見本②
《論文》
老人視聴者の動機――充足に関する研究
――利用満足理論による検討――
時野谷 浩
Ⅰ 序 論
今日、日本においては急速に高齢化社会に突入しつつあり、老人の生活への関心はますます高まっている。周知のように、老人にとってテレビ視聴は生活のなかでの重要な役割を占めている。欧米においては、日本より早く高齢化社会に突入しており、とくに米国では老人、健康への関心が高く、多くの老人視聴者研究が行われている。これらの研究領域は主に次の四つの領域にわけられる。
(1) テレビ接触や評価に関する心理的あるいはデモグラフィック変数の関連(タンストール、1966 など)。
(2) テレビのなかで描かれる老人視聴者についての番組内容やイメージ分析(コルゼニーとノイエンドーフ、1980 ;ハリスら、1975 など)。
(3) テレビや他のメディアとの機能の比較分析(スワンク、1979 など)。
(4) 視聴者がテレビから得ている充足や動機の分析など利用満足に関する研究(ルーヴィンとルーヴィン、1982 など)。
老人とテレビの研究は(1)、(2)から(3)さらに(4)へ進む研究の流れが米国における今日のテレビにたいする老人視聴者研究の特徴であると考えられる。
米国においては高齢化社会の出現とともに老人視聴者研究への関心が高まったが、わが国における老人視聴者研究をリヴューすると次のような特徴がある。
第1に、量的には老人にとってテレビ視聴行動が生活のなかで大きな役割を占めているにもかかわらず、その研究の絶対数が少ない。1975 年以降、今日まで老人視聴者そのものを扱った論文はわずかに 10 数本を数えるにすぎず、高齢化社会における老人視聴者研究への対応ができていない。
第2に、老人視聴者を研究の一部に含むものまでに範囲を拡大すると、質的にみて次の三つの領域に分類される。
(1) テレビ接触や評価に関するもの(NHKの国民生活時間調査など)。
(2) テレビでの老人イメージ(秋山、1981 など)。
(3) 老人がどのような動機や充足をもちテレビを利用しているかという利用満足研究(香取、1984 など)、あるいは利用満足的観点を含む研究(詫摩、1983 など)がある。
第3に、こうした老人視聴者研究を流れる一つの基本的な軸は、老人という年代に立つ視聴者が能動的であるか、受動的であるかにある。これについては議論のわれれるところである。例えば斎藤( 1983 )は「テレビ視聴がその助長にどのような形で貢献するのか。ネガティヴな面が多いのか、ポジティヴな面が多いのか」(下線筆者)と老人のテレビ視聴に取り組む問題意識を提起している。また研究の結果において老人視聴者の能動性を示唆するもの(香取、1984、1985 )、あるいは老人視聴者が受動的であるとの観点に立つ研究もいくつかある。
今回の研究は、Ⅱ方法のところで述べる利用満足理論的アプローチをもちいて次の目的を探索するものである。
第1に利用満足理論が主に受け手の心理過程を対象として、動機がとくにこの重要な構成要素であるところから、本研究は老人のテレビ視聴動機の特徴を研究するものである。視聴との関連は年齢、性、学歴などの基本的なデモグラフィック要因により、さらに動機を詳細に分析する。また日本の老人のテレビ視聴の特徴を、米国の老人視聴者研究データとの比較により一層明確にすることにある。
第2の目的は第1の目的が利用満足理論を背景に動機の観点から行われたが、利用満足理論と老年社会学理論との関連性を探索することにある。
第3の目的は利用満足理論は能動的受け手を前提としている。ここではテレビ視聴行動そのもののなかに内在する能動牲に注目して、利用満足理論における能動性理論を用いて、この問題に接近することを目的としている。
Ⅱ 方法
老人視聴者の視聴行動を把握するために研究全体の枠組を設定し、これに基づいて個々の老人視聴者との面接調査を行った。
1.研究全体の枠組
