山の手Q&A
「山の手」と「町内会」に関する質問と回答
「山の手」と「町内会」に関する質問と回答
【回答】募金や寄附は個人の自由意思に基づいて行われるべきものであり、会員全員の意思を確認することなしに町内会費から一括して支払うことは強制徴収となります。これは募金・寄附本来の趣旨に反し、司法の場でも、赤い羽根共同募金などを自治会費に上乗せして強制的に徴収するとした自治会の決議は、思想信条の自由(憲法第19条)を侵害し、公序良俗(民法第90条)に反し無効であるとの判決が確定しています(2007年8月24日大阪高等裁判所判決,平成18年(ネ)第3446号;2008年4月3日最高裁判所上告棄却により判決確定)。神社等の宗教法人への寄附に関しても、同様の判例があります(2002年4月12日佐賀地方裁判所判決,平成11年(ワ)第392号)。また、募金・寄附の強制は、日本赤十字社法第13条1項、社会福祉法第116条、緑の募金による森林整備等の推進に関する法律第16条、地方財政法第4条の5等の法令に抵触する可能性もあると指摘されています。町内会として法令遵守は当然のことであり、法令・判例に反する行動によって役員会が会員から訴えられるリスクを回避するためにも、会員全員の同意が得られない限り、町内会費から募金を支払うことはできません。
■当町内会の対応
「福祉」と「福利」は、ともに元々「幸せ」を意味する言葉です。「福利」は人々の生活環境における幸福と利益を指し、地域住民の「福利」の増進は当町内会の設立目的でもあります。一方、「福祉」は人々が幸福に暮らせる生活環境、特にそのための社会的な制度や施設を指し、税を原資として行政が行うべきサービスを表しています。当町内会の会則に「福祉」という言葉が一切現れないのは、「福祉」と「福利」を明確に区別しているからです。一般に、町内会会則の事業に関する条文の中で、「福祉事業」という言葉は、実際には募金・寄附金集金業務への協力という意味で使われていることが大半です。当町内会は、自治体や特定の外部団体との間で福祉サービスに関する業務委託契約を結んでいる訳ではないので、これらの外部団体から募金・寄附金集金業務への協力依頼を受ける立場にありません。募金や寄附は、個人がその自由意思に基づいて行う行為であり、本来、町内会活動とは無関係です。
募金の集金方法が、個人情報保護法に抵触するトラブルを生じかねない、現金を手渡しで集めるやり方では、募金の意思があっても躊躇する会員も多いことでしょう。封筒を利用した匿名の集金方法では、税制上の優遇措置が適用されません。個人情報を他の会員に晒すことなく、本人の自由意思に基づいて、クレジットカード、コンビニエンスストア、郵便局等を利用する様々な寄附方法、例えば
日本赤十字社|寄付する
赤い羽根共同募金|いろいろな寄付の方法
緑の募金|募金する
もあるのに、なぜ町内会を窓口にした前時代的な集金方法に拘泥するのか、理解に苦しみます。
さらに、前述の判例では、会員全員の同意が得られれば、会員からお預かりしている会費から一括して募金・寄附金への支出が可能になる※との解釈がなされていますが、総会における議決だけでは不十分で、総会欠席者の同意も必要になります。この会員「全員」の同意を得るという条件は、当町内会の規模でも現実的に達成不可能です。最近は、共同募金事業の実施主体である共同募金会と密接な関係にある社会福祉協議会の職員による着服・横領等の不正や、集まった募金の使途に関する様々な批判により、町内会の規模に関わらず、全員の同意を得ることは著しく困難になっています。
※認可地縁団体の場合は、たとえ会員全員の同意を得たとしても、地方自治法第260条2の9の規定により、特定の政党への寄附は禁止されています。
以上より、当町内会では、旧会則第14条3項および2025年度制定の会則第36条2項および3項において、法令および判例に則り、当町内会が構成員である山の手連合町内会が主催する事業への協賛金等を除いて、一般的な寄付金・募金等へ町内会の資産を支出することができない、会員への戸別集金活動も行うことができない、と規定しています。
■追記(2024/10/16)
赤い羽根共同募金への協力依頼文書が、共同募金会山の手分会の会長名で、当町内会長宛に10月16日に届きました。会則に従い、協力を辞退する旨を文書で回答いたしました。
