山の手Q&A
「山の手」と「町内会」に関する質問と回答
「山の手」と「町内会」に関する質問と回答
【回答】制度的には、町内会・自治会等の地縁団体を行政の下請け(下部組織)と断ずることはできません。地縁団体は、法人格の有無にかかわらず、その活動や運営方法について自治体の一般的な指導・監督権限下にはありません。認可地縁団体に対する法人格の付与は、法律的には行政による支配や監督を意味するものではありません(地方自治法第260条の2)。
しかし、全国の多くの地域では、①ゴミステーションの設置および管理、②防犯灯の設置および電気料金の支払い、③公園等の草刈りおよび清掃、等の行政が本来行うべき業務を町内会・自治会が実際に担っていて、それらの費用についても会費から負担しています。公共性が高い活動を地縁団体が担うことに対する違和感から、地域住民の多くは、町内会は行政の下請けであると感じています。制度的には、①~③を含む公共サービスを町内会が担う義務はないため、町内会側からの行政への積極的な働きかけによって、改善の可能性は残されています。ただし、20世紀末からの少子高齢化の進展および経済・金融政策の失敗等に起因する国力の低下により、「指定地域共同活動団体制度」の創設(地方自治法第260条の49)等の、地縁団体を戦前の部落会・町内会・隣組のような「国家体制に組み込まれた地域社会を構成する中心組織」への回帰を目指す制度変更の動きもあり、今後注意が必要です。
■武蔵野市の場合
武蔵野市には、住宅団地自治会や一部地域における親睦的な町内会等は設置されていますが、全市的な市民組織としての町内会・自治会がないという全国的に見ても珍しい特徴があります。1971年(昭和46年)の第一期基本構想・長期計画において、新しいコミュニティ政策としてコミュニティ構想が策定されました。コミュニティ構想では、コミュニティを市民生活の基礎単位と位置づけ、市民による自主参加・自主企画・自主運営の原則に立った自律的・自発的なコミュニティづくりを目指しています※。
※ 武蔵野市のコミュニティ構想(武蔵野市) 参照
本当に羨ましい限りです。武蔵野市では山の手Q&Aは無用でしょう。武蔵野市と対照的な自治体が、行政主導の連合町内会を市民生活の基礎単位とする札幌市です。
■札幌市の場合
札幌市では、政令指定都市移行(1972年4月1日)に伴う区制施行が、現在の連合町内会体制に深く関わっています。新札幌市史(札幌市,昭和61年~平成20年刊)第5巻 通史5下「町内会体制の確立」に以下の記述があります。
戦後札幌市では町内会は自主的に設立されていったが、市は区制への移行を機会に、地域住民との連携を密にした市・区行政の実施をめざして、単位町内会の連絡・協力を図る連合町内会体制を確立しようとした。住民側もこれを受けて、昭和四十七年前後に多くの連合町内会を設立し、それと同時に単位町内会を新設、再編した。
自治体主導の「単位町内会の連絡・協力を図る連合町内会体制を確立」するという方針の下、ほぼ同じ時期に多くの連合町内会が設立されたためか、市内連合町内会の会則には「単位町内会の上位団体としての連合町内会」という特徴が共通して見られます。『連合町内会体制』という言葉がそれを象徴しています。また、「第〇〇町内会」(○○は数字)という序数による単位町内会の名称も、自治体主導の1つの証左と考えられます。町内会の歴史的あるいは地理的特性に基づかない機械的な番号付名称は、住民主導ではあり得ないことは明白です※。こうした名称は全国的にも北海道内においても極めて少数派であり、近年、単位町内会の分割・統合・加入等により名称の見直しが進んでいます。連合町内会設立や単位町内会再編の経緯が、新札幌市史に書かれている「住民側もこれを受けて」が果たして住民主体のものであったかどうかは今となっては確かめようもありませんが、連合町内会会則の特徴および単位町内会の名称から判断して、札幌市の連合町内会設立は、本来のボトムアップではなく、上意下達のトップダウンであったことは否めません。
※ 山の手連合町内会の場合、その母体は市の行政指導で組織された衛生組合「山の手衛生協力会」(1955年(昭和30年)設立)であり、山の手衛生協力会にも番号付名称をもつ分区が置かれていました。
■行政の下請け化:指定地域共同活動団体制度
令和6年の地方自治法一部改正(法第260条の49)により、『指定地域共同活動団体制度』が創設されました。この改正は、第33次地方制度調査会の「人口減少等により経営資源が制約される中で、住民が快適で安心な暮らしを営むことができるサービスの提供や地域課題の解決のため、今後、地域の実情に応じて、地域社会の多様な主体が参画し連携・協働する枠組み(プラットフォーム)を、市町村が構築し、その活動を下支えする取組が重要」との答申(令和5年12月)に基づいています。すなわち、指定地域共同活動団体制度とは、これまで主に自治体が担ってきた住民生活に関わる公共サービスを地域の特定の団体に委ねていく制度です。公共サービスの提供に資する活動を行う団体は、当該団体の申請に基づいて市町村長が指定し、指定要件の具体的な内容は条例で定めることになっていますが、その受け皿としては、町内会・自治会の連合組織、認可地縁団体、NPO,あるいはそれらを母体として各種の地域団体が参画する地域運営組織(まちづくり協議会,自治協議会,町内会連絡協議会等)が有力視されています。
この制度をどう使うか、どんな内容にするかは、各自治体の判断・裁量に委ねられています。札幌市の場合、札幌市未来へつなぐ町内会ささえあい条例(令和4年10月6日条例第41号)第4条(町内会等の地域における役割)において、単位町内会の連合町内会への連携、および連合町内会の「まちづくり活動を行う諸団体及び事業者と連携」が努力目標として掲げられており、連合町内会が指定地域共同活動団体に取り込まれる可能性は高いと考えられます。
■関連情報
第213回国会 総務委員会 第21号(衆議院,令和6年5月23日)
「指定地域共同活動団体」制度の運用等に係る質疑応答集について(総務省自治行政局市町村課,令和6年9月26日)
「地方自治法施行規則の一部を改正する省令(案)」に対する意見募集の結果(総務省自治行政局市町村課,令和6年9月26日)
指定地域共同活動団体制度について(総務省自治行政局市町村課,令和7年1月30日)
地方自治法「改正」案のもう一つの論点 ─ 指定地域共同活動団体制度について(角田英昭,2024年8月26日)
札幌市未来へつなぐ町内会ささえあい条例(札幌市)