研究の全体的枠組として本研究は、マスコミュニケーションの受け手研究の中心にある利用満足理論を適用したものである。利用満足理論は、なぜ受け手(老人視聴者)がメディア(テレビ)を利用するのかという点に問題意識があり、受け手がいかなる要求・動機をもち、メディア利用を通じてどのような充足を得るかの過程、およびその構成要素の研究をその領域としている。とくに 1970 年代後半以降の利用満足研究(時野谷、1985b )が受け手の心理的“過程”を考えることから、マクラウドとべッカー( 1981 )、レヴィーとヴィンダール( 1984 )、パームグリーン( 1984 )などの利用満足研究の構成概念をもとに、図1のようなテレビ視聴行動のバラダイムを考えた。このバラダイムは 1970 年後半以降の利用満足研究の新たな動向を示す変数をすべて含んでいると考えてよい。また利用満足的アプローチを受け手(老人視聴者)に適用するとき、次の理論的前提をもつことになる(カッツとブラムラーとギルヴィッチ、1974 参照)。
第1に利用満足研究では老人としての受け手においては、要求を充足するホメオスタティックな過程を前提としている→図1の動機―充足が対応。
第2に老人視聴者は目的志向的行動としてテレビ・メディアを利用する。こうして老人は自己の要求を充足する主体的存在とされる→図1のⅩ4、(1)が対応。
第3に要求を充足する手段として、テレビは唯一のものでなく、機能的代替手段の一つとしてテレビを利用する。老人は一般に社会生活から引退したとはいえ、図1で示したようなさまざまな活動を行っている→図1の(2)が対応。
利用満足研究には以上の前提があるが、本研究はさらに、内容分析(→図1の(3)が対応)、デモグラフィック変数(→図1の(4)が対応)の分野を含んでおり、序論に提示した老人視聴者の基本的分野をすべて含むように設計されている。
次に目的1に対応して図1では動機(追求された充足)X1 を中心に分析した。測定尺度としてルーヴィンとルーヴィン( 1982 )によって洗練され、一定の国際的評価を受けている老人視聴者の動機尺度を用いた。この結果、日本の老人視聴者の動機の構造を国際比較することが可能になった。また老人のテレビ視聴充足の構造を動機(追求された充足Ⅹ2 )と主観的結果(獲得された充足Ⅹ2' )とに分けて分析するためにレヴィーとヴィンダール( 1984 )の測定尺度を用いた。Ⅹ1、Ⅹ2、Ⅹ2'、Ⅹ3 の分析は因子分析によった。
一方、こうした国際比較尺度によるだけでなく、日本の老人独自のテレビ視聴動機を研究するために第2次調査を行い、第1次調査の自由回答法で得られたテレビ視聴動機回答をもとに、Qソート分析法に用いる調査項目(Ⅹ3 )を作成した。Qソート分析法は主に分析よりも調査の手法としての特徴がある。例えば正規分布を示す解答シートにテレビを見る動機をあてはめてもらう手法である。こうしてQソート分析法により第2次調査を実施し、日本人独自のテレビ視聴動機を分析した。
目的2は老人視聴者の活動性を測定するために、老年社会学の活動性理論との関連を調べた。老人の活動はレモンとベングソンとピーターソン( 1976 )によれば、公式的・非公式的、マス・メディア接触行動を含む社会的活動とに分けることができる。老年社会学の活動性理論は上の諸活動と満足度との関連から調べることができる。こうした結果と利用満足理論との関連を推察されるだろう。
目的3は老人の受け手の能動性を明らかにするために、1970 年代以降の利用満足理論から、図2で提示された志向性と時間の側面によるレヴィーとヴィンダール( 1984 )の能動性尺度を用いて、老人のテレビ視聴活動を接触前活動(Ⅹ4′ )、接触中活動(Ⅹ4'' )、接触後活動(Ⅹ4''' )に分けるものである(図2)。
また老人視聴者の能動性は図1(2)の行動1、行動2、行動3の対比からも把握することができる。
2.調査手続
主な調査項目は次の通りである。
<第1次調査>
(1) テレビ視聴動機・充足
①テレビ視聴動機(情報など14項目に他7項目の認知的要因を加えたⅩ1 )、②ニュース番組の追求充足(Ⅹ2 )、③ニュース番組の獲得充足(Ⅹ2' )、④視聴理由(自由回答法Ⅹ3 )
(2) 老人の能動性、老年社会学理論との関連
①接触前活動Ⅹ4'、②接触中活動Ⅹ4''、③接触後活動Ⅹ4'''、④生活行動(2)、⑤機能的代替手段(テレビ、新聞、交際)(2)、⑥自己概念、⑦仕事観(4)
