山の手Q&A
「山の手」と「町内会」に関する質問と回答
「山の手」と「町内会」に関する質問と回答
【回答】町内会館等の不動産や自動車を保有する単位町内会については、メリットはあると考えられます。しかし、それらを保有しない単位町内会についてはメリットはほとんどなく、後述するデメリットしかありません※。
※町内会の法人化に関連する地方自治法は、近年頻繁に改正が行われているため、この結論は今後変わる可能性があります。
■認可地縁団体とは
町内会・自治会は「地縁による団体」(以下「地縁団体」という)とよばれ、地方自治法第260条の2第1項によれば「町又は字の区域その他市町村内の一定の区域に住所を有する者の地縁に基づいて形成された団体」と規定されています。また、これまで地縁団体は「権利能力なき社団」とされ、その保有する不動産(建物・土地・山林・墓地等)については、個人名義や共有名義で登記が行われ、地縁団体の名義で不動産登記ができませんでした。このため、名義人の転居・死亡等の変更が生じた際に、名義変更や相続を巡る様々なトラブルの原因となっていました。このようなトラブルに対処するため、1991年(平成3年)4月に地方自治法の一部が改正され、一定の条件を満たし届出を行った地縁団体は、市町村長から法人格の認可を受けることができるようになりました。その結果、不動産等の財産を、地縁団体名義で不動産登記できるようになりました。こうした認可により法人格を有した地縁団体のことを「認可地縁団体」とよびます。
しかし、地縁団体の法人格認可制度が導入されても、地縁団体が保有している不動産については、その目的である認可地縁団体名義への所有権移転登記は、現行の不動産登記法上、権利状態の確認後でなければ達成できません。共有名義人の一部が死亡している場合、全ての相続人の確定や承諾を得ることが難しく、名義変更を断念せざるを得ない事例が報告されていました。このため、2015年(平成27年)4月より、地方自治法が一部改正され、一定の要件を満たすものについては、認可地縁団体からの申請により、市町村長の公告手続きを経て、相続人全員の関与に代えて市町村長の証明書を以て登記申請できる特例制度が創設されました(地方自治法第260条の38)。
■認可取得要件
地縁団体が認可を取得するためには、以下の要件をみたす必要があります。
その区域の住民相互の連絡、環境の整備、集会施設の維持管理など、良好な地域社会の維持及び形成に資する地域的な共同活動を現に行なっていると認められること(地方自治法第260条の2第2項第1号)
その区域が、住民にとって客観的に明らかなものとして定められていること(同第2号)
その区域に住所を有する全ての個人が構成員になることができるものとし、その相当数の者が現に構成員になっていること(同第3号)
規約を定めていること(同第4号)
この規約の中には、下記の項目について定められていることが必要です。
目的
名称
区域
主たる事務所の所在地
構成員の資格に関する事項
代表者に関する事項
会議に関する事項
資産に関する事項
■認可範囲の拡大
2021年(令和3年)5月の地方自治法の一部改正により、不動産の保有の有無にかかわらず認可を受けることができるように変更されました(2021年11月26日施行)。しかし、1991年(平成3年)および2015年(平成27年)の一部改正の趣旨からは大きく外れています。認可地縁団体制度の改正に係る質疑応答において、認可の目的を「不動産又は不動産に関する権利等を保有するため」から「地域的な共同活動を円滑に行うため」という表現に改めた理由を、地縁団体の法人格認可の目的を不動産以外に
①継続した活動基盤の確立
②法人が契約主体となることによる事業活動の充実化
③法律上の責任の所在の明確化
④個人財産と法人財産との混同防止
⑤対外的な信用の獲得
等を挙げて説明していますが、取って付けた感があり説得力に欠けます。また、③によって、認可地縁団体代表者である会長の責任がさらに重くなるでしょう。もはや、無償ボランティアの枠組みを超えているように思えます。認可地縁団体の会長については、民生委員(非常勤特別職地方公務員)や行政区の区長※に準じた扱いが必要なのではないでしょうか?