共同募金運動へのご協力について(ご依頼)(令和6年10月15日付)
共同募金事業における集金・配布の辞退について(2024年10月16日付)
■1つの解決策
ネット上で散見される町内会費からの募金一括支払問題に対する住民の自治体へのクレームとその対応(下記関連情報参照)を見る限り、自治体から①町内会あるいは②集金依頼団体への指導を期待しても無駄です。①町内会は、自治体の一般的な監督権限下に置かれてはいないため、最終的には町内会の「自主的かつ自律的」な判断に任されています。町内会の内部で話し合いで解決してください、という回答しか返って来ません。また、②募金・寄附金の集金依頼団体は、たとえその事務所が自治体の庁舎の中にあって、その業務を公益を理由に自治体職員が公務として行い、その代表者が自治体の長と同一人物であったとしても、形式的には自治体外部の民間組織に過ぎません。自治体は、町内会と集金依頼団体とを調整する立場にありません。理不尽ですが、自治体へのクレームではこの問題は解決しません。
町内会費からの募金一括支払問題は、募金という「個人」の意思決定に、町内会という「組織」が関与することから生じています。このため、この問題の根本的な解決策は、組織が個人の意思決定に関与しないことです。前例踏襲、一部の役員の個人的価値観、同調圧力等によってもたらされた違法状態を解消し、町内会の健全な運営を目指すのであれば、民主的なプロセスを経て会則を改正し、会費の使途に制限を設けることが、1つのそしてたぶん最善の解決策です。
■関連情報
「法教育の視点から ルールづくり」(法務省)
「募金 任意で集めるべき」行田の自治会住民、予算から支出に反対し退会 各地で問題化(2023/12/2,東京新聞)
赤い羽根共同募金 不明金20万5000円発生 領収書の控えも行方不明(2023/6/23,TBS)
募金20万円余を着服疑い 田舎館村社福協元職員を書類送検(2023/12/11,NHK)
小山町社会福祉協議会元職員338万円余着服疑いで告訴状提出(2024/4/16,NHK)
“共同募金の口座から着服”として宮古市社協職員を懲戒解雇(2025/2/28,NHK)
赤い羽根共同募金の配分先にクルド人支援のための活動拠点立ち上げ事業が含まれていることに関する質問主意書(2023/11/15,参議院)HTML,PDF
自治会からの募金集めについて(沖縄県浦添市)
消防団後援会費について(鹿児島県鹿屋市)
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町内会費からの募金について(佐賀県三養基郡基山町)
区費と募金について(佐賀県三養基郡みやき町)
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地方公務員が一団体のために募金活動をすることは正しいと思うか(鳥取県鳥取市)
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町内会から神社への寄付について(北海道河西郡芽室町,2022/7/26)
官と民の狭間で揺れ続けた共同募金 -自発の衣をまとった「税」?-(2023年第46回法政大学懸賞論文優秀賞)
町会費と募金の一括徴収はおかしい(2022/6/1,アゴラ)
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募金に自治会費流用、あり? 世帯の負担額定め、まとめて納入「戸別に集金は大変」の声も(2021/12/27,声のチカラ)
赤い羽根募金「強制」やめました -小布施町自治会の試み-(2022/12/19,声のチカラ)
ついにやってきました! 日赤募金の協力依頼書面(2022/11/17,町内会 顛末記7)
日赤募金の協力について(2022/11/21,町内会 顛末記8)
【調査資料】赤い羽根共同募金の強制徴収によりトラブルに発展した事例(2023/10/14,村上ゆかりブログ)
諸事雑感 ー 町内会の募金集め(2024/7/12,浅川紀明の部屋)
赤い羽根共同募金の行方(1),(2),(3)(2009/12,内野光子のブログ)