(3) テレビ接触・内容(3)
①好きな番組、②嫌いな番組、③視聴時間、④番組選択、⑤番組老人像
(4) 心理的・デモグラフィック要因(4)
①知覚フィルター、②老人イメージ、③老人の自己認知、④健康度
<第2次調査>
(1) テレビ視聴の土着的な動機(Ⅹ3 )
(2) デモグラフィック要因(4)、など。
調査地は世田谷区で第1次調査は層化2段無作為抽出法により 65 歳以上の成人 800 名を抽出し、回収数 635 名、回収率 79.3 %であった。60 代 197 名、70 代 324 名、80 代以上 114 名であり、平均年齢は 73.3 歳である。調査時期 1984 年 3 月 31 日から 4 月 8 日。第2次調査は第1次調査で得られたサンプル 635 名から 52 名を選び、調査時期は 6 月 1 日から 4 日である。
国際比較に用いられたデータは、米国の老人視聴者の利用満足調査データでは最大サンプルであり、ウィスコンシン州ラシーン、ケノシァ市でルーヴィンとルーヴイン( 1982 )によって 1980 年に行われ、サンプル数は 340 であった。国際比較のためのデータに関して、第1に両方のデータは利用満足研究のなかで、主に動機についての比較を念頭において設計され、国際比較に関する測定変数として全く同一の変数が用いられ直接比較が可能になっている。
第2にサンプル数であるが、日本のデータ、米国のデータとも、老人のみを扱った利用満足に関する視聴者データとしては最大規模のデータとなっている。
第3に両調査とも都市部において行われ、調査条件が類似している。
第4に老人層はその国際性と比較する上で最も好ましい安定した態度の構造をもつことが予想されるのである。
Ⅲ 調査結果
1.老人視聴者のテレビ視聴動機
(1) テレビ視聴動機の特性
表1は今回の研究で用いられた変数であるが、図1の利用満足のバラダイムでみると動機あるいは追求された充足Ⅹ1 を研究したものである。変数内容のカテゴリーはルーヴィンとルーヴィン( 1982 )によって分類されたものである。変数1は情報学習とされているが、認知的動機はすべて学習に結びついている。表1には 14 の動機変数が提示されているが、本調査では図4で示されているように 15 から 21 までの変数についても調査された。15 自分確認、16 実用情報、17 想起、18 由己確認、20 行動への指針、21 自己情報の動機と比較すると、その内容の比較からは、環境監視にたいする情報をあらわしている。またこの動機はこれまでの利用満足研究(時野谷・林、1981 ;時野谷、1982 ;時野谷、1985a )の調査データから比較すると他の変数より、最も高い反応を示しており、今回も最も強い。この動撥は認知的動機のなかで最も重要な個人的機能である。 情緒的動機は水越( 1981 )によれば、番組にたいして主に肯定的、否定的、さらにそれぞれが能動的、受動的に分かれることを示唆したが、この概念を用いると表1におけるカテゴリーは、能動的、受動的に分けることができる。変数2娯楽が3位にでており、能動的な情緒としてみることができよう。
この情報と娯楽は老人にとっての基本的動機である。これらの動機が上位にきているのは第1に、認知的動機が学習に基づき、人間の精神活動の基礎にくるものである。例えば,三輪( 1976 )は「身体的には第一線から身を退いても、精神的には常にテレビを介して現実社会と交渉をもちながら前向きに生きているというのが、今日の高齢者たちの大方の姿である」と述べている。第2により消極的には、老人の社会的役割の減少につれ、生活空間は縮小し、社会的情報源の減退に直面する。このため老人はテレビのような公式的情報源で知的・娯楽的に補償しようとするものである。こうした二つの見方については後に検討を試みる。
老人の動機として、第3位に便宜性が出現しているが、これは老人が肉体的に衰えつつあることからみても妥当な結果である。第4位にリラックスが出現しているが、この動機は老人において他の年代層と比べて高い。