※行政区の区長も、2019年(令和元年)度までは非常勤特別職の地方公務員でしたが、地方公務員法の一部改正によって、2020年(令和2年)4月以降は私人(有償ボランティア)となっています。公務員業務の外注化が急速に進んでいるようです。
認可範囲拡大の意図は、同時期に総務省で審議されている「ポストコロナの経済社会を踏まえた地方公共団体相互間の連携・協力のあり方」や「デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律(令和3年法律第37号)」等に関連しているのではないかと考えています。地方自治法第260条の2第1項では、「市町村長の認可を受けたときは、その規約に定める目的の範囲内において、権利を有し、義務を負う」とされているため、不動産等を保有しない地縁団体にとっては、法人化しても有効な権利がないのに義務だけを負わされている感があります。
■法人化のメリット
法人化のメリットとして、具体的で分かり易いものとしては、団体名義での
不動産または不動産に関する権利等の保有:
不動産登記法による土地、建物の所有権、地上権、永小作権、地役権、先取特権、質権、抵当権、賃借権、採石権
立木に関する法律による立木の所有権、抵当権
自動車の取得
集会所等の建物にかかる火災保険の契約
保有車両に関する自動車保険の契約
印鑑登録
等があります。また、具体的ではありませんが、他にも
意思決定や行動が法的なルールに基づいて行われる。
寄附や公的援助が受けやすくなる。
社会的信用が高まる。
がメリットとして挙げられることがあります。
■法人化のデメリット
法人化によって、次のようなデメリットを生じます。
① 規約に定める範囲内で義務を負う
② 町内会活動は,従前と変わらない
③ 営利を目的としている場合,固定資産税,法人税が課税される
④ 規約に定められた区域外に居住している者は正会員になれない
⑤ 法人設立届が必要
⑥ 代表者,事務所等に変更があった場合は届出が必要
⑦ 規約の変更には市町村長の認可が必要
⑧ 不動産登記手数料等が必要
これらのうち、①⑤⑥⑦は従前より手続きが煩雑になること、④は会員の構成に関する新たな制約が課せられること、③⑧については金銭的な負担が増えること、にもかかわらず②は町内会活動自体は特に変わらないことを意味しています。①は義務の範囲が制限的に書かれていますが、実際には、地方自治法の規定等により、次の義務が課せられます※。
民事上の取引等に伴う法人としての一般的義務
区域内の住民に対する不当な加入拒否の禁止(地方自治法第260条の2第7項)
構成員に対する不当な差別的取扱の禁止(地方自治法第260条の2第8項)
特定政党の利用制限(地方自治法第260条の2第9項)
損害賠償責任(一般社団法人及び一般財団法人に関する法律第78条)
代表者の権限の制限(地方自治法第260条の6、地方自治法第260条の10)
※地縁による団体の認可(自治会町内会の法人化)の手続き(横浜市)のご案内・注意事項(PDF/272KB)より引用
不動産等を保有していない単位町内会の場合、法人化するインセンティブが希薄であり、収益事業を行っていなければ法人化によるデメリット③および⑧は無関係とはいえ、その他は確実にデメリットとなります。法人化しても手続きが煩雑となり、②に反して従前にはなかった制約や作業時間が増えるだけで、「地域的な共同活動を円滑に行うため」とは逆行しているように思えます。他にも
⑨ 認可地縁団体の構成員は個人を単位とする
もデメリットになります。世帯を構成単位としている地縁団体は認可の対象外です。認可を得るためには、⑨だけではなく会費、定足数、議決要件等の世帯を単位として定められた規約・会則は大幅な変更を迫られることになります。また、法人は地域社会にとっては第二次的な参加者にすぎないと考えられることから、法人も構成員とはなり得ません。
自治会・町内会等の活性化やデジタル化の一環として行われた地方自治法の改正(令和4年8月20日施行)により新設された規定:
⑩第260条の19の2第1項および第2項
第1項「総会において決議をすべき場合において、構成員全員の承諾があるときは、書面又は電磁的方法による決議をすることができる。」
第2項「総会において決議すべきものとされた事項については、構成員全員の書面又は電磁的方法による合意があつたときは、書面又は電磁的方法による決議があつたものとみなす。」
も、実現可能性の観点(後述)から、デメリットと考えられます。上記第1項および第2項の違いについては、認可地縁団体制度の改正に係る質疑応答(横浜市)に詳しい解説があり、引用すると
「第260条の19の2第1項の場合には計2回構成員の意思を確認する必要があるのに対して、同条第2項の場合は1回の意思の確認で足りるという違いがありますが、その代わりとして、同条第1項の場合は、通常の決議要件が適用されるため必ずしも全員の賛成がなくとも可決することができるのに対して、同条第2項の場合は全員の賛成がなければ可決することができないという違いがあります。」
このことに起因して、
本脇地区自治会(和歌山県和歌山市)
では総会決議等無効等確認請求の訴訟が住民によって起こされ、一審では自治会が敗訴し、現在控訴中です(大阪高等裁判所,令和6年(ネ)第644号)。
■山の手地区の状況
山の手連合町内会は、山の手地区にある39の単位町内会を構成員としているため、個人を構成員とする認可地縁団体にはなり得ません。したがって、法人化の対象は山の手地区にある単位町内会のみとなります。当町内会も含めてほとんどの単位町内会は不動産を保有していませんが、要件を備えていれば、制度上は札幌市長に認可申請を行うことで法人化は可能です。
山の手第29町内会では、会則第6条1項において「世帯または法人を単位とする会員で構成される」と規定しており、⑨に抵触します。構成員を個人(乳幼児を含む)に変更することで、従来、世帯を単位として定められてきた会費、定足数、議決要件等の扱いが複雑になることは、制度面でも運用面でも無意味だと考えています。また、会則第25条2項および3項に定める総会の議決要件が⑩に抵触するため、これらの規定を変更しない限り、法人化は不可能です。⑩についてはデジタル化に前のめりになり過ぎているきらいがあり、書面または電磁的方法によって総会を開催しなければならない状況(会則22条4項では、自然災害、感染症蔓延等を想定)を踏まえると、その状況下で「構成員全員」の承諾あるいは合意を得ることが現実的に可能かどうか疑問があります。構成員の1人でも欠ければ「書面又は電磁的方法による」総会は、まさに絵に描いた餅に過ぎません。
当町内会において「地域的な共同活動を円滑に行うため」にはこれらの規定は必要不可欠ですし、その他のデメリットも被りたくないので、現状では法人化する必要はないと考えています。
■関連情報
第85回行政苦情救済推進会議 議事概要(平成24年3月15日,総務省)
同会議 資料(平成24年3月15日,総務省)
地域コミュニティの現状及び本研究会について(令和3年7月12日,総務省自治行政局市町村課)
地縁による団体の認可事務の状況等に関する調査結果(令和6年3月,総務省自治行政局市町村課)
新・認可地縁団体の事務の手引き(2014/09/06~2014/10/10)
認可地縁団体に関するQ&A(令和6年1月,松本市住民自治局地域づくり課)
認可地縁団体ハンドブック(令和6年4月1日 改訂,鳥取市市民生活部協働推進課)