそのつながりが試されるときでもあります。外との密は禁止され、家族との3密を余儀なくされているとも言えましょう。長い時間ずっと一緒にいるのがつらいという声も聞きます。ストレスや不安を分かち合うため、いつもよりもじっくり相手の話を聴くことを意識的に行いましょう。そして、この機会に濃密な話もしてみましょう。「コロナにかからないためにどうするか」「もしコロナにかかったらどうするか」そして「これからどう生きていきたいのか?」など命や人生について自分の考えを話す深目の会話もこの機会に試してみましょう。また、話すばかりではなくトランプやゲームなどの遊び、マッサージや体操や筋トレなど身体を動かすことを一緒に行うのもよいですね。身体の感覚を共有するというつながり方です。1日30分でも、このような交流を行うだけで違ってくるはずです。

③リラックスタイムを作る

暗いニュースを見続けていると、怒りや恐怖が連続する「過覚醒」の状態が続きます。言わば目の前にライオンがいるときに生じる「闘争ー逃走」の緊張感にずっと居続けるような状態です。これは当然強い疲労感に繋がります。一日のうちに必ず、リラックスする安心な時間を作ってください。悲観的なものだけではなく、希望のある情報に触れましょう。お笑いなどのユーモアは癒しになります。自然や趣味に触れること、音楽や読書、映画やドラマもプラスになるはずです。その人が「心地よい」と感じるものが正解です。人との直接の交流が少なくなっても、こころは自由です。想像力を働かせ、一人でも楽しめる象徴的なこころの交流やポジティブな気持ちを維持する工夫をしましょう。

④敬意と連帯感を持とう

医療現場や最前線で対応にあたる人たちへの敬意を忘れないでください。感染のリスクを抱えながら、今日も最前線でその対応にあたっている人たちがいます。その人たちの努力によって私たちの生活が支えられています。つながりが壊されているときに、そのつながりを維持しようと最前線で戦っている人への連帯と感謝の気持ちをこころにとめておきましょう。私たちが3密を回避することは、医療崩壊を防ぎ、最前線の人たちが安全に落ち着いて援助を行うための努力でもあります。社会がそういった思いやりと連帯でつながっていることを感じることができれば、それは私たちに信頼や元気をもたらします。

⑤希望をもつ

感染の増大、死者数の増加、経済がどうなっていくのか。現実は刻一刻大変厳しいことを突き付けてきています。率直に言って、私たちはこれから生じる破局的な事態を受け止めるためのこころの準備が必要です。COVID-19は私たち人類の共通の課題であり、私たちの人生の歴史の大きな一部になっていくでしょう。本当に皮肉なことですが、人類がつながっていて全ての人が等しく当事者であるということをこのウィルスは教えてくれています。敢えて臨床心理士として伝えたいことは、人は不幸や絶望を体験し、その不幸から学び、それを乗り越えたときに生きることの意味や価値を見出す、ということです。それが希望の芽になります。

皆でこの危機を乗り越えた暁には、綿な計画を練って、濃な時間を過ごし、親さを分かち合う機会をたくさん持つことを誓いましょう。それを希望にして今日もそれぞれのできることを続けつづけていきましょう。 (岩倉拓)

(2020/04/10)

リンク:https://note.com/iwatakuramakan/n/n38354dbbf1e