この四つのカテゴリーが高い平均点を示す動機である。一方、人間関係に関する動機、例えば変数5、7、10、13 などは低く、また受動的な情緒的動機、例えば変数6、8、9なども低い。こうした特徴を把握するために、変数1、3、7、9、18 を選び、テレビとそれ以外の代替手段を比較したが、老人にとってテレビは情報と娯楽とに特徴があることがわかる(図3)。
単純集計の結果をさらに構造的にもその特徴をみるために因子分析を行った。マクイティ( 1957 )によれば、因子分析の結果はタイプあるいはパターンとみなすことができる。こうして動機間の因子構造あるいは相関構造から、老人の視聴パターンを導出することができる。今回の動機変数をPA2を用いて因子分析した結果が表2である。第1因子は娯楽型、第2因子は人間関係、第3因子は情報型である。この結果はこれまでに思惟的に提起された老人視聴者の分類、教養型、趣味型、無気力型の老人視聴者(香取、1984 )、娯楽型、教養学習型、友好型、意志表現型(野島、1984 )の傍線のタイプにも一定の支持を与えるものである。
次に視聴動機の年齢別、性別、学歴別の比較を行うことにする。最初に年齢については6習慣、7仲間関係、8時間つぶしなどを除き差がない(図4)。老人という特性からは年代による検討が重要であるが、1情報、3娯楽といった主要な動機、また2便宜性、4リラックスといった動機においても各年齢間に差がないことがわかる。従来、日本における調査は 79 歳までに限定されることが多かったが、本研究のデータは年齢による相違がなく、人間の精神的能力、情報(環境監視)、娯楽動機は年をとっても健康である限りあまり衰えないことを示唆している。
性別にみても基本的動機については相違はない。ただし 13 社会関係、14 広告といった点で女性の方が動機が高い。
学歴別では2便宜性、3娯楽、4リラックスを除き相違がみられた。このことは老人視聴者研究が年代別の観点よりも、パーソナリティ理論などの別の観点が必要なことを示している。
以上の分析から、本研究で用いられた動機が心理的にもかなり安定した構造をもつことがわかったが、こうした結果に基づき視聴動機と実際の視聴番組との関係をキャノニカル分析すると明確なバターンを示している(表3)。係数値の高いものを取りあげると第1次元では3娯楽、6習慣、7仲間関係といった娯楽的人間関係的傾向が出ており、番組のなかで「劇場用映画」「現代劇」「ワイドショー」「演芸」と結びついている。第2次元では1情報と「ニュース」と「報道特別番組」とが関連し、第3次元では 10 行動の指針と「教育・教養番組」と結びついている。
最後に、動機(追求充足)Ⅹ2 と獲得充足Ⅹ2' 関係を比較する(図1)。テレビ番組にたいするレヴィーとヴィンダール( 1984 )の測定変数を用いⅩ2 とⅩ2' を比較すると充足度はⅩ2' の方が高かった。因子分析の結果は、Ⅹ2 で3因子、Ⅹ2' で2因子が提出されているが、Ⅹ2 、Ⅹ2’ とも第3因子に環境監視因子、第2因子に環境監視因子が導出されているところに特徴があった。
(2) 老人視聴者の日米比較
国際比較研究の基本的視点は共通性と相違性から接近することができる。これまでの利用満足研究における国際比較研究をみてゆくと相違性より共通性が多く出てきているので、最初に共通性からみてゆこう。
表1の結果はルーヴィンとルーヴィン( 1982 )の共通尺度を用いているので、日本と米国の老人視聴者の動機を比較してみよう。
これらの動機の順位によるスピアマソの順位相関係数を計算すると 0.69 でかなり類似していることがわかる(表1)。視聴時間も日本では平均 4 時間 42 分、米国では 4 時間 46 分でほぼ同じである。動機では第1に認知的動機として、1情報が高く(日本~X 4.4、米国 4.0 )、3娯楽が2位(日本3位)に続く点が最顕著な特徴である。第2に、リラックスが5位に、2便宜性が4位にでており、高い水準が示されているが、日米とも人間関係にたいする動機は低い水準にあることがわかる。
こうした米国における結果をルーヴィンとルーヴィン( 1981 )は「娯楽と情報が二つの重要な家族視聴動機」であり、またルーヴィンとルーヴィン( 1982 )は老人にとってテレビが直ちに利用でき、容易に接近できる便宜性を指摘している。またスミスとモスキスとムーア( 1981 )も老人がテレビを主に情報と娯楽の情報源として利用し,スワンク( 1979 )はマス・メディアがとくに遊び(娯楽)と世界の理解が他の要求よりも顕著な要求であることを強調している。
以上、動機の順位からみて情報、娯楽などにおいて共通性があったが、次に日米の相違性をあげておこう。まずテレビ視聴動機の平均値の差からみてゆくと、日本の全体の平均が 3.24、米国の平均が 2.99 で日本の老人の方が高い動機水準をもっている。このことは、国民性からみると小川( 1981a )が指摘するように、日本人が米国人に比べて、情報メディアによって情報環境を形成することへの動機づけの高い国民であり、生活必需品としてテレビや新聞などへのメディアのウェイトが大きいことによる。カラーテレビの保有台数も 1982 年を例にとると米国が 89 %、日本が 98 %で日本の方が多い。それにもまして受け手としての日本人は、クリストファー( 1982 )によれば、国民性として「ニュース好き」であり、読書水準などからみても大変質が高く、受け手としての高い動機をもっていることが示唆されている。また『タイム』誌( 1983 年 8 月)でも日本が高い読み書き能力をもち、テレビが、米国より日本の社会で大きな構造的役割を果たしてきたことを指摘した。主要な動機1、2、3、4でも日米の差はP> 0.01 で著しいものがある。主要動機の差以外に次の点でも有意差のある項目が多かった。第1に、10 経済性であり、日本の 10 位にたいし米国では3位にある。これは実用主義的価値観をもつ米国との文化的風土の差であろう。
第2に、6習慣は日本6位,米国 10 位であり、日本の方が高い。日本人の情報文化においては、テレビが日常生活のなかで、あるがままの自然のものとしてみなされており、「日常化傾向」(小川、1981a )を示しており、宮田( 1982 )の言う日本人の心性としてのなりゆきまかせの論理が影響しているのかもしれない。つまりテレビの存在をそのまま受け止め“対象化”してみることがまれであることを示唆している。米国の情報文化においてテレビは環境のなかで対立するもの、自然と人間の対立の風土論にみられるように、あるがままのものでなく一つの存在をもったものとして見られているのではないかと思える。
第3の、5話題に関しては日本5位、米国9位であるが、社会構造的にみて、人間関係のなかでのコミュニケーション行動が米国と日本では異なるのであろう。テレビは日本では人間関係を補完するものとして使われるが、米国ではテレビとパーソナル・コミュニケーショソとが区別され、情報が吸収されているのではないか。
第4に、12 興奮は米国人の感情を率直に表現する国民性と感情を抑えがちな日本人の国民性の違いではないかと思われる。
要するにこうした日米の相違は第1にテレビにたいする依存性の違いによる。すなわちNHKの調査( 1982 )によれば、70 歳以上の日本の男子 39 %、女子 41 %が生活必需品としてテレビを示しているが、米国では男子 5 %、女子 6 %に過ぎない。この点が動機の差を生じ、習慣を規定するのである。
第2にテレビにたいする依存の少なさは、個人主義に基づく自立志向と奉仕活動など家族以外に眼を向ける米国との生き方や文化の違いであり、話題の相違などをもたらすのである。
以上、平均値における相違性をみてきたが、この関係をさらに詳しく分析するために 14 変数の相関をみることにする。ルーヴィン( 1982 )は動機の実証にあたって、相互関係にある動機の概念がこれまでの調査において典型的に無視されてきたことを強調している。メディア利用の動機は分離した実態のなかにあるのでなく、動機の複雑さと相互関連を確かめることを指摘している。
最初に相関係数から特徴をみると、日本において,1情報、3娯楽、12 興奮などの相関が低い。これと対照的に米国のデータでは,1情報、3娯楽、12 興奮が高い関係にあり、4リラックスとも関連性がある。こうした項目間の相関関係は因子分析において一層明らかになる。
14 変数の因子分析の結果、米国では第1因子に認知と娯楽に関する因子、第2因子は人間関係に関する因子が出現している。この調査を実施したルーヴィンとルーヴィン( 1982 )は「特に興味のあることは情報と娯楽的動機が結びついている」ことを強調している。この米国の分析はウェンナー( 1976 )のQソート法における分析結果の構造とも類似している。すなわちウェンナーの第1タイブでは遊び(プレー)と情報源(インフォーメーション・ソース)が同一次元のなかに含まれている。第2タイプが仲間関係、第3タイプに暇つぶしが導出されている。
しかし、この因子構造を先の日本の結果と比較すると、第1に基本的には情報と娯楽の構造が違っている(表2)。すなわち日本では分化し、米国では同一次元に存在している。日本人の場合、老人は認知的動機をそれだけで独立したものとみており、情報を得ることが独自の意識で捉えられている。日本の老人にとって情報を得ることと娯楽がアンビバレントな構造にあり、このことは日本においては緊張の文化的傾向があることを示しているのかもしれない。
第2に人間関係因子の構造において相違がある。日本には 10 行動の指針、13 社会関係など集団主義的傾向が見うけられる。米国においては5話題、6習慣、9逃避、10 行動の指針、13 社会関係、14 広告などである。なかでも 14 への因子負荷量が高く、9が加わっていることから考えると、日本と比べてややドライな人間関係が読みとれる。米国社会の疎外された人間関係の一端をうかがうことができる。ルーヴィンとルーヴィン( 1982 )は「テレビ視聴は仲間関係にたいして感じられたコミュニケーションの空白をみたし、ある老人の生活において怠惰な時間を支配することに機能している」ことを指摘している。
以上の研究結果を考察すると、日米老人の視聴構造には大きな差がある。これまで利用満足に関する国際比較研究は数多く行われてきた。児童とテレビの関係では、グリンバーグ( 1974 )との日英比較における研究が水野( 1977 )、新井( 1984 )によって行われているが、構造的に大きな差がでていない。これらの研究は年齢の低い児童の利用満足の充足を扱ったものであるが、一方今回の老人の日米比較においてはルーヴィンらの尺度構成の基礎がグリンバーグ( 1974 )の尺度を基にしていたのにかかわらず、日米比較においては大きな相違があった。小川( 1981b )はテレビ視聴における年齢の意味を、若い時は関心の「内化」と「外化」の併存する時期であり、中年層は「外化」の時期であるが、次第に「内化」への動きを示すようになることを指摘した。「内化」の始まりは高年齢層への移行を意味するとされる。このことは日本人が年齢を語るとき、『モゴール族探険記』(パジャマからゆかたへの変化)や『学生に与う』(古都奈良への関心)などでみられる老境への到達が、その国の文化を吸収し、固有の文化、社会的特性を身につけるものであろうか。こうして老人の利用満足においてはデータの差がでると思われる。
これまでルーヴィンとルーヴィン( 1982 )の尺度により国際比較を進めてきたが、日本人の独自性あるいは土着性ともいうべき動機による分析を行った。Qソート法で得られたデータを因子分析した結果(表5)、第1因子は1世の中の出来事の理解、7世の中の動きについてゆく、9教養に役立つがプラスの方向であるのにたいし、8夢中になれる、13 退屈を紛らすなどがマイナスの方向にでており、人生の生き方に関するものである。第2因子は興味、第3因子は社会的存在、第4因子は娯楽に関する因子である。
こうしてルーヴィンらの尺度とは別の尺度を用いた結果を米国の結果と比較すると、第1に情報と娯楽がわかれて導出されており、構造が違う。第2に第1因子から第6因子までプラスに能動性、マイナスに変動性の次元がでているようにもみえる。テレビ視聴もその人の生きる態度がでてくるものであろう。こうした結果は、小川( 1981b )の日本人とテレビ調査の数量化Ⅲ類による分析で「生活態度や構えが能動的か受動的かを分けていると考えられる」軸がでているところから、日本人独自の特徴かもしれない。またQソート法を用いた調査法による影響が幾分あるとも思える。
2.老人視聴者の能動性について
さきに研究の枠組のところで提起したように老人視聴者の能動性について接近するために、(1)老年社会学理論と(2)テレビ視聴における能動性の二つの観点から検討する。
(1) 老年社会学理論との関連
老年社会学には、いくつかの老人にたいする理論が存在する。その主な理論は活動性理論と離脱理論(袖井、1975 )などである。スミスとモスキスとムーア( 1981 )によれば、離脱理論は老人になることの自然の結果として生活空間の縮小を説明している。すなわち社会的きずなの自発的切断と孤独への引退であるが、活動性理論では老人の引退は社会から押しつけられたもので自発的なものではないと説明している。活動性理論では第1に「生物学上の変化や健康の変化のような不可避的な場合をのぞいて、老人は中年の人びとと同じ心理的社会的要求をもっている」(袖井、1975 )のである。第2に「やむをえず、いくつかの活動を放棄しなければならない場合、適切に年をとる者はそれに代わる活動を見いだす」(袖井、1975 )のである。
こうしたことに基づいて活動性理論は生活満足が一般的に活動の量と内容によって影響されることを、レモンとベングソンとピーターソン( 1976 )は次のように主張している。すなわち活動性理論の本質は、活動性と生活満足の間に正の関係があり、そして役割の損失が大きくなると生活の満足は低下するのである。活動性理論の検証はレモンら( 1976 )の方法では、活動のさまざまなタイプを区別することに注目している。活動性は日常の肉体的、個人的維持によってみなされるパターン化された行動や規則的な行動として規定される。この研究は三つの分離された行動タイプを含んでいる。すなわち、
(1) 親戚、友人、隣人との社会的相互作用を含む非公式的活動
(2) 公式的自発的組織における社会的参加を含む公式的活動
(3) テレビを見たり、読んだり、自分1人でする趣味のような単独の活動
こうした設定にもとづき調査を行ったが、最初に日本人の老人の余暇活動をみると、マス・メディア接触活動、趣味としての単独の活動、家族と近所のように身のまわりに限られた非公式的活動が多く行われたが、社会への参加のような公式的活動は非常に低い。こうして老人の日常活動と日常の満足感との関連性をみるための連関係数分析結果では、多くの活動を行っている分野での活動性が高いことが示されている(表6)。すなわち単独活動、身のまわりの人間との相互作用活動にとって活動性は顕著であり、公式的活動では仕事の関連では活動性がみられた。こうしたことから老人はマス・メディア接触活動において先に述べた活動性理論の特性をもっていると考えられる。この結果は利用満足理論の受け手の前提条件に間接的な支持を与えるものである。
レモンら( 1976 )の調査結果では友人との非公式的活動のみで活動性理論が検証された。逆に親戚、単独活動などでは、日本でみられた活動では理論は検証されなかった。このことは先にのべたマス・メディアへの依存の低さ、狐独な老人が多い米国社会の姿を浮き彫りにしている。
先に老人の視聴動機を分析したときに、人間関係に関する動機が低いことを指摘したが、一つの試みとして諸活動とテレビ視聴動機の関連を分析してみた。この結果、非公式的活動はいうまでもなく公式的活動においても、人間関係に関する動機との関連が高いことが示唆されている(表7)。なお、参考までにマス・メディア接触行動との関連では、人間関係的動機の関連は著くし高くない。このことはマス・メディアの主な機能は情報、娯楽であることを包含している。またマス・メディア接触行動は主に視聴動機の能動性尺度と関連しており、メディア利用に関して個人的エネルギーの強さが影響している。情報追求についても「知的代謝能力、これを支える情報処理能力」(池内、1974 )の重要さが暗に示唆されている。
(2) 老人視聴者のテレビにたいする能動性
これまで老年社会学との関連から活動性が考えられるが、テレビ視聴行動そのものから分析が必要になる。このためレヴィーとヴィンダール( 1984 )によって提出された能動性尺度をもとにみてゆこう。
一般に能動性は継続であり、とくにメディアと受け手自らの自発的選択性を意味している。テレビ視聴行動における能動性は社会体制との関連でなく、心理的・日常的レベルからとらえるべきである。能動性は意図、重要性、固執性などからも測定されるが、レヴィーとヴィンダールは、受け手の能動性を接触前活動(変数1、2)、接触中活動(変数3、4)、接触後活動(変数5、6)に分けて測定した(図5)。
これら三つの活動における平均値は、4.1、3.6、3.6 であり、いずれの尺度も中間点 3.0 を越えている。またこれらの%では、「全くそう思う(しばしばである)」、「どちらかといえばそう思う(ときどきである)」といった合計は、79.2%、70.0%、55.4 %となり、半数にあたる 50 %を越えたかなり高い値を示している。一方、「全くそう思わない〈全くない)」「どちらかといえばそう思わない(あまりない)」の合計は低く、この二つのグループの差は大きい。
こうしたことから推察されることは、第1にすべての老人の受け手は能動的ではないが、過半数をこえる受け手が能動的であることを提示している。これは先に述べた利用満足理論の前提に一定の支持を与えるとともに、老人が従来のステレオタイプと異なり、老人視聴者がある程度能動的であることを示している。第2に能動性の各側面は異なっている。なかでも選択性が一番高く、能動性の有力な側面である。第3にこうしたことはコミュニケーション状況において、さまざまなタイプが存在し、マス・コミュニケーション利用の結果がさまざまであることを意味している。受け手の多様性は利用満足理論の特徴である。第4に老人の視聴者はニュース視聴などで老人の接触時間が高いことが例示されているが、要求、動機、充足の面で能動的であることが示唆されている。またレヴィーとヴィンダール( 1984 )のデータは老人を含む一般サンプルであったにせよ、これと比較しても日本の老人のテレビにたいする能動性は高い。
Ⅳ 要約と結論
以上の主な知見をまとめると次の通りである。
(1) 情報、娯楽動機が主要な動機である。
(2) 日本における視聴パターンとして情報型、娯楽型、人間関係型である。
(3) 米国における視聴パターンとして娯楽と情報動機が結合している。
(4) 動機そのものの水準は日本人老人の方が高い。
(5) テレビに関する基本的動機は年齢、性による影響をあまり受けていない。
(6) 動機と番組視聴とは関連がある。
(7) 老人においては動機と充足とは異なる構造を示している。
(8) 日本人独自のテレビ視聴のなかにも能動―受動の意識がみえる。
(9) マス・メディア接触行動はある程度、活動性理論を裏づけるものである。
(10) 老人のテレビ視聴行動は一般に能動的なものであることが示唆されている。
かつて詫摩( 1983 )は「老人が望んでいるものはいわゆる老人向け番組でなく、自分たちより若い世代のものたちに自分たちのことを知ってもらうような番組のようである」(下線筆者)ことを提言し、池川( 1974 )も老人が余暇におけるレクリエーション活動を必要とする根拠として、老人のパーソナリティの若さが保存され活気づけられなければならないこと、余暇活動が個人のもつニードと具体的に連鎖しなければならないこと、老人が選択権をもって自分の意志で参加すべきことを提案したが、今回の研究ではテレビ利用の点から、こうした問いに実証的に答えるものになっている。ルーヴィンとルーヴィン( 1981 )が指摘するように、老人視聴者の研究は、年代的な見方よりもむしろ新しい知見を示すことを必要としている。すなわち、(1)老人のパーソナリティ理論や(2)環境によるものなどが、さらに老年社会学理論に結びついて検討されなければならない。今後実証的知見を継続的に蓄積し、詳細に老人のテレビ視聴行動に接近してゆくことが望まれる。
最後にこの研究は昭和 58 年度放送文化基金によって行われたものであり、謝意を表したい。
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出典:時野谷浩「老人視聴者の動機・充足に関する研究―利用満足理論による検討―」『社会老年学』No. 23, pp. 52